117話 海賊の砦
ズリズリ ズリズリ ドスッ
意識を失って起きることが多い様な気がするが気のせいだろうか。
今回も例外ではなく、痛む体に起こされて目を開ける。手や足、腕を縛られ地面に捨てられている状況らしい。
一部だが他の冒険者の姿も見える。全員が縛られていて、これは捕まったというやつだろうか。
「お頭!運び終わりやした!」
「ご苦労。では始めるとしようか…」
かなり低い声を発するその人は、黒く日に焼けた肌が印象的な40代の男の人。この人が海賊の長というところか。
それに潮風に当てられて傷だらけになったコートと腰に下げている湾曲した剣が特徴的だ。
「さて…資材を頑張って運んできたようだが、まさかついでに冒険者までも運んでいるとはな。偉そうな帽子を被ってる船長さんや……何が目的か正直に教えて貰おうか」
「もう分かっているんだろう。どうして改めて教える必要がある」
ぶっきらぼうに船長が返答する。従うことを拒否している感じだが、長は不気味な笑みを浮かべている。
「そんな返答でいいのかな。口の利き方を間違えると、私の指も滑っちゃうかもな」
コートから何やら筒状の物を引き抜いて私たちの仲間の一人に口を向ける。
パンッ
聞き覚えのある破裂音が筒状の物から発せられ、地面には小さい物体がめり込んでいた。
その物体については詳しくは分からないが、剣に使われている鉄に似ている素材だ。あの威力であんなものを当てられたらひとたまりもないだろう。
「わ、分かった。我々は貴様たちを捕まえるのが目的だ」
「捕まえるだとよ。今捕まっている奴が捕まえるだと。笑えてくるぜ」
他の下っ端の海賊たちも声を上げながら笑い飛ばしている。悔しいが事実だから仕方がない。
「まあいい。どうせお前らは死に逝く運命なんだからな。せいぜい自分のした決断を悔やむことだな」
嘘だ。嫌だ、死にたくない。
マリン。マリンはどうするつもりなのか。でも彼女のことはここからじゃ見えない。
「さて、男から殺すか。それとも女を楽しんでから目の前で殺すか。自分たちの無力さを思い知らされながら追い詰めるのもいいなぁ」
長は私の腕を掴んで無理やり立たせる。
これなら好都合だ、いざとなったら死ぬ気で暴れまわってやる。
「さあて、この可愛い少女からいこうか。何か言い残したことは?」
殺すのは惜しいみたいな顔をしている輩とさっさと殺してしまえと叫ぶ輩が高台に居る。
敵に四方を囲まれた状況で戦うのは無謀か、それでもあいつらを楽しませられれば時間を稼げるか?
「私を殺せるなら、殺してみなさいよ」
私を縛っている紐を媒体に、出来る限り小さい魔法を発動させて宙に浮かす。
火、雷、風、土、光で長を威嚇する。なぜ私が使える全種類の魔法を出したのかって?それはもちろん……
「そんなちっぽけな魔法で対抗するのかい?度胸だけはいいようだが、残念だったな」
私が浮かせていた魔法たちが一斉に消滅する。やはり誰かが魔法を打ち消しているのは間違いがない。
私は狼狽える演技をしながら隙を見てマリンに目くばせをする。
(みんなの事、しっかり守ってね)
(大丈夫よ!援護はしっかりするから!)
自信ありげな表情が返ってきたので、安心して暴れられる。海の上では負けたが陸の上なら負ける可能性はゼロではない。
手を縛っている紐を使って空間から双剣を取り出し、私を縛っている紐を全て風魔法で切り裂く。
「さあ、正々堂々と一対一で私と勝負しなさい!」
「ほう。この俺様に挑もうというのか……いいだろう、私の武勇伝の一説に入れてくれるわ!」
相手は湾曲した剣と筒状の射出物を私に向けて構える。
私は攻撃の構えを取って意識を集中させる。防御の構えでもあの速度の弾は防ぐことはできないし、なにせ私が守るべき物は今、何一つ無いからだ。




