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百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!  作者: 無色
四葉凱歌編

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96/311

84.欲しいものが無いなら自分で手に入れればいいじゃない

 お母さんの説教から解放されたのは、深夜を回ってからだった。

 みんなは先に寝ちゃうし、起きて待っててくれたのはアルティだけだ。

 さすが私の嫁。未来のね!


「なんで私だけが酷い目に…」

「大切な情報をあの瞬間に詰め込むからですよ。リコのおじ様、びっくりしすぎて顎が外れてたじゃないですか」

「あれは笑ったな。お母さんは終始悪鬼羅刹みたいな顔してたけど」


 いてて、まだ足痺れてるよ。


「けどよかったですね。半神でも転生者でも受け入れてくれて」

「うん。正直言うとちょっと不安だった」


 拒絶されたらどうしようって。

 だからあんな軽く言った。


「臆病なんですから」


 アルティはそう言うと私の頭に手を置いた。


「そんなところも可愛くて好きですけど」

「うっせ」

「そうやって小さく毒を吐くときは本気で照れてるんですよね」

「前も指摘されたっけ。まいったな…」

「いいじゃないですか。弱いところも恥ずかしいところも見せ合えるのが恋人、でしょう?」


 そう言うアルティの耳は真っ赤だった。

 柄にもないことを言ったとか思ってるのかな。

 そんなアルティが無性にいじらしく思えた。


「アルティ…今日、しない?」

「実家なんですが」

「わかってるけど…。ちゃんと防音かけるし、なんなら異空間ででもいいから」

「性欲おばけ」

「ダメ?」

「そんな…子犬みたいな目でおねだりされたら、断れるわけないじゃないですか…」

 

 何度も身体を重ねてるはずなのに、未だに初めてのときみたいにドキドキする。

 ああ、私はアルティが大好きなんだと実感する。

 はやくベッドに行こうと手を引いて寝室へ向かった。


「お風呂まだですよ?」

「お風呂で、がいいってこと?」

「バカ」

「今日は寝かさない」

「……バカ」


 頑張るぞーって部屋を開けると。


「お待ちしておりましたご主人様」


 リーゼちゃんが正座で待ってた。

 裸で。

 着ていたものを傍に折り畳んで。


「うおーエッチー!!なになになに?!どうしてそんなにエッチなの?!!」

「今から…というところで他の女に目を奪われる。感性がイカれてるんですか?」

「いやこれはしょうがなくない?!リーゼちゃんこれどういうこ、と…いみじくもエッチだな!!」

「下僕はご主人様の身の回りのお世話をして然るべき。夜伽の心得はありませんが、精一杯の奉仕を」

「悪逆非道の王国のお姫様ですね」

「そんなボ○ロみたいな罵倒されたの初めて。えっとリーゼちゃん、据え膳食わぬは…な気持ちでいっぱいなんだけどさ、べつにそこまで求めてはなくて」

「身体は」

「あ?」

「身体は好きに出来ても…心まで自分のものに出来るとは思わないでください…!」


 涙目のくっころって唆るなぁ。

 そりゃオークもブヒブヒするわ。


「リコ」

「わかってるって。無理やりは趣味じゃない」


 無理やりダメ絶対。

 同人誌(フィクション)の中だけアリなものとする。


「リーゼちゃんはすごく魅力的だけど、こういうのは私を好きになってからしてもらいたいな」

「あなたを好きになることなんてありません」

「うん。じゃ、これはおまじない」


 タオルケットでリーゼちゃんを包み唇に人差し指を当てる。


「リーゼちゃんが私とお友だちになってくれますように」

「…?!…?!!」

「シシシ、可愛い顔してるよくちばしでぃ!!なんで頭殴ったの?!ねえ?!アルティ?!」

「あまりにもスケコマシで。立ちました腹が」

「謂れなき暴力…」

「わっ私は剣聖で…最強の――――――――」


 リーゼちゃんは知恵熱に頭をパンクさせ、湯だったみたいにその場に倒れた。


「可愛い子だことで」

「全てに於いて責任はリコにありますけどね」


 とりあえずベッドに寝かせてと。


「そんな気分では無くなりましたね」

「だな。また明日しよっか♡なぁ?♡」

「私がその気になったら」


 その気にさせられないリコリスさんだとでも?

