72.コスプレって可愛くて好き
元々は温泉目当てでこの国を来訪したわけだけど、それはそれとして。
「ちょほっ、ちょほぁぁぁ〜〜〜〜♡♡♡」
コスプレさいっこう〜♡
「かわっ、可愛いねぇ二人ともぁ〜♡」
「じゃーん!」
「海賊です!」
「ほほっふひっ♡えへっえへぇ♡」
マリアとジャンヌのカッコいい感じすこ〜♡
ここラフ○ルか〜?♡
黒系似合いすぎて可愛さひとつなぎ○大秘宝〜♡
ダメだ変な笑い止まらーん♡
「顔イカちぃかよ姫〜。犯罪者顔負けだよ」
「だーれが犯罪――――ほはぁぁぁん〜♡ルウリもかぁいいねぇ〜かぁいいよぉ〜♡魔女っ子かなぁ?♡似合ってる似合ってるよほぉ〜♡僕と契約して魔法少女になってよ〜♡」
「姫のためだけに魔法かけちゃうよ〜♪」
「かけて〜♡魔法でも泥水でもぶっかけて〜♡主に顔面に〜♡」
「ニュアンスが汚えんだって」
ちょっとロリ入ってんのもいいなぁ〜♡
甘い感じええや〜ん顔めっちゃ緩む〜♡
「なんてだらしない顔してるのかしら」
「楽しそうで何よりです」
「うひょおおおお!♡犬耳ぃ!♡ウサ耳ぃ!♡ドロシーもアルティもかわよさんだよぉ♡フヘ、ウヒヒ♡ホヒーーー♡ほらほらおいでモフらせてぇ〜♡肉食動物がペロペロしてあげるからねぇ〜♡」
動物耳付けるだけで魅力五百割増し〜♡
可愛すぎる税徴収してほしい〜♡
「おっお待たせしました…」
「私たちも装いを整えて参りました」
「っああい!♡しゃーい!♡悪魔っ子と淫魔キターーーー!!♡たまんねー!!♡ふぅーーーー(クソデカ深呼吸)好きーーーーーーーー!!!♡♡♡」
「リッリコリスちゃんも…似合ってます…。吸血鬼の、格好…」
「フフン、だろ?♡」
髪オールバックにするの楽でいいわ。
シャーリーの衣装も抜群によきだし。
「フヒッw♡それにしてもみんな可愛いなぁ♡はぁはぁはぁはぁ♡……ふぅ。とりあえずヤらせて?」
「賢者モードなんな最低さん」
「性欲だけブーストかかってんじゃないわよ」
「クズ」
「性に淫らでも心は錦なんだが?」
それはそれとして、私たちは街に繰り出すことにした。
「うぅ、おぅ…」
船酔いでダウン中の師匠と、
『行ってらっしゃーい』
『お土産よろしくな』
『帰りをお待ちしてございます』
『なのでござる』
『マッテル』
部屋でゴロゴロしてる従魔たち。それに、
「トトも行かないの?」
「うーん…なんか調子悪いかも。大人しくしてるね」
いつもならウキウキでついて来るはずのトトはお休みだ。
「どうしたトト?」
「うーん、なんかよくわかんない。」
「何かあったら【念話】で呼ぶのよ」
「はーい」
オースグラードの魔力に当てられたか?
風土的なものなのか、たしかに他の国より大気中の魔力が濃いような気もするし。
【神眼】で診ても取り立てて異変は無さそうだし、一時的な体調不良ってとこかな。
そりゃ精霊だって風邪くらい引くだろってことにしておこう。
「この子たちは私たちが見ておきますから、皆さんはお祭りを楽しんでください」
「ありがとうございます」
「フゴフゴ!(気をつけて行っておいで!)」
「は、はい(なんて言ってるかわかんないけど)」
よし、それじゃ行くとしますか。
街には多くの露店が並び活気づいている。
人間や他の種族も見えるのは、みんな竜饗祭目当ての観光客ってとこだろう。
「いらっしゃいいらっしゃい!ドラゴンの肉串が焼けてるよ!」
「こっちはドラゴンの生き血のパスタだ!竜饗祭でしか食べられない今だけの味だよ!」
「名物ドラゴンステーキにドラゴンスープ!おいしいよー!」
竜饗祭ってドラゴンの降臨を祝う祭でしょ?
なのにドラゴンを食べるってのはいいの?
「はぁく…もぐ…普通の牛肉みたいですよ」
「ドラゴンの名前にあやかってるだけなんじゃない?」
「それでも大概不敬な気がしますけど」
「竜王さんはそれくらいじゃ怒らないくらい懐が広いんかね。知らんけど」
売ったもん勝ちというか、騒いだもん勝ちというか、結局は楽しけりゃいいってとこなのかもしれない。
「にしても、なんかやたらおいしくない?」
「言われてみれば」
「祭の雰囲気のせいじゃないの?」
そんなもんか?
