仲良くなれるのか? 1 (碧 視点)
優しい手に癒やされていく俺。新しい生活への不安だろうか。鳴の温もりに、不安そうな声に、俺は絆されてしまったのだろうか。いつだって出ていけるはずだった。
なのに俺は未だに、ここから出て行く事ができない。
鳴は、学校とやらに出かけて行き、夕方近くに帰ってくると、少し表情を曇らせている。そんな彼女を、放っておけない気分になるせいか、もう少しもう少しと長居をしてしまう。
とっととここから出て行けたのなら、楽になれるものを…。
俺はそんな鬱々とした日々を過ごしていた。いい加減にここから出て、自分らしい生活を取り戻すんだ。そう心を決める。
この辺りが潮時だとそう覚悟を決めた日、鳴が溢れ出そうな涙を、堪えながら帰って来た。
けれど、鳴は俺を見ると微笑む。
クソ…ッ。
また覚悟が鈍るじゃないか。
一見明るく見える鳴だが、鈍くさいせいか、虐められているらしい。それでも母親に心配をかけたくないからと、俺だけにその日の悲しい出来事を口にする。
家では笑顔でいる辺りは、強い子だとは思う。
けれども、どこか放って置けない危うさもある様に感じられる。
あと少しだけ、つき合ってやるか…。そう思いながらも、小鳥遊家の面々に絆されていく自覚はどんどん大きくなる。
けれど、このままこの家にいてはいけないという気持ちも強い。妖と人は交わって生きていけない。
そう思い、これまでひとりて生きてきたんだ。
例えば、このまま小鳥遊家に居座るとする。普通の文鳥が生きられるのが10年弱だろう…。
けれど、俺はそこで消えられない。オレは妖だから、生きながらえてしまう。
その時に、俺の存在を受け入れられる奴らは、そうはいないのだ。
あとになって、存在を否定されるより、傷の浅い内に、離れるべきなんだろう。
なんだか考えてるのは、自分の事ばっかりだ。俺は本当に小さいな。
自己嫌悪に陥ってしまい、つい独りごちる。
けれど、グダグダやってても仕方ねぇし、腹をくくって鳴についててやるかべきか…。不服な事に、信じたい気持ちもある。
ただ十年後に別れが来るくらいなら、今のうちにぶち壊してしまえという俺もいる。
人に関わって、生きてこなかった分、どう反応されるのか予想すらつかない。
俺は…、どうすればいいのだろうか。
けれど、鳴は涙の跡の残る顔で、俺を見て笑う。泣くぐらい辛いだろうに、俺を見て、柔らかく撫でながらも笑うんだ。
人間なんて信じねぇ。でも、鳴やその母親を見ていると信じてみたくなる。
『マジでどうしようもねぇな、俺は…』
人にとっては、チョイチョイとしか聞き取れないであろう、俺の鳴き声が漏れる。