3話 魔法適正
あれから一年が経った。剣の稽古と座学で一日が過ぎていったのは気のせいだろうか。訓練も素振りだけではなく、走り込みや攻撃の躱し方とかが追加されて、楽しくもなってきている。
毎日充実した日々が続いていたが、今日は王宮の裏庭に連れていかれていた。
「エイリス様。本日から魔法についても学んでいただきます」
そう口を開くのは王国魔術師隊隊長のロウである。
「魔法?よく侍女達が棒の先から光を出しているようなもの?」
「はい、あれは光魔法と呼ばれるものでございます。この世には火、水、風、雷、土、氷、光、闇、惑、そして空間魔法が存在しています」
ロウは説明しながら、闇を除いたそれぞれの魔法を空中に出していく。
「加えて魔法は、自然界の現象を操ることを主としています。ですので、水よ回れと唱えると水を回転させることができます。知識さえあれば火や土、その他の魔法も自由自在に操ることが可能です」
「そして先ほど棒とおっしゃいましたが、正式にはそれは杖でございます。杖にも種類があり片手で持てる短いもの、少し長くなったロッドと呼ばれるもの、自分の身長ぐらいの長杖に、巨大な魔法を行使するための設置型の杖までございます」
「実際には杖の形でなくとも体に触れていれば小枝でも、小石でも魔法は発動可能です。要は体と自然界との媒体ですね」
「そもそも自然界とは何かというと、目には見えないマナと呼ばれるものが浮いていて、それが色々な現象を引き起こしていると考えられています。ですので草木が多い森には豊富にマナが存在しているのです!」
ものすごい早口で説明されたが、実際のところ半分しか理解できていない。戸惑っていると横からセリスお姉さまが助け舟を出してくれた。
「隊長。本日は座学ではなくエイリスの適正調査ですわ」
「はっ!そ、そうでしたね。それでは始めましょうか。さあこちらをどうぞ、右手で軽く握るように持ってみてください」
言われた通りに渡された杖を軽く握る。これといって変わったところのない真っ直ぐな木の棒である。
「そうしましたら、火が燃える光景をイメージして、火の玉よ。燃えろと唱えてみてください。いいですか、しっかり想像するのですよ」
火。よく調理場や暖炉の前で見た覚えがある。とても形が捉え所のないもの…
目を閉じて目の前に赤い火を想像して唱える。
「ファイヤーボール!」
ボッという音がしたかと思うと、杖の先に火の玉が揺らめいているのが目に入ってきた。どうやら成功したらしい。
「さっすがエイリス!一発で成功させるなんて!」
「ほう、火属性に抵抗なしと… 次は水を出して見ましょうか。ウォーターボールと唱えてみてください」
「そ、その、この火はどうしたら…」
「行使した魔法は時間で消えるか、消すイメージをすると消えますよ」
火を想像していた意識を水のほうに移動させると、火はフッと消えた。続けて水に集中してみる。
「ウォーターボール!」
水玉が空中に浮かぶ。が、パシッと割れてすぐに消えてしまった。
「ふむふむ。水はあまりと言ったところか… 次は風を出してみましょうか。どんどんやっていきますよ」
「風?ですか。どんな感じのものなのでしょうか」
火と水はよく目にするので想像がしやすかったが、風なるものは見たことがない。
「そうですねぇ。例えばこんな感じです」
ロウがそういうと身体の周りをサーっと何かが通り抜けていく感覚を覚える。そう、風とは剣を振ったり、走ったりする時に感じるあれのことのようである。
風ならば意識を集中せずとも出来るような気が何故かしてきた。
「風よ!吹け!」
自分を中心にふわーっと風が舞い上がっていく。もっともっと上がるように渦を巻くように風を吹いていく。
「ほう。どうやら風魔法に適正がありそうですね。エイリス様、風は操っていて楽しいですか?」
「はい!なんだか私も一緒に飛べそうな気がしてます!」
「これは面白い。これなら教え甲斐がありそうですね。風魔法はいったんやめて、次は雷魔法を試してみましょうか」
◇◇◇
あれから各属性の魔法を詠唱し、適性を確かめていった。闇と惑の魔法は使うべきではないとされているらしいので、この二つについては調査しなかった。
私には風、光、空間魔法に適性があり、火と土はまあまあ、水、雷、氷はあまり得意ではないと分かった。
「今日はこれでおしまいにしましょうか。様々な属性を想像するのは相当な集中力を必要としますからね」
「は、はい。えっと、それでは… ありがとうございました」
今日はこれで終わりと思って振り返ると、そこには笑顔のエリスお姉さまが立っていた。
「セリスに聞いたわよ!魔法も使えて剣も振れるなんてすごいじゃない!」
「あ、ありがとうございます、お姉さま!」
「それじゃあ、今日の鍛錬に行くわよ!」
「えっ?えええぇぇぇぇ!」
私は引きずられるようにして訓練場へと連れていかれたのであった。
詠唱は「火の玉よ。燃えろ」又は「ファイヤーボール」どちらでもOKなのだ。