仲良くなれるのか? 4
なんだかよくわからないうちに、碧という名前のせいもあり、帰国子女の…ホームステイという、設定が決まったようだった。
「オバサンとか、呼ばれるのはまだヤだし、千聖さんとでも呼んでね。ちょっと忘れ物したから出てくるわ。鳴ちゃんとの、お留守番よろしくね~」
そう言うと、帰ってきてあまり時間も経たないのに、鳴の母親改め、千聖さんが慌ただしく、出かけていった。
仕方なく碧は、鳴の眠る部屋へと向かうと、ベッドの脇へと座り込んだ。
「マジか……」
千聖の対応が、信じられなかったせいで、思わずといったように口から漏れた言葉。
出ていく覚悟はしてたけれど、その後どう生きて行くかはわからない…。
それでも、出ていくつもりでいたのだ。拍子抜けした様な、複雑な気分を味わう碧。
けれど、泣きつかれて眠る鳴を見ると、不思議ではあるけれど、もう少しそばにいて、励ましてやりたい。力になってやりたい様にも感じられる。
「俺もお人好しが過ぎるだろ…。この家の奴らもだが…」
相変わらず、鳴は眠りについたままだ。
しばらくして、千聖さんが帰って来た。やる事もないし、なんか手伝える事はあるかと聞く。
すると、まるで関係ないことを千聖さんに聞かれた。
「服装は着替えられるのか」と。
「まぁ……、着替えられるけど…」
そう答えると、喜々として服を大量に渡された。
手渡された服は、アロハシャツ……。黄色い生地にハイビスカスの花をあしらったものや、白地に派手なピンクで花がプリントされたもの。
ヤシの木の柄やフラミンゴの柄まである。
比較的地味なデザインにみえた、薄いデニム生地に、白い糸で花をかたどった刺繍のされているシャツを着てみる。
用意されていた姿見を見てみるも、まぁ悪くはないかもしれない。
元々身につけていた、黒みがかったウォッシュデニムとも、褐色の肌にも思いの外合っている気がする。
「はい、これも!」
そう言うと千聖さんが、深い色合いのウクレレを手渡してくる。
「……まさかと思いますけど、このためだけに出かけてたなんて事は……」
ないですよね? 碧が言いかけたその時に、言葉を遮られた。
「合わせる為に決まってるじゃない!」
呆れた様にウクレレを見つつ、碧は言った。
「俺、文鳥なんでこんなの渡されても、弾けませんよ……」
「ポーズでも、イケメンが楽器持ってたら様にならない?」
「……」
碧は、千聖さんはこんな人か……。とことんマイペースだな……。そんな事を、遠い目をしつつ思った。
鳴が気になるとはいえ、小鳥遊家にお世話になるのは早まっただろうか…。
そんな事を、つい考えてしまう碧だった。