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10話 第三王女、命を狙われる

ようやく物語が始まります。

 報告会から数日。私は毎日のように行っていた廊下の光灯(ひかりとも)しをやめ、警戒をしていた。

 何を警戒しているのかというと自分の身の安全である。どうにも侍女や騎士団員が私のことを狙っているような眼をしているように思えて仕方がないのだ。

 だが何か確証があるわけではないので、寝る時には杖を傍に置いておくとか、真剣を壁に掛けておくとかしかできないのだが気休めにはなっている。

 寝る前に窓から外を見ると、いつにも増して黒い雲が空を覆っている。ため息をついてからカーテンをさっと閉めて、ベッドに潜り込む。寝られるといいのだが…


 ◇◇◇


「ケッケッケ、ジュウヨンサイ、オンナ。セイカクハ…」


 よくわからない何者かの声が聞こえる。私はとっさに布団を撥ね除けて杖を構える。

 眠れなくて目をつむったままだったのが幸いだ、寝ていたら何をされていたかわかったもんじゃない。


「ゲッゲッゲ!オキテヤガッタ!」


 相手はとても小さな体だ。そして全身が緑色をしている。妖精という種族については本で読んだことがあるが、こんな悪そうなのも妖精なのだろうか。


「あ… あなたは何者!というか何をしていたの!」

「オレ、ナニモノ?タダノクセモノ!」


 そう言い放つと小さい妖精は爪を立ててこちらに飛びかかってきた。私は瞬時に風魔法で相手を押し返す。


風よ!押しつぶせ(ウインドブラスト)!」


 曲者である妖精が風に吹き飛ばされて怯んでいる隙に空間魔法で壁に掛かっている剣をしまい、すぐに手元に取り出して構える。妖精がくるっと一回転して起き上がる。


「コイイツハマズイ!ニゲロニゲロ!」


 逃がすものかと剣を振るうが剣は空を切る。

 どうやら壁をすり抜けて廊下に出たみたいなので、私も扉を開けて後を追いかける。扉から出た先で周りを見渡すが既に姿が見えなくなっていた。

 逃げるなら外であるはずだと思い、窓を開けて確認するが緑色の妖精の姿は見当たらない。


「もしかして… アイリスが!」


 私のことを狙い、そしてまだ王宮の中に居る。つまりお姉様達かアイリスを狙っている可能性が高い。私は思わず走り出し、階段を駆け上る。


「きゃあああああああああああ!」


 階段の踊り場に着いたところでアイリスの叫び声が聞こえてくる。まだ間に合うと信じて全力で残りの階段を駆け上がる。

 アイリスの部屋の前に着いたら、剣を前に構えて扉を勢いよく開け放つ。


「アイリス!助けに…来たわよ!」


 部屋に押し入ると、緑色の小さい物体が天井に逃げるのが見えたので斬りかかる。

 私の攻撃は躱されてしまったが何かをされていたアイリスからは遠ざけることができた。ぼーっとしているアイリスに声をかける。


「しっかりして!私が来たからもう大丈夫よ!」


 アイリスからは返事がない… 代わりに妖精から返事が返ってくる。


「ケッケッケ!ソレハドウカナ?オマエヒトリデハ、ムリダロウナ!」

「なによ!あなたぐらい一人で倒せるわ!」


 横斬りを繰り出すが、すれすれで躱される。続けて斬り込むが全て何事でもないように避けていく。とてもすばしっこい奴である。

 しかし、いくら避けられても大丈夫である。アイリスから遠ざけることができるし、何より悲鳴を聞いたお姉様たちが助けに来てくれるはずだからだ。私はその時が来るまでこの妖精と戯れていればいい。


 ドタッドタッドタッ


 廊下から人が走る音が聞こえてくる。どうやら私の勝ちのようだ。妖精は足音を聞いて焦ったのか、扉とは反対の方向にさっと移動したのだ。

 私はそのまま扉に背を向け剣を上に構える。だが、妖精は何故か顔に不吉な笑みを浮かべていたのだ。何故?と思った瞬間、扉が開かれる。


「アイリ… エイリス?あなたアイリスに剣を向けて一体なにを…」

「えっ……?」


 エリスお姉様からおかしなことを言われる。目の前にいるのは緑色の妖精なはずなのに、私がアイリスに剣を向けているように見えている。どういうことなのかと後ろを振り向くと、剣を引き抜いて私に斬りかかって来るハリスの姿が目に入る。


「…っ!ハリス!どうして!」

「問答無用!王族に危害を加えるものは王族であっても斬り捨てるのみ!」


 振り上げていた剣をとっさに振り下ろし、どうにか攻撃を防ぐ。だが本気の一撃はかなりの重さがある。私は後ろに飛び退いてアイリスを守るように構える。


「なっ!妹を人質に取ろうっていうの?いつからそんなに卑怯になったのよ!」

「違うわ!そこにいる緑の妖精からアイリスを守っていたのよ!」


 エリスお姉様が突撃しようとしていたハリスを抑えながら、私のことを卑怯だと言う。アイリスには剣を一切向けていないのにどうして人質を取っている様に見えているのだろうか。

 それに、ハリスやお姉様の目が生きていないようにも見える。あの妖精の仕業だろうか。


「アイリス。お姉ちゃんがなんとかしてみせるからね」


 後ろにいるアイリスを安心させるように声をかける。私だってこんな意味が不明な状況からすぐにでも抜け出したいのだ、アイリスはもっと不安であろう。


「お姉様… ごめんなさい」


 後ろから小さく謝る声が聞こえる。謝る必要なんてないのになぜ謝るのか。後ろを振り返ってアイリスのことを確認するが、そこには彼女の姿がなかった。代わりに魔法を唱えるアイリスの声が耳に入った。


「風よ!この者を包み、外へと吹き飛ばせ!」


 自分に何が起こっているのか理解できない。突然、体中に風が纏わりついたと思ったら強い衝撃が加わったのだ。目を開けると辛そうな顔をしたアイリスがいた。



 そして私は、窓から外に放り出されていたのだった。

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