 なんてね、シシシ。

 

「おやすみアルティ」

「おやすみなさいリコ」


 お互いの頬にキスを一つ。

 こうして帰郷初日の夜は過ぎていった。




「おはようございます、ご主人様」

「おお…おはようリーゼちゃん。…近くない?」

「下僕たるものいつ何時もご主人様に仕えるのが使命です」

「にしても適切な距離感ってあるくない?嬉しいんだけどさ」


 パンを千切っては口に運び、スープもサラダもあーんしてくれる。

 口元が汚れれば拭ってくれるこの圧倒的な王様スタイル。

 正直悪い気はしない。


「リーゼちゃん、もういいよありがとう」

「〜っ!も、もったいないお言葉です…」

「また女を誑かしおったのかそなた」

「人聞き」

「もう誰を落とそうと驚かないわ」

「次は誰を虜にすんの?人妻?未亡人?」

「なんでご婦人限定で絞ってんだ」


 はっきり言って好物だが。

 いやわりかし全年齢とチュー出来るが。


「君の女好きは相変わらずだねリコリス君。けれどマージョリーはいけないよ。僕は大恩あるラプラスハートの一家に剣を向けたくはないからね」

「ソフィアもダメだぞ。こいつはおれの女なんだからな」

「揃いも揃って私をなんだと」

「そういえばリコリス、結婚することに関してまったく異論は無いけれど、あなたたち式はどうするつもりでいるの?」

「まあ知ってる人だけ呼んでこぢんまり、くらいには。場所も日にちも全然。な?」

「はい」

「伯爵位の式ともなるとこぢんまりというわけにはいかないだろう。女王陛下や王女殿下、その他名のある貴族も出席しなければ外聞が悪いからね」


 って言っても、私は名ばかりの爵位だからなぁ。

 堅苦しいのは苦手だし。


「あなたの考えていることはわかるけど、型破りと常識知らずは似て非なるものなのよ。あなたたちの意見は最大限尊重するとしても、格式も伝統も無視してはいけないの」

「うえぇ、めんどい。もっと気楽な感じでやりたい。みんなでワイワイ騒ぎながら酒飲んでウェイウェイしたい」

「あなたはそれでよくても、アルティちゃんは辺境伯の娘なのよ?適当な式を催せば、それだけでヨシュアたちの評判も下がってしまうんだから」


 あーそっか。

 それはそうだね。

 貴族ってのも大変だ。

 って言っても、私が関係持ってる貴族なんてフィーナくらいなんだけどさ。


「婚姻の聖地ということならリーテュエル…聖王国で挙げるのが一番良さそうだけど」

「聖王国か…あそこは人類至上主義で、人間以外の種族を悉く忌み嫌うからね」

「私たちも私たちなりに考えます。誰にも文句言わせないくらいの結婚式を挙げますから、どうか期待しててください」


 金だけはあるんで!

 ってのは、さすがに下賎すぎて言わなかったよ。


「リコリスさん、本日のご予定は?たしかやりたいことがあると仰っていましたが」

「あ、うん。今日はちょっと部屋に籠もるよ」

「何するつもりなの?」

「秘密。誰も覗くなよ」

「あー姫えっちなことする気だー」

「そうじゃねえとしても親の前であんま言うな」

「ご主人様、差し出がましいようで恐縮ですが、どうか私に剣の指南をお願い出来ませんでしょうか」


 私の強さに、それとも【百合の王姫(イヴ)】に惹かれてか、はたまた私の魅力に当てられてか、リーゼちゃんは少なからず心を開いてくれているようだった。

 だからこそ申し訳なくなる。


「ゴメンね。相手してあげたいのは山々なんだけど」

「そうですか…」


 しょんぼりしてるの可愛い。


「はいはーい!じゃあ私と勝負しよ!」


 と、マリアが元気よく手を挙げた。


「それもいいね。マリアも勉強になりそう」

「子どもと、ですか?」

「子どもじゃないよ!マリア!」

「こう見えても強いよマリアは。百合の楽園(リリーレガリア)でも一、二を争う剣士だから」


 嘘は言ってない。

 百合の楽園(リリーレガリア)でちゃんと剣を使うのは私とマリアだけだから。

 ジャンヌやシャーリーも使えないわけじゃないけど、やっぱり魔法や徒手空拳での戦い方の方がメインだし。

 まあ、それを抜きにしてもマリアの剣の腕は折り紙付きだ。

 

