139話 下準備
地下に響き渡るのは金属がぶつかり合う音。ドワーフ達がひっきりなしに鎚を振るって大きな物を組み立てているのだ。
私はマリンと再び旅をすることを決心し、攻勢に出るための下準備をしている冒険者の輪の中に入ることにしたのである。
しかしこれといってするべき事が見当たらない。殆どの人はカリンさんから仕事をきっちりと割り振られているからだ。
「カリンさん、あの~」
冒険者ギルド二階にある会議室の様子を窺うようにして声をかける。
堂々と入ればいいのだが、少し考えさせてと言ったから、なんとなく気が引けているのだ。
「ん?アリスか。どうだ、この作戦に参加してくれるか決めてくれたか?」
「はい!一緒に戦うと決めました。やっぱり、皆さんを見捨てるわけには行かないので…」
「そうかそうか!やっぱりそうだと思っていたよ!それじゃあ、第一突撃隊の精鋭としての役割を与えようか」
「え?わ、私が先発を…?」
そう、次の作戦はかなり危険な作戦なのだ。
第一突撃隊と第二補助隊に分かれて、地下中央にある光の塔を奪還しに文字通り飛んで行くのだ。
つまりは敵の本丸に突っ込んで瘴気を払い、魔族を指揮している指揮官なる奴を討ち取るというものだ。
現状、魔族がかなり数を減らしており襲撃もしてこない。そして我々にはもう防衛し続ける力もないので短期特攻の決戦に持ち込んでしまおう、というかなり無謀な作戦である。失敗すれば全員が死を迎えるだけだ。
「そうよ。光魔法をこんなに使えるのは貴女だけなんだから当たり前でしょ?それに他の人は光の玉入りランタンを携行する予定だし」
「ですよね。第二補助隊の為にも先に行かないと行けないんですよね……」
そう、先発で飛んで行った私達を追いかけるように後から第二補助隊が送られてくるのだ。
彼らの目的は光の塔の周辺の安全確保と装置の復旧だ。つまり戦闘が得意でない者も含まれているので先発部隊が暴れまわって敵の注意を引き付けておかないといけない。
「まあ、実際あの塔が使えるかは分からないけどね。もしかしたら魔族が使えないように破壊してるか改造してるかもしれないね。まあ、あの連中なら何でもやってのけるだろうさ」
「因みに……飛んでいくのはいいんですけど、皆さんはどうやって着地を?」
「ああ、それに関してはマリンに全て任せてある。彼女の水ならどんな速さで突っ込んでも大丈夫だろう」
…なんだろう、とても不安しかない。
いざとなったら私も風魔法で支援できるから問題は無いと思うが……。
「おっと、そうだ。まだ発射装置を見ていなかったよな?一緒に出来具合を見に行くかい?」
「はい!」
カリンさんに誘われてギルドの外で作られている装置を下見に行く。
現場では大量の金属と大きなスプーンの様な物が何個も置かれていた。
「皆!作業の方はどうだ?もうそろそろできそうか?」
「おうよ!威力も十分に出るぜ。しっかりと目的地まで飛んでいけるはずさ」
カリンさんが声をかけるとドワーフさん達の威勢のいい返事が返ってくる。彼らはモノを作っているときがとても楽しいのだろうか。
そしてでかいスプーンの中には青髪の少女が何故か入っていた。
「アリスー!これ凄いわよー!あなたも驚くぐらいの速さで空を飛べそうよー!」
多分、水魔法のクッションでも出してから装置の試験をしていたのだろう。
というか、私より速く飛べるってどんな速度なのだろうか。
まあ、もうすぐでそれを経験する事になるんだけどね…