ともあれ、いつもとは違う格好で街を歩くのは存外楽しくて、特にマリアとジャンヌははしゃぎっぱなし。
「ジャンヌジャンヌ!ドラゴンキャンディーだって!」
「ドラゴンの形してるー!すごーい!」
「おっ可愛い仮装だね」
「海賊だよ!カッコいいでしょ!」
「シャーリーお姉ちゃんが作ってくれたんですよ!」
「おうおうカッコいいな」
飴売りの店の親父さん相手に、二人は衣装を見せびらかしている。
「よっぽど気に入ってるんだな」
「喜ばしい限りです」
シャーリーはどこか照れくさそうにはにかんだ。
「オースグラードは初めてか?」
「うん!」
「竜饗祭と収穫祭を見に来ました!」
「そうかそうか。なら可愛い海賊たちに、大人にだけ使える魔法の言葉を教えてやろう。トリックオアトリート、って言ってみな」
「トリックオア?」
「トリート?」
「おお怖い海賊さんたち、お菓子をあげるからイタズラはやめてくれぇ。ほら、持っていきな」
オーバーな演技を一つ、飴売りの親父さんはドラゴンの形のキャンディーを二人に手渡した。
「いいの?」
「ああ。トリックオアトリートってのは、お菓子をくれなきゃイタズラするぞって意味なんだ」
「イタズラはダメなんですよ?」
「実際にやるのはダメなことだな。これはなんだ、大人が子どもにお菓子をあげる建前っていうか…まあ、収穫祭の間だけ使える秘密の呪文ってとこだな」
「秘密の呪文…なんかカッコいい!ありがとうおじさん!」
「ありがとうございます!」
「おう。祭を楽しむんだぞ」
「うんっ!あ、そうだ。ねえジャンヌ」
「なあに?」
「あのね…ヒソヒソ」
「うん、うん…わぁ!」
「ねっ?」
「うん!」
マリアとジャンヌは何やらコソコソした後、ニヤニヤと私たちに手を差し出した。
「「せーのっ、トリックオアトリート!」」
可愛すぎて呼吸止まるて…
「ゴメンね海賊さんたち、今はお菓子を持ってないんだ」
「お菓子くれないなら」
「くれないなら?」
「イタズラしちゃいます!」
ギューーーーッ
「エヘヘ、動けないでしょ!」
「イタズラですよー!」
「てぇてぇ…」
「リコが泣いてる…」
「怪物でもキレイな涙を流すのね」
あとで店のお菓子買い占めて甘やかそう。
いや、お菓子あげずにイタズラを堪能するのも…
「ハッ、逆に私がトリックオアトリートするか?そしたらお菓子を持ってないマリアとジャンヌの土踏まずを舐め回して…」
「発想がゴミ」
「衛兵呼んでくるわ」
「辛辣だな貴様らそういうとこも好きだぞ」
「コスもそうだけどトリックオアトリートって、まんまハロウィンじゃない?あたし今クッソ楽しいんだけど」
「シシシ、まーね」
「お二人の世界にも似たような催しがあったのですか?」
「あーね。収穫を祝うってか、イベントのノリで楽しくワイワイ騒いでただけだけど」
「特に私たちが産まれた国っていうのは、季節ごとのイベントを命懸けるくらい盛り上げる風習があったからね。羽目を外したがりっていうか。そういう意味じゃ、神様も信仰も文化もへったくれも無かったんじゃないかな」
そういう行動力とかが、高度経済成長とかに繋がってたのかもしれないけど。
と、懐かしい世界を思っているところへ。
「あら?あらあらあら!もしかしてエヴァちゃんかい?エムドさんのとこの!」
「ひっ?!ひゃ、は、はい…」
赤ずきんを被ったおば様が近付いてきて、エヴァにの顔を覗き込んで声を上げた。
「やっぱり!ほらみんな来てごらんよ!」
「おおエヴァちゃん!大きくなったなぁ!」
「すっかり美人になって!」
「エスカノールさんに似て美人になった!」
「あばばばばばば」
さすが地元。
有名人だねぇ。
当人は急に囲まれて白目剝いて痙攣してるけど。
「ほらこれ持ってって!うちの自慢のパンだよ!」
「こっちも串焼きを持ってけ!」
「えっいや、あの…」
「いいのいいの!エーファちゃんにはいつもお世話になってるんだから!」
「私のとこの子の面倒を見てくれるのよ!」
「おれのとこは屋根の雨漏りを直してもらったよ!」
「あんな出来た妹がいて、姉として喜ばしいねぇ!アッハッハ!」
エーファちゃんを良く言われて、狼狽していながら少し嬉しそうにする。
いいお姉ちゃんしてるなエヴァ。
その後もフラフラと街を散策した。
魔人領ならではの店が多くて、それだけで目新しく楽しい。
魔法の釣り竿を使っての魚釣りに、不規則に飛んでいく輪投げなど、食べ物以外のお店も豊富で飽きが来ない。
そんな中、とあるお店が私たちの興味を唆った。
「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!土産話に炎の丸焼きはいかが?」
頭の右側に角を生やした魔人のお姉さんが売っているのは、棒に刺した真っ赤な"炎"。
下手をすれば松明に見えなくもないそれは、どうやら食用らしい。
「炎を食べる…?」
「一本どう?おいしいよ」
「じゃあせっかくなので」
話の種くらいに買ってはみたけど、これを食べるのか…なかなか勇気が要るな。
「女はド乳っと」
「度胸よ」
「あむ…ん、熱くない」
味もないけど。
…ん?