「スキルを使うのは危ないから禁止で、マリアも(ほむら)は使っちゃダメだよ。二人とも木剣でね」

「はーい!」

「ご主人様が仰るなら。子ども相手にも手加減はしません」


 剣士同士仲良くなってくれたらいいなぁ。

 今日も一日元気よく、おもしろ楽しく過ごしましょう。




 朝食後、私は部屋に籠もりテーブルにある物を置いた。

 豪奢な箱に入った純白の鉱石。

 ディガーディアーでミルクちゃんから餞別にもらったエデンズライトの原石だ。


「よし…やるか」


 本気で鍛冶しちゃうぞ。

 進化した私の力見せたらぁ。




 ――――――――




 中庭。

 アタシはジャンヌとトトと一緒に、剣を握って向かい合うマリアたちを眺めていた。


「マリアーがんばれー!」

「ケガしても直してあげるから安心しなさい」

「いけいけー!」


 特にやることが無い野次馬だ。

 屋敷のメイドがお茶を淹れてくれたので、優雅に見守っている。

 私の分のお菓子は取っておいてねとマリアが手を振った。


「始めよリーゼさん」

「どこからでも」

救世一刀流(ぐぜいっとうりゅう)、マリアです!」

「はい?」

「こういうときはちゃんと挨拶するって、ミオせんせーが言ってたから!」

「救世一刀流…ミオ…ミオ=ホウヅキが使っていた剣ですね」

「知ってるの?」

「以前一度剣を交えたことがあります。速さと流麗さを兼ね備えた美しい剣士。あなたが彼女の?」

「弟子!」

「では覚悟しなさい。同じ流派の弟子を名乗ることは、そう軽いことではないのですから。ラプラスハート流、リーゼ=スクリームノート。推して参ります」


 それから一時間くらいは模擬戦したのかしら。


「え?!ちょ、嘘…待って?!んへぇ!!」

「救世一刀流!燐!」

「あ゛ぁぁぁぁぁ!!」


 マリアは一本ももらわずに完封した。

 



