124話 剣と鉱石
問題は突然やってくる。
事前に警告してくれる問題なんかあるわけがないが、それでも突然にやってくるのは勘弁して欲しい。
最近は冒険者ギルドで普通の依頼を受けて町に貢献をする、という普通の生活を送っていたのだが…
「キャロラインさん!どういうことなんですか!」
「最近になって鉄が入ってこなくなったのは知っていたけど、こっちとしてもこんなに早く影響が出るなんて思ってもなかったのよ」
そう、鉄がないのだ。いや、鍛冶屋に剣が置かれていないが正しいか?
残っていた武器は全て生活用品用に溶かされてしまったらしいから、武器が一つも売っていないが正解かもしれない。
「そ、れ、に!冒険者ギルドで話を聞いてこいって鍛冶屋さんに言われるってことは、絶対に何か事件があったってことですよね!」
「…そうよ。斥候職の冒険者に調査を頼んだんだけど、帰ってきたのは”鉱山が封鎖中。内情を探る”の手紙だけよ。それから音信不通になってるの」
因みに私が興奮して捲し立てているのは怒っているからではない。こんな大事な事をどうして私に伝えてくれなかったのかって言いたいのだ。言えないけど。
「なら、私が調査しに行きます!剣が無いのは不便だし、皆さんの生活も大変なことになっちゃいますし!」
「駄目よ!そんな危険なこと貴女にはさせられないわ!ここで大人しくしていなさい!」
「そうよ。アリスが首を突っ込むことはないわ。そもそもどうして何時も面倒事に巻き込まれようとするのよ」
うっ…。それは答えようがない。王女として国民の生活が脅かされているのを見過ごせないなんて言えない。
どう説明しようかと迷って目を泳がせていると、マリンは溜息をついてこう言った。
「またあなたの隠し事?何か隠してるのは知ってるし聞かないけど、そこまでする理由だけは話してもらいたいわね」
理由…。
私が最終的に果たしたい目標のことでいいのだろうか。この際だから一部を隠しながら、本当のことを言ってみよう。
「私の家族を…姉妹を助けたいんです。私は旅をして強くなりたいんです!だから、面倒事だろうと引き受けてもっともっと修行したいんです!」
マリンの目をずっと直視しながら私の言葉を伝えきれない。まだ真実を隠しているという後ろめたさが心に残っているのか。
「分かったわよ。乗りかかった船じゃないけど、あなたと旅をするって決めたんだもの。それに、家族を失う事は辛いってよくわかるから」
「マリン…わがままでごめんなさい。でも、その時が来たら必ず説明するから。約束するから」
二人でしんみりとした雰囲気になっていたが、蚊帳の外になっていたキャロラインさんが咳払いをして注意を向けさせてきた。
「こんな事はしたくないんだけど、仕方ないわね。冒険者ギルドとして貴女方に命令を下します。ここから南に下って山岳鉱山街へ行き、異変を解決すること。加えて所有している杖を強化すること。あそこの街には宝石を加工できるドワーフが居るわ。その人たちを頼りなさい。付け加えると、あの街にも冒険者ギルドがあるはずよ。まずはそこに行って話を聞くこと、それと連絡は寄越すこと。」
「ありがとうございますキャロラインさん。必ず生きて帰ってきますから」
「帰って来なくていいわ。強くなりたいならもっと旅をして経験してきなさい」
帰って来なくていいと言われてちょっぴり寂しい気持ちになる。ここの町は今まで訪れた町の中で長く滞在した場所で、居心地の良い町だからだ。
でも旅立たないといけない。私が抱えている問題と向き合い始める時が来たのだ。
それがどんなに辛くて怖くて大変だったとしても、仲間と一緒に乗り越えていけばいい。もう一人じゃないんだ。
「よし!じゃあ出発の準備ですね!明日には出られると思います!」
「……勢いがあるのはいいけど、食料とかはどうする気なの?あそこまでは一週間以上はかかるわよ」
「えっ?」
隣の街ってそんなに遠いの?それともクロプタウンとフラト街が近かっただけなの?
とにかく料理は沢山買い込む必要がありそうだ。




