171話 vs.槍戦士と狩人
どがっ
有無を言わせぬ勢いでオオカミ男が渾身の蹴りを悪魔に叩き込む。
あまりの速さに反応ができなかったのか、金髪の悪魔は後ろに飛ばされて腹を抑えている。
「あ~あ。ほらほら、抵抗すればするほど死に近づいちゃうよ~?にしても記憶のように速く動けないね。どうしてかな~、あっ風魔法か!教えてくれてエライエライ」
「ちっ、女の体の癖に中々に硬かったぞ…。どんな鍛え方してやがんだ?」
「お前の力が弱っちいの間違いだろ。ほらどいてな、生身相手なら何でも真っ二つにしてくれるわ!」
そう抜かしている鎧男は持っている武器を大きく振り上げる。
そして次の瞬間にはその腕が武器ごと地面に落ちていた。
予想外な出来事に静まり返る観客。
一人だけ激痛に抗えずに叫ぶ戦士。
「ほ~ら斬れた斬れた。どう?楽しいでしょ?抗えないでしょ?あっはっは!動きたくてしょうがないみたいね!」
「な、なんなんだこいつ!人じゃねぇ、バケモンだ!助けてくれぇ……ぇ……」
及び腰になったオオカミ男の腹から剣先が突き出てくる。まるで先ほどのお返しと言わんばかりの報復攻撃のようだ。
「おいおい嘘だろ?これじゃあ瞬殺じゃないか」
「俺の、俺のかけ金はどうなっちまうんだ!」
「まったく、運営から声がかかったと思えば化け物の対処だなんてね」
「ほんとよ。緊急事態なんて言うから何かと思えば少女の相手だってよ」
二人の戦士が地面に伏した瞬間、また二人の戦士が闘技場内に現れる。
一人は槍使いの男性。白と青の縦線が入ったローブを着て、整った顔つきの男。
一人は弓使いの女性。茶色いホットパンツに緑色の上着を着た、いかにも軽い女。
「あら?新しい獲物かしら。うふっ、そんなに暴れたいの?いいわよ、少しだけ体の主権を戻してあげる」
悪魔が変なことを呟いたと思えば彼女の剣が槍使いの首に届きそうになっていた。
けれども飛んできた弓矢に対処するためにそれは首ではなく矢を真っ二つに切っていた。
「ちょっと、ぼさっとしてないで本気出しなさいよ!援護はしてあげるから仕留めなさいよね!」
「おっとっと、ここまで速いとは。気を抜いていられませんね!」
一本の長い槍が双剣の動きを封じるように突き出されていく。
時折鋭い矢が悪魔に向かって飛んでいくがどれも剣で軽くあしらわれてしまっている。
激しい突き合いの末に槍使いが槍の持ち方を変えた。
端で持って距離を稼いでいたのを中央に持ち替えて攻撃に転じたのだ。
突くような攻撃から回転するような攻撃に変化し、剣では受け流しにくくなっている。
「あははっ!楽しい!楽しいわ!死と隣り合わせなのってほんと劇的!」
金髪の悪魔は相手の攻撃を剣で受け止める事をせず、全てを持ち前の体の柔らかさと風魔法で避けきっている。もはや避けることを楽しんでいる様にも見えてくる。
「何故だ、何故当たらない!うおぉぉぉぉぉ!」
「馬鹿!自棄になって攻撃したら…!」
後ろから援護していた狩人の弓使いが無理な角度からの援護を強要される。
動きが大きくなった槍使いを制止するように矢を放つ、だがそれにより自分と悪魔との距離が近くなったのを彼女は気づいていなかった。
「……っは!まずい!」
槍使いと悪魔の距離が離れたことによりできた少しの間。
悪魔はそれを見逃すはずがなく猛烈な速さで弓使いに切り込んでいく。
「いやっ!来るなぁ!」
「や、やめろーー!」
左手で持っていた弓で一発目の振りを防ぐがすぐに弓は折れてしまう。右手で矢を握りしめて首元を狙って振りかざす。
振られかけた剣が彼女の手を切り落とすことはなかった。だが彼女は見てしまった、不吉に笑いながら横に逃げる彼女の顔を。
「あうっ!」
「ぐはっ!」
女の子の腹には長い棒が、男の首には鋭利な矢じりが突き刺さる。
お互いに勢いがついた状態だったのか、どちらも勢いよく血を流して倒れてしまう。
「あらら、勢い余ってお互いを殺しちゃうなんて。残念な人」
「貴様!暴れまわるのもそこまでにしろ!火炎の玉よ、飛んでいけ!」