「私…剣聖…ううう…!!」

「ダメじゃないマリア。リーゼを泣かしちゃ」

「お姉ちゃんならいつも反撃してくるもん」


 高慢?満心?そのどちらでもない。

 マリアが強いのはもちろんあるけれど、リーゼが負けたのはもっと根本的な理由だ。

 素人目にもリーゼの剣技はさすがだと思う。

 ラプラスハート流って言ったわね。豪快で荒々しくも完成された、一撃必殺に念頭を置いた剣。

 だけどそれは、リコリスの型とほとんど一緒。

 使う剣が同じならリコリスに及ぶはずがない。

 シンプルな話だ。

 あれは根っからの剣士というわけではないけれど、身体能力、天賦の才とずば抜けているのはたしか。

 マリアはそんなリコリスと長いこと剣を交えているんだから、リコリスの下位互換と勝負したところで負けようがない。言い方は悪いけどね。

 尤も、マリアはマリアで凡百の剣士に数えられるような器ではないのもたしかなんだけど。


「相手が悪かったわね」

「剣聖…ひっぐ…剣聖ぇ…」

「スキルやそのときの状況次第で強さなんて変わるわよ。一喜一憂してたらキリが無いでしょ」

「ふっぐぅぅぅ…!」

「ねえねえリーゼさん、もっとやろ!ねえいいでしょ?」

「ひいいいい!」

「おー盛り上がってんね」

「あ、お姉ちゃん!」

「あら、もう用とやらは終わったの?」

「まだ一割ってとこかな。ちょっと欲しいものがあるから出てくる」

「そう。気を付けて」

「行ってらっしゃいのチューは?」


 なんか可愛くてムカついたから、窓から上半身を覗かせるリコリスの胸ぐらを掴んで舌を捩じ込んでやった。


「行ってらっしゃい」

「うぃっす…」


 子どもたちの教育によろしくないって後から反省したわ。

 はー顔あっつい。




 ――――――――




 屋敷を出て向かったのは冒険者ギルド。

 噂の美女だらけのギルドを堪能しに来たわけではない。とは断言出来ないけれど、それはそれ。

 要件は別にある。


「こんにちは可愛い受付嬢さん」

「はわぁ…」

「あの?」

「ハッ!すみません思いっきり見惚れてました!」


 あら素直。


「改めましてギルド受付のアルバートと申します!百合の楽園(リリーレガリア)のリーダー、リコリス=ラプラスハート様ですね!お目にかかれて感激です!」

「嬉しいこと言ってくれるなぁ。今度デートしようか♡」

「はっはひっ!ぜひ!」

「んー可愛いねぇ♡今日は魔石が欲しくて来たんだけど、いい魔石はある?」

「魔石ですか?あるにはありますが、何分新しいギルドなもので。リコリス様のお眼鏡に叶うものがあるかどうか」


 資材庫に直接案内するのは失礼なのでと応接室に通された。

 数分後、木箱に入った魔石を持ってアルバートちゃんがやってくる。


「またマスターはどこに…きっとまた方向音痴で迷子になってるんですね…っと。お待たせしました。こちらが今現在、ギルドで所有している魔石の中でも質がいいものとなっております」

「うーん」


 魔石は魔物の核だ。

 魔石の色は魔物の種類によって違い、輝きと大きさはその魔物の強さを示す。

 選りすぐっただけあって、見せられた魔石はどれもキレイだけど、私が求めているのとはちょっと違う。


「やっぱりドラゴンクラスの魔物を倒さないとダメか」

「へ?何か仰りましたか?」

「あ、ううん。なんでもない。ゴメンね時間取らせて」

「いえいえ!またご利用の際はぜひ!」

「ありがとう。あ、デートの約束は本気だからね〜♡」

「よっ喜んで!」

「シシシ〜♡」




 さて、魔石が無いってなると私のやりたいことってのは完全に頓挫することになる。

 んー困ったなぁ。

 オーベルジオまで転移してドラゴン狩りも気が引けるし。

 プラン曰く、


「ドラゴンを倒すのはいいのかって?人間が害だと思ったら倒すのは仕方ないんじゃないか?お互い生きるために必死ってことだろ?」


 ってことらしいからね。

 アリスのこともあるし、変にドラゴンから敵意を向けられるのは避けるべきだ。

 少なくとも倒すならオーベルジオのドラゴン以外にしたい。

 それでもって凶暴で強いものが望ましい。

 うーん、字面だけだとまあまあの戦闘狂だな、私。


「どうしようかなぁ」


 うーん、と両手を挙げて背伸びした私の指に、光るものが見えた。

 これはかつてエヴァたちと共に潜ったダンジョンで手に入れた宝具(アーティファクト)だ。

 権能は迷宮(ダンジョン)の創造。 

 込めた魔力(マナ)迷宮(ダンジョン)の内部構造を思うままにいじることが出来る素晴らしい指輪だ。

 触手と服だけ溶かす溶解液、ローション、セッッしないと出られない部屋などのステキ迷宮(ダンジョン)を造ろうとしてアルティに止められて以降、特に使い道もなくてずっとアクセサリーになってたけど。

