172話 vs.魔術師と小柄な槌使い
「土よ、地を揺らし足を絡め取れ!」
闘技場内に火と土魔法が放たれる。
同士討ちをする姿を惚れ惚れとした表情で見ていた悪魔は動揺することなくその場に立っていた。
「やった……ってやられてないじゃないか」
「地に足がついていないとは、卑怯な!」
「あら、今度は魔術師さんにドワーフの戦士の方?魔法の勝負なら負けませんよ?」
ドワーフの戦士が先陣を切って槌で攻撃を仕掛ける。その槌の先端には土魔法が用意されていて、振るう度に土魔法が様々な形になって悪魔を襲う。
その後ろからは火に雷、水といった威力の強い魔法が畳みかけるようにして飛んで来る。
だが悪魔は楽しむように魔法を魔法で打ち返し、剣で魔法を切り刻んでいく。
雷魔法には土を、火魔法には風と土を。それぞれが魔法を撃ち合い会場は衝撃波で震え始める。
「おい魔術師!もっと強力なのを放て!いつも俺とやり合うときは派手にしてるじゃねえか!」
「あれは演出だ!純粋な破壊力が欲しいなら沢山撃ちまくるんだ!おおっと!」
魔法の撃ち合いに飽きたのか金髪の悪魔が風魔法に乗って魔術師に対して斬り込んでいく。
魔術師はとっさの判断で土を盾代わりにして一歩ずつ後退する。
しかし防戦も長くは持たない。下がり続けた彼の背中には壁が迫っていたのだ。
剣が土を貫こうとしたその瞬間、地面が盛り上がり始めた!
「土よ、高い壁を作り、彼らを空高く吹き飛ばせ!」
「水よ、我を包んで受け止めろ!」
悪魔は何事もなかったかのように風魔法の力で地面に降り立つ。
魔術師は落ちる速度を弱めるために水魔法を使ってなんとか着地をする。そして彼はあることに気が付いた。
「そこの君!魔法は得意のようだが、水だけは扱えないようだね!」
「……水。水っ!」
「そこだ!水の流れよ、彼女を押し流せ!」
「……マリン!」
水という言葉に反応して動きが固まった悪魔に対してすかさず水流で攻撃する。
彼女は水に飲み込まれ闘技場の壁に激突する。
「あ、あいつは水魔法が弱点なのか?でも俺は使えんぞ」
「分からん、だがまだ生きているようだぞ。気をつけろ」
「えっほ、えっほ。ああもう折角の衣装が台無しじゃない!それに体の主権を奪おうとして、厄介ね!でもあの女で思い出すなんて、あそこで殺しておけばよかったわ」
ずぶ濡れになった金髪少女は悪態をつきながら歩いてくる。それに続くように周りにあった水が無数の小さな水滴となって宙に浮き始める。
「私の洗脳の邪魔しないでくれる?さっさとくたばりなさい」
「まずい!炎の壁よ、我らを守れ!」
「おうおうおう、何だよあれ!土の壁よ、厚くなり我らを守れ!」
雨よりも速い速度で飛んでくる水滴を土と炎で防ぐ彼ら。
しかし抵抗空しくそれらの壁はすぐに打ち破られる。
「くそぉ、これには適わんな。動けるか?」
「動けていたらもうここから逃げているさ。さて、どうする?」
「あら、まだ生きているの?しぶといわね。これだから人間は嫌なのよ」
体中に無数の穴が開いた状態でもまだ戦う意思が残っているのは戦士だからであろうか。
そして彼らは最期の反撃を試みる。
「水よ、奴の心臓を…」
「土よ、手足を縛…」
「闇よ、彼らの視界を奪え」
深い紫の煙が彼らを包むと、それは彼らを漆黒の闇の世界へと誘う。何も見えず何もできない彼らは狼狽える事しかもうできなくなっていた。
「風よ。彼らの呼吸を止めろ」
怒りと憎しみを以て放たれた風魔法は紫色を纏って彼らを苦しめる。
彼らは闇と風によって儚い一生を散らされたのであった。
「どうして、私の推しが!いやあああ!」
「俺の賭けの当たりが!」
「これどうすんだよ!他にあいつら以上の戦士は…」
「あ、あいつがいる!無敗の女だ、彼女はどこだ!」




