153話 尾行される
全身全霊をかけて手紙を書き上げた頃には既に日が傾き夕方になっていた。
沢山頭を使ったのでお腹がすいてしまったので、今は外に出てからお食事処を探しているところだ。
だが最初に来た時のように全然お店が見つからない。
私が看板だけで探しているのがいけないのか。それならいっそ家の扉を叩いて開けてみようかと考えるが民家だった場合が恥ずかしい。
何かないかと右往左往して街中を歩いていたのだが途中からあることに気が付く。
「マリン。分かります?」
「え?なによ。何を分かれっていうのよ」
「あれ……流石に気が付いていたと思ってたんですけど、もしかしてあまり背中に気を張ってなかったりします?」
マリンにだけ聞こえるように小声で話しかけたが、彼女はあまり周りの事を気にしていなかったようだ。
だが確実に後ろに誰かが後をつけているのが風魔法を通して感じられるのだ。
私は敢えて気付いていないふりをしながら街の細い路地を歩いていく。
マリンも追われている事が分かったのか杖を持つ手に力が入っているのが見て取れる。
「どうすんのよこれ。『あー、いいお店が無いわね!』」
「分かりませんよ、相手の出方次第です。『ほんとですよ、露店がほとんど見当たりませんね』」
小声でどうするかを話しながら少し大きな声で普通の会話をしている様に演じる。
…演じているとバレないといいのだが。私の演技って上手だよね?
大げさに見えるような演技をしながら路地の曲がり角を曲がる。それと同時に後ろから追ってきていた人が急激に接近してくるのが伝わってきた。
その者は音も立てずに走ってきて私に向かって短剣を突き刺そうとする。
が、既に風魔法の壁を張ってあり私の体にはその刃が届くことはなかった。
「こんばんわ。えっと……お、お嬢さんでいいのかな?!」
「そんなに驚かなくて……私より若そうよ!」
「くっ!気づかれてたか!」
振り向きながら襲撃者に声をかけるがその容姿に驚いてしまった。マリンが言った通り、私より一つか二つ下の女の子が短剣を握っていたのだから。
この子は気付かれてたことに一瞬動揺したがすぐに私達から距離をとって逃げる態勢に入る。
だが、それを逃がす訳がない。
「風よ。足を縛り上げよ!」
「きゃ!な、なにこれ、は、放して!」
風魔法で足を掬って縛り上げる。実際に縄で縛る訳ではないので見た目では分からないが、縛られている側からしたら強烈な風で足が抑え込まれるのは恐怖を覚えるだろう。
「これどうすんのよ?カリンさんの元に持っていく?」
「それもいいですけど、私を狙った理由を聞き出しておきたいですね」
私が近づこうとしたら捕まっている彼女は右手で持っていた短剣をマリンに向かって投げた。
反応速度が遅いマリンに変わって腰に下げている剣でそれを弾く。が、次の瞬間、甲高い笛の音が路地中に鳴り響いた。
ピーーー
「うわっ!ううう、嘘でしょ!こんなに潜んでいるなんて聞いてませんよ!」
「それよりも、この数はやばいんじゃないの?こんな狭いところじゃ逃げられないし」
笛の音を聞いた襲撃者の仲間が屋根やら通りやらに出現して武器を構えている。
そして間髪入れずに私に向かって短剣や矢が放たれた。
風魔法と右手に持っている剣で防ぐが数が多すぎる。このままでは誰かが近接戦を仕掛けてきたら矢が背中に刺さるのは必至である。
この状況を打破するには……でも……
「マリン!ごめん!置いて行っちゃうけど、許して!」
「な!私は大丈夫だから、待ちなさいよっ!」
マリンに一言告げてから返事を待たずに風魔法を使って屋根の上に飛び上がる。
もう、心の奥底から湧いてくる感情に抗えそうもない。
分かっている、人として終わっている。こんなことをする王女なんて王女じゃない。最低な人間だ。
だけど。
「あなた達全員、歯向かったこと後悔させてあげる」