 これは、いけるかもしれない。


「けどそうなると許可が要るな」




 てなわけで。


「街の隅っこでいいので迷宮(ダンジョン)造ってもいいですか?」


 領主のヨシュアさんに直談判することにした。


「そんなパン屋を開業するノリで言われてもね」

「そこをなんとかお願いします。どうしても必要なんですよ」

迷宮(ダンジョン)の危険性は君も理解しているだろう?領主といえど簡単に許可は出せないよ。そもそも迷宮(ダンジョン)を造るという行為自体がイレギュラーだしね」

「領主様から許可がもらえないとすると…」


 やっぱりあの人か。




迷宮(ダンジョン)造りたいんだけど造っていい?」

「いきなり現れたかと思えば。相変わらず愉快な奴だ」


 小さく息をつき、ヴィルことヴィルストロメリア=ジオ=ドラグーン…ドラグーン王国女王陛下は、切れ長のセクシーな目で私を見射った。


「お願いヴィル。絶対街に被害は出さないようにするから」

「ふむ…」

「あのリコリスさん」

「なにリエラ?」

「どうしてそこまで迷宮(ダンジョン)の創造を希望するんですか?」

「それはその…」


 いいや、隠し事は無しにしよう。

 私は包み隠さず二人にわけを話した。

 すると…


「クッハッハッハ!」


 ヴィルは大層上機嫌に笑った。


「そなたは本当におもしろいな。よもやそんな理由で迷宮(ダンジョン)を求めるとは。クククッ」

「うっせーな……」

「よかろう。迷宮(ダンジョン)創造の件、私が正式に認可しようではないか」

「ほんと?!やった!」

「ただし条件がある」

「条件?怪我人が出ないようにしろ、とか?」

迷宮(ダンジョン)という性質上、挑めば怪我人も出よう。そんなことを一々咎めはせぬ。求めるのは迷宮(ダンジョン)の資源だ」


 迷宮(ダンジョン)は資源の宝庫だもんね。

 

迷宮(ダンジョン)の創造というものがどれほどかはわからぬが、ある程度は自分の意思を反映出来るだろう。王都の管理下とし、資材は月々税という形で、同じく年に一度大金貨50枚を王国に納めよ」

「大金貨50枚?!」

「今のそなたには大した出費ではなかろう」


 舐めんなよ女王。

 大金貨50枚って5000万円だぞ?

 どんだけ暴利な税金取ろうとしてんだ。


「大臣、ランドルフ卿を呼べ」


 ヴィルがそう命じると、十数分の後、眼鏡を掛けた初老の男性が見えた。


「お待たせいたしました陛下」

「うむ。ランドルフ卿、これはリコリス=ラプラスハート。すでに存じていようが百合の楽園(リリーレガリア)のリーダーだ。そしてリコリス、これはジェフ=ランドルフ。王都の冒険者ギルドでギルドマスターを務めている者だ。そなたと同じ伯爵位でもある」

「ギルドマスター…はじめまして。リコリスです」

「やあ、ジェフ=ランドルフです。冒険者の登録はうちでしたと、後から受付嬢に聞いたよ。挨拶がおくれて申し訳ない」

「こちらこそ」


 挨拶はそこそこに。

 ヴィルは迷宮(ダンジョン)設置の話をジェフさんに聞かせた。


迷宮(ダンジョン)を人為的に…どうにも信憑性の乏しい話です」

「今に現実になる。そなたに頼みたいのは迷宮(ダンジョン)の管理だ」

「管理、というと?」

迷宮(ダンジョン)内での負傷については目を瞑るとしても、死傷者が出るのは看過出来ぬ。魔物の出現率やどういった魔物を出現させるか、細かく設定出来るのならば、それに応じて挑戦出来る冒険者のランクを設定すればよい」

「冒険者の設定って…ちょっと待て?!まさか迷宮(ダンジョン)を興業事業にしようとしてんの?!納税ってそういう?!」

「そのためにランドルフ卿を呼んだのだ。ギルドマスターとしての職歴は長く、冒険者からの信頼も厚い卿を」


 事情が事情だけに、あんまり関係無い人を巻き込みたくないんだけどなぁ。


「そう怪訝な顔をするな。前代未聞の所業に加担してやると言っているのだ。お互い利は有るに越したことはないだろう」

「それはそうなんだけどさ。にしてはヴィル主体で話が進んでる気も…。あくまでメインの目的は私の方にあるんだし、ちゃんと興業に出来るまでには少し時間をちょうだいよ」

「構わん」

「はぁ、なんか巻き込んじゃったみたいになってますけど、一つよろしくお願いしますジェフさん」

「何がなんだかといった体ですが、私に出来ることがあれば」


 なんか大事になっちゃった。

 でも、これも全てみんなのため。

 頑張るぞー!おー!




