金魚姫は実家に帰るので、探さないでください!!
エド時代。
お城の庭園にはとても大きな池がありました。
その池の中にはたくさんの金魚が住んでいて、王国がありました。
金魚姫と呼ばれるお姫様は外の世界に憧れ、毎日水面から顔を出しては人間を眺めていました。
そんなある日のことです。
「じい〜!タケ〜!こっち、こっち!」
元気な男の子の声が聞こえてきました。金魚姫の頬が赤くなりました。
弟や家臣と鬼ごっこでもしているのでしょうか?後ろを気にしながら一生懸命走る彼の前に迫る池。
「あっ!!」
ボチャンッ!!
彼は池に落ちました。
じい達家臣が大慌てで駆けつけましたが、深い池に沈んだ彼の姿がなかなかみつかりません。
「みんな、力を貸して!!」
金魚姫が仲間達に声をかけ、全員で彼の体を持ち上げました。
浮き上がってきた彼は無事引き上げられ、10年の月日が経ちました。
殿様になった彼はある日、池のほとりで美しい姫に出会いました。
金魚姫と名乗る彼女を側室にした彼は、金魚姫を溺愛して片時も離さないほどでした。
しかし5年後。正室を迎えた彼は金魚姫の元を去り、激怒した彼女は殿様を殺して池の世界に帰りました。
家臣達は大奥だけでなく、城内をくまなく探しましたが、金魚姫は一向に見つかりません。
怖くなり池に引き篭もっていた金魚姫が外の様子を伺っていると、兄の跡を継いだ弟が池を眺めていました。
「私はどうしたら良いのだろうか」
ため息をつき、月を仰ぎました。
何やら悩んでいる彼に殺気はありません。
金魚姫は近くに寄って話を聞いてみることにしました。
「本当に金魚姫が兄上を殺したのだろうか…。俺が愛した人が、兄を?信じられるものか!!」
その言葉を聞いた瞬間、金魚姫の中で何かが芽生えたのだった。