193話 積もる雪抱える問題
ぷにぷに、ぷにぷに。
私は男の人の膝の上に寝かせられほっぺを突かれている。
男の人といっても真の男の人ではなく、男の人より男っぽい女の人なのだがそんなことはどうでもいい。
気が付いたら私は外の長い椅子の上に寝かせられぷにぷにされていた。
つまりマリンの光魔法に当てられて気絶したってことだ。起きたら悔しさを覚えたのは言うまでもないだろう。
「ほらマリンちゃん。働いた働いた!まだまだ雪が残ってるよ。そんなんじゃあアリスちゃんのほっぺ触れないよ?」
「こんなに細かい氷の粒なんて一気に動かせるわけないじゃない!あーもう!一体どれだけあるのよ!」
「ふんっだ。酷いことするマリンにはぷにぷになんかさせないんですから!」
マリンがマナ氷の横で大量の雪を動かす訓練をしているなか私は不貞腐れている。
まあただ単にやれる事がないからキャサリンさんの膝枕を楽しんでいるだけとも言えるのだが。
「それにしてもアリスちゃんは光魔法に弱いんだね。体が魔族化しているってどんな感じなのかな?」
「特に何も変わりませんよ。ただ強い光が痛く感じるだけです。それに魔族見たいに光に当てられても死ぬことは無いですし…」
話していたら、杖を手にもって私を雪から守っていたキャサリンさんが悪戯をしてくる。
小さいながらも光魔法を少しだけ顔に当ててきたのだ。
「いたっ!いてててて!ちょっと、止めてくださいよ。小さい光でも直接肌に当たると結構痛いんですから」
彼の膝の上で猛抗議をしてぷっくりと頬を膨らます。
だがその頬さえもクリクリと指で撫でられ遊ばれてしまう。
「そんなことより、この大きな入り口は何なのですか?奥へと風が入り込んでいますけど結構な深さがあるみたいですね…」
「流石は風魔法を自在に扱える子。マリンちゃんが自慢した通りだね」
キャサリンさんは私をつつくことを止めてから目の前に氷でできた構造物の様なものを作り出す。
「ここは地下のマナ氷採掘用の村に繋がっているんだ。ここが入り口で滑り降りていくと開けた空間に出る、そこが村の中心。結構人が住んでいてここでも食料を生産できるように整えられているんだ。ここで働く人はマナ氷を採掘するのが主だけど、たまに氷を地上に運んだりもするんだよ。で、ここから新鮮な空気を送り込んでいるから定期的に僕たちが雪かきしているのさ、じゃないとみんな窒息死しちゃうからね」
小さい氷の粒が動いてからどこに何があって何をしているのかを見せてくれる。
実を言うと村の構造なんかよりもこの氷魔法に興味がある。土では奥や中が見え辛くなるが、透明な氷だととても分かりやすいのだ。
あとでマリンに使えるようにしてもらおうとか考えてしまっている私が居る。
「僕たちとか言ってますけど、基本僕一人でやっているんですからね!この人、マナ氷が勿体ないとか言って手伝うことがないんですから!」
「それでキャサリンさん。ここまで詳しく説明するってことは何かあるんですね?」
私が少しまじめな顔をして問いかけると彼女は私の顔をもちもちしていた手を止めて、顔を目の前の入口へと向ける。
「良く分かったね、本当だったらマナ氷がもうとっくに採掘されて地上に届けられている頃なんだ。つまり地下で何かが起きている、だけど僕たちが行くと生き埋めになるかもしれない。だから君たちに確認してきて欲しいんだ」
やはりそうだったか。
この人は自分で動くことはしないようだが、どこか深く考えているような雰囲気がある。
何も考えていないようでそうでない。いや、私の思い込みか?
「行かなくてもいいんですよ?僕が残ってキャサリンさんが行けば済む話なんですから!その人の言葉に吞まれたら駄目です」
「ス~?それは言わない約束でしょ~?折角その気にさせてたのに……。ん?」
私は長い椅子から立ち上がってコートをしっかりと着る。
これも何かの試練だ。そう思ってこう宣言する。
「行きましょう。誰かが困っているならそれに手を差し伸べる。それが私です。こうなったのも私が原因な処もありますし、地下の世界も見てみたいですから!」
「決まりね!スーさん、雪かきの残りお願いするわ。アリス!行くわよ!」
「はい!」
困惑するスーさんとしてやったりな顔をするキャサリンさんを置いて私たちは地下への入口へと走ったのであった。