 まずは場所の確保。

 これは城とギルドのちょうど中間にある広場を使用する許可を得た。


「サクッとやっちゃいますよーっと」


 まずは石でそれっぽい台座と柱を作って、肝心な迷宮(ダンジョン)の設置する。


迷宮創造(ダンジョンクリエイト)


 二本の石の柱の間に青く光る次元の門が開く。

 中に入ると真っ白な空間が広がっていた。

 神域にいるような感覚に近い気がする。


「リコリスさん、ここが迷宮(ダンジョン)なのですか?」


 監視という名目でついて来たリエラが訊く。


「これからどんどん形を作っていくってことなんだと思う」


 何も無い空間に手を翳すと、ウインドウとキーボードが出現した。

 これで操作するのね。

 やり方は【管理者権限アドミニストレートスキル】とほとんど同じだな。

 後からでもいじれるみたいだし、とりあえず階層の設定と、軽い魔物の配置でも。

 罠とか隠し部屋とか出現する魔物とか、いろいろこだわりたいんだけどそれはまた今度にしておこう。


「よし、これで三階層分はまともに迷宮(ダンジョン)として機能するかな」

「難易度は?」

「今のところ悪魔(デーモン)級の冒険者ならパーティーを組んで攻略出来るくらいですかね。一つの階層も10km×10kmくらいの広さですし」

「それだと冒険者には野営を勧めた方が良さそうですね」

「はい。なので各所に安全地帯(セーフスポット)を設けてあります」

「提案があるのですが、安全地帯(セーフスポット)を拡大、或いは迷宮(ダンジョン)の一角に宿泊施設、商業施設を置くというのはいかがでしょう?」

「宿屋、それに武器や防具、アイテムを売るってことですか?」

「ええ。持ち込む装備の量が減るのは冒険者には喜ばしいことですから。それに店舗を置けばその点でも収入が見込めます」

「なるほど」


 そうなると、相談するのはやっぱりあの人か。




「そういうことなので、力を貸してくれませんか?アンドレアさん」

「今朝はやたら金の匂いがすると思っていたのですが、まさかこんなことになっていようとは」


 パステリッツ商会会頭、アンドレア=パステリッツさん。

 私の相談役でもある彼は、理解し難い風に頭を押さえた。


「いやしかし、他ならぬリコリスさんの頼み。喜んで協力させてください」

「ありがとうございます」


 これで商業の面はオッケー。

 パステリッツ商会が店舗の経営権を独占すれば万事上手くいくはず。


「お互いとんでもない方と関わりを持ったものだ、アンドレア」

「やあジェフ。しばらく」

「少し痩せたんじゃないか?」

「いろいろと忙しくてね。嬉しい悲鳴というやつさ」


 どうやら二人は幼なじみらしい。

 イケおじ二人が並んでるのは絵になるねぇ。

 男にはミリも興味無いが。


「ところでリコリスさん、この迷宮(ダンジョン)ですが、このままでは誰でも入れるようになってしまうのでは?」

「大丈夫大丈夫」


 と、迷宮(ダンジョン)内の魔力(マナ)を手元に集めて箱を作る。


「これは?」

「通行承認機とでも言うのかな。これでギルドカードをスキャンすると、迷宮(ダンジョン)に入るためのパスが繋がる。これを冒険者ギルドとパステリッツ商会に設置して、一般人の入場を制限する。スキャン自体も完全許可制で、ジェフさんとアンドレアさん以外には扱えないようにする」

「なるほど、それはいい考えですね」


 それと迷宮(ダンジョン)の各所に転移陣を設置。

 迷宮(ダンジョン)の内外、各階層の移動も全て承認機を通したカードに記録される。


「三階層だと、これだけ広くても踏破は容易でしょうね」

「うん。だからこの迷宮(ダンジョン)は、成長する迷宮(ダンジョン)ってことにする」

「成長する、ですか?」

「いいこと思いついちゃったんだよね」


 私がいない間にも管理者は必要だろう。

 私の知能をそのままコピーし、純度の高い魔力(マナ)で肉体を構築。

 管理者としての権限を与えて、っと。

 うーん私好みの美少女♡


「これは…」

「人間ですか?」

「人工生命体…じゃ味気無さすぎるから、迷宮皇(ダンジョンマスター)に倣って人工迷宮皇(マスターロイド)って呼ぼうかな」


 キレイな銀髪を靡かせる美少女は、ニ色の眼をゆっくりと開けた。


「私の言葉がわかる?」

「っは…」

「?」

「くっは〜♡めっちゃ美少女〜♡うっひゃ超好き〜♡ねえねえちょっと一発ヤ――――」

「そこまでにしとけ!」


 私の知能ばかりか性格までコピーしちゃったか…

 軽いノリでとんでもないものを産み出してしまった。


「♡」

 

挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] リコリスさんは人の想像を遥かに超えることをするなあ...
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