189話 吹雪と氷柱
登山中に雪で遊んだからか少しだけ目標地点に到達するのが予定より遅れた。
それでも昨晩は指定の洞穴を探し当てその中で一夜を過ごし、今はまた道なき道を歩いている。
昨日は曇っていたが今日の天候は最悪。
大量の雪が雲から降ってきてそれが風に乗って吹き付けてくるのだ。
視界は悪く前がほとんど見えない状況に加えて雪と冷たい風が体温を徐々に奪っていく。
山だからなのか魔法は使えず、自分が正しい道を辿れているのか怪しくなってくる。
「アリス、あれ見て、言われてた氷柱よ。道は外れてないようね!」
「みたいですね!もう少しだけ右に寄っておきましょうか!」
透き通った青色をした氷柱。
エレンさんに教わったが絶対に氷柱の近くには寄ってはいけない。
あの氷と呼ばれるものは元は人だという話で、コオリソウの花に触れた人は一瞬の内に氷漬けになり死を迎えるという。
そして花はあの氷に集まるマナを吸収して生きていくのだとか。
そう、つまり私たちの足元のどこかにはその花があり、いつ踏んでもおかしくないというかなり危険な道なのだ。
幸い繁殖範囲はかなり狭く、次の都市に到着する前にいなくなってしまうらしい。
寒い中大声で声を掛け合いながら前へと一歩ずつ進んでいく。
だがあまりの寒さに体が凍えてしまって片膝をついて倒れてしまった。
「アリス!ほら立って!こんなところで倒れたら死ぬわよ!」
「でも、足が…足が固まって動かないんです!もう手も感覚がなくて…」
「よっと!ほら掴まって!少しでもくっついていた方が暖かいわよ!」
マリンに支えられてまた立ち直る。
お互いに冷え切った体をくっつけ合う。どっちにしろ寒いことには変わりないが、それでもしないよりはマシである。
そうこうしている内にだんだんと氷柱の数が多くなってきた。
この色々な形をした氷柱は何も知らなければとても綺麗な景色に見えるであろう。
実際はあの氷の中心に亡くなった者がいるのだ。
こけそうになって手をついた恰好をしているもの。
何気なく歩いていて気が付かずに踏んだもの。
お互いに手をつないで歩いていたのか、片方が引っ張るような動作をしているもの。
凍えながらも何があったのかを想像していたらマリンに急に手を引かれて体勢を崩してしまう。
「ちょっと!そこ、花があるわよ!こっち来なさい!」
「えっ?ど、どうしてわかるんですか?ここからじゃ何も見えないのに」
「ほら、そこに水が集まってるでしょう?そこ、そこっ!」
マリンが指さした所をよく観察すると小さいながらも氷柱と同じ氷ができているのが見て取れた。
だがこれは氷だ、水ではないのだが?
「う~ん。氷って水なんでしょうか?これどう見ても堅そうなんですけど」
「またアリスの悪いところが出てるわよ、すぐにそうやって観察して考え込むんだから!そういうことは後で考えるわよ、今は踏まないように歩くの!」
「そ、そうですね。凍死するのは御免なので早く行きますか…。でも気になる!」
気になる衝動を抑えてマリンに安全な道へと誘導してもらう。
だけど、次の都市に着く頃には心身ともに冷え切って何も考えられなくなっていた。




