182話 湿った台地
昨晩からかなりの量の雨が降ったからなのか、それとも頻繁に雨が降る場所だからなのか歩いていた街道はぬかるんだ地面に変わっていた。
私たちは周りに人がいないこと良い事に地面すれすれを飛んでいた。だれも靴を泥濘に浸けたくないのだ。
「あん!もういや!なんかさっきから飛んでくるんだけど!それに痒いし!」
「え?えっと、私の風魔法でもかけましょうか?」
「いいわよ!あんたは良いわね、この小さいのに刺されないんだから」
この湿った空気を好んでいるのか小さい虫が大量に生息しているらしい。特に大きな木の周辺には苔に蔦に虫が大量に居て近寄ったら何されるか分かったものじゃない。
だけど私は風魔法で体を覆っているから小さな虫が張り付くことがないのだ。
そんな訳で速度を上げて南のあるとされている村に向かって飛んでいるが見当たらない。まだまだ先なのか、それとも道に迷ったのか。
その時マリンが何かを発見した。
「アリス見て、これ何かが焼けた跡よ。ここだけ不自然に黒いわ」
「これは、雷が当たって燃えたとかでしょうか。でも少々燃え方が大きい気がしますね」
円状の石の土台だけが残っており、その上に建っていたはずのものは跡形もなく燃えたようだ。
円の内側には黒く焼け焦げた木が微かに残っているだけで、他には何も見当たらない。
「もっと奥に行ってみましょう。なんか嫌な感じがするわ」
マリンが言う通りとても嫌な予感がする。
私たちは急いで湿地の奥へと飛んでいく。するとすぐに焼けた建物の跡が姿を現した。
この大きさは家屋だったのだろうか。土台の石だけでは何も分からないが焦げた跡の中に何かあるのを発見する。
「ちょっと、煤で汚れるわよ。それに何があるか分からないわよ」
「今何か白いものが見えたような気がして…。何があったのか気になりませんか?」
黒い粉が巻き上がるので風魔法は使わずに折り重なっている焼け焦げたものを手で押しのける。
下敷きになっていたそのものの表面を撫でると白っぽい何かが出てきた。だがこれは一体?
「これって、何でしょう?硬いし黒いし…」
「アリス、そこから離れなさい……」
「そんな、何もしてきませ……きゃあああ!」
マリンの方を見てそのものから目を離した瞬間に足を強く掴まれる。
ごつごつした手のような何かは私の足を握り潰すかの勢いで力を込めてくる。
「は、放して!それっ、っていったあああい!」
何がどうなっているのか分からずに掴んでくるそれを思いっきり手で殴ってしまった。私の手はそれを砕くことなく逆に指が砕けるような痛みを味わってしまう。
「アリス!どいて!そりゃあ!」
マリンが思いっきり長杖を振りかざして握ってくるそれを破壊する。
鈍い音を立てて壊れたそれは地面に散らばって動かなくなる。そして私はすぐに立ち上がってマリンの背中に回り込む。
「あ、あれ何なんですか!」
「あれは……人の骨よ、アリス」
「ほ、骨?焼け死んだ人のってこと?でもどうして動いてるんですか!」
その動く骨は何か力を得たかのようにして立ち上がってくる。骨なのに力強さを感じられるのはどうしてだろうか。
というかどうやってこの骨は浮いているのだ?どう見ても繋がっているようには見えないのだが。
「ほら早く!観察してないで逃げるわよ!」
「えっ?あ、はい!」
両腕を上げて私を掴もうとしてきたのでこちらは相手の手の届かない所まで素早く浮き上がる。
それでも執拗にこちらを見つめて追いかけてくるのは何か理由があるのだろう。だがかまっている暇はない。
木の枝に当たらないように飛んでいくとそこら中から骨が起き上がって私を追いかけてくるのが見える。この光景には流石の私も恐怖を覚えてしまう。
「アリス止まって!あ、あれは、何なの?」
「ゆ、ゆうれい!なんで青く光って飛んでいるんですかっ!ていうか何で村が焼けて無くなってるんですか!!!」




