174話 つかめない尻尾と路地裏
マリンちゃん視点
大混乱の闘技場に足を踏み入れた時には一歩遅かった。
あともう少し早ければと後悔したが、飛び去って行くアリスの姿を見て安心している私が居るのも事実。
冒険者ギルドに助けを求めたけどお尋ね者なんか助けられないと突っぱねられたし、街中では殺気溢れる戦士達が血眼になってアリスを探している。
これなら誰かが見つけて彼女が罪を重ねるよりもどこかへ逃げて何もしないほうがマシだと思えてきてしまう。
この広い都市の中でたった一人の人を探し出すのは至難の業である。特に相手は透明化の惑魔法が使えるのだ。むやみやたらに歩くべきではない、だけど彼女が行きそうな場所の当てもない。
考え込みながらふらふら歩いていたが、ふとあることを思い出す。
「そういえば、路地が嫌いだったわね」
港町で食べ歩きする時でも彼女は路地がある方を歩こうとしなかった。道の真ん中が好きなのかと思っていたけど、ある時から路地にも入っていくようになって不思議に思ったものだ。
アリスみたいに空を自在に飛べない私は路地に入るのに少しだけ勇気が必要になる。特にこの灰色の都市は昨日到着したばかりだから迷ったら出られる保証がないからだ。
それでも私はあの子を求めて路地に踏み入れる。
そして灰色の迷路ですぐに迷ってしまう。
しばらく歩いてても永遠と続くように感じられる迷路に飽き飽きした頃、項垂れている四人組を見つける。
いや、項垂れているのではない、何者かに襲われて倒れているのだ。
「ちょっと貴方たち、大丈夫?」
「これが大丈夫に見えるか?くそっ、半殺しにしやがって……」
四人の流れ出ている血を止めるがそれぞれやられている箇所が違う。
一人は腹、もう一人は足、残りの二人は腕。
それぞれの部位が執拗に狙われたようだ。どうして満遍なく攻撃せずに一部だけなのか。
「おい、あんた、あの闘技場に出た女狂戦士を知ってるか?あれが近くにいる。こうなりたくないなら逃げろ」
「いるのね、この近くに。だったら行かないと」
「あなた馬鹿なの?あいつの恨みは相当よ!あんなのに関わるもんじゃないわ」
彼らが恨みだとか言うがそんなことはどうでもいい。アリスが近くに居る、それだけで私が行く理由になる。
「貴方たちがアリスに何をしたかは知らないけど、生きている内に早く治療して逃げなさい。私がここを離れるとまた血が出始めるわよ」
私がここを離れると彼らは各々支えあって逃げていくのが感じられた。
でも恨みって、彼女は何をされたのか。そんなに酷いことをされたのか?助けた後に聞き出さないと。
周囲を警戒しながらアリスの痕跡を探す。彼女の体はもうすでに記憶してあるから探し出すのも安易なはず。
って考えていたらすぐそこに居た。
壁に頭を打ち付けながら頭を抱えている。これは、もしかして何かに抗っているんじゃないか?
「アリス、見つけたわよ!操られていないでさっさと我に返りなさいよ!」
「まりん…?まぞく…?どっちでもいい、わたしとあそんでくれるの?あそびたい…もっと!」
魔族に操られてとうとう精神までおかしくなったのか。
いや、これが本当のアリスだとしたら?本当はもっと甘えていたかったりするのか?
遊ぶなんて一度も彼女が言ったことはなかったから知らなかった。ならば叶えてあげようじゃないの、彼女の望みを。
「いいわよ、遊んであげる。その前に正気に戻ってもらうわよ!」




