134話 瘴気の元
ぺたりと冷たい床に座り込んで息を整えている。
目と鼻の先に死が迫っていたことを考えると恐ろしくて身震いしてしまう。
実際に死ぬのかは実を言うと分からない。私には守護の腕輪があるので死にかけても生きるはずだが、自分から試したくはない。
「アリス……その、ごめんなさい」
「どうして謝ってるんですか。謝るのはこちらですよ、私の力が及ばなくて危険な目に遭わせかけたんですから」
「いえ、私がいけないの。万能でいつもなんでもこなす貴女に頼りっぱなしで、今回も大丈夫だなんて勝手に思っていたんだから。自分も成長しないと駄目なんだって学んだわ」
お互いに手を繋ぎあってごめんなさいをし合う。
なんでこんな事をしているのか分からない。多分瘴気と極度の緊張のせいで心がおかしくなっているのだろう。
「二人で仲良くしているところ悪いんだが、魔法が使えるアリスに用があるんだが」
「はい?」
「こいつらだ、この黒い布で包まれた人を焼いてやって欲しい」
黒いというよりかは深い紫に近い色の布で覆われた人間、これが瘴気の元のようだ。
これから瘴気が出る原理は分からないが亡くなった人は亡くなった人だ。しっかりと弔おうじゃないか。
一か所に集められた死体を前にドワーフ達は祈りを捧げる。
この中には彼らの仲間も居るのだろう、同胞を失う気持ちは計り知れないが、とてつもなく喪失感が強いだろう。
「共に戦った皆の者よ!安心して眠ってくれ。我々はまだ希望を失ってはいないからな」
私はそっと火魔法をかけて遺体を燃やし始める。中を見なくていいように優しく火で包んでおく。
付けられた火は勢いよく燃え上がり全てを灰に変えていく。
「よし、これでいいだろう、灰も集め終わったし、坑道も荒らされてはいなかったみたいだ。帰ったらいい報告ができそうだぞ」
「その、鉄はとらなくてもいいんですか?」
「ん?ああ、どんなに鉄鉱石があっても炉がないと始まらんからな。まずは光の塔を取り戻すことが先決だな」
そいうえば気になっていたが、炉は私たちが入ってきたあのでかい煙突のことじゃないだろうか。それと光の塔についてもあまり知らない。
「炉はどうして使えないんですか?あれはどう見ても私たちの拠点近くにあったはずですけど」
「あれは稼働させることはできるんだ。でも稼働させたところで魔族が頻繁に襲ってくるから止めてあるんだ」
そうか、あの長い煙突で影ができて、そこから魔族が湧いて出てくるのか。あの炉が動いているのは遠目からでも分かりそうだし、いい標的になってしまうのか。
「それを防ぐためじゃないが光の塔ってのがあってな、あれはこの広い地下を全て照らせるほどの光を放っていたんだ。それが突然消えてこの有様よ」
「でも、どうして消えたんでしょう?魔族が直接近づけるものじゃ無いはずですし」
「さあな、でもあの王国騎士団が視察に来てからおかしくなったのは間違いねえ。奴隷を大量に運び込んだのも瘴気を作るためなんじゃないかとか思えるんだ」
彼らはそんなことを何故するのか?お姉様達が指示したのなら一体何が目的なのか?何故ここを封鎖するだけにしなかったのか?
これじゃあまるで人間を減らしたいみたいじゃないか…
私は考え込みながら帰路に就くが、重大なことに気が付いた。
お腹がとても空いている。