「いや、熱い…?熱い!身体の中で炎が燃えてるのがわかる!」
「本当…不思議な感じ。食道や胃が焼けてるってわけでもないのに。熱いお湯を飲んだのとは違った心地良さだわ」
「これ好き!楽しいね!」
炎系統の魔法を使うマリアは特に好んでいた。
他にも水、風、雷と、いろんな魔力を食べさせる店が見られた。
魔に長けた魔人族ならではの魔法の楽しみ方に、私たちは驚嘆させられるばかり。
「私は氷の魔力が好きですね。口の中でひんやりとして」
「あたしは雷が好きかも。パチパチ弾けておもろいし。文字通り痺れる感じがクセになりそ」
「闇の魔力は…好みが分かれそうね。ずっしり重たくて、深みがあるというか」
「わ、私は好きです…」
「テレサクロームでグリンガムさんが出してした魔力のお酒と同種のようですね」
「魔力を食べさせるか…魔法のことはそれなりに知ったつもりでいたけど、こうして見ると奥が深いな。私もやってみよ。どれ、こんな感じか…?」
手のひらを向かい合わせて、その中で魔力を渦巻かせる。
そのままだと大気に分散する魔力を留め持続させる。
そんでもって攻撃性を抑えてやる。
体内に取り込んだ魔力が暴発しないよう、荒れ狂う部分を除去。
丁寧に丁寧に…って、魔法の専門家じゃないから難しいことはわかんないけど、これかなり疲れるな…
「よっし出来た」
「なんてキレイな緋色の魔力。光り輝いてまるでルビーのようですね」
「これ食べられるんですか?」
「知らん」
だってこんなことやったの初めてだもん。
「食べてダメなことはない…と思う、けど…うーん。アルティ、あーん♡」
「なんで私が毒見なんですか!」
「だって大賢者だし、何かあっても私が責任取れるだろ。婚約者だし」
「婚約者という立場を軽んじすぎでは?!コキュりますよ?!」
「いいからいいから、ほれほれ」
「……あーん」
パクッ
「なんというか…そうですね…。妙ちきりんな…水のよう澄んでいながら泥のように濁っていて、熱いかと思えば冷めやすく軽くパリパリとしているような。味は無いので評価に値しないとして、店で出されたら店員に文句をつけるレベルです」
「人の魔力になんて感想抱いてんだ貴様」
「魔力を練るときに雑念でも混ざったんじゃない?」
「姫の魔力って食べたら孕みそう」
「孕ませたろかい。けどなるほど、思念…っていうか感情?それに性格が魔力に影響するのか…」
だとしたら私は、清らかだけど淀んでるときもあって、情熱的だけど軽薄めいてるってことじゃねーか。
そのとおりだな。
「魔人族固有の技のようにも見えますが、エヴァさんにも同じことが出来るのですか?」
「わっ私の魔法はその、性質上繊細な魔力の操作はに、苦手で…」
試しにエヴァが指先に魔力を集めると、黒い球体が爆ぜた。
「こ、このとおりです…ゴメンなさい」
ふむふむ…なるほど。
「よし。今のでだいたいコツ掴んだわ」
行程は魔法と同じだけど、魔力を魔法未満に留まらせるっていうのは、魔法を未完成に完成させるっていう一種のパラドックスみたいなもの。
魔人族の人たちはそれを無意識でやってのけるから、他人には物珍しく映るんだろう。
けどそれも要は構築するためのイメージだ。
私ならやって出来ないことはないだろ。
「魔力が糸を引いて…」
「スンスン…甘い匂い!」
「お花みたいな、お砂糖みたいな匂いです!」
ルウリの【魔力変質】で魔力の形状、性質を変化させ、アルティの【魔導書】で精密なコントロールを可能にする。
あとはこっちでちょちょいと整えてやれば…
「どうだ!」
「どうだ…って」
「でっかい色付きの毛玉作っただけじゃない」
「チッチッチ。これは毛玉じゃなくて」
「わたあめじゃーん。うっはデカー」
「わたあめ?」
「これ飴なんですか?」
「本当は砂糖を熱で溶かして糸状にするお菓子なんだけど、魔力で再現してみたぜ。どうせ食べるなら楽しくておいしい方がいいだろ」
「ひゅー映える〜」
ちょっと一口。
あむ…フカフカしてシュワシュワして…んー♡
「味がしねぇ」
なんでだ?
こんな甘い匂いしてんのに。
なんか失敗した?
「んー♡フワフワが口の中で溶けて…甘くて後には燃えるような熱さ♡姫これ超ウマいよー♡」
「おいしー!」
「ほわほわです!」
「え?マジ?」
「どれどれ…ん、たしかに!」
「ケーキやタルトとは一線を画した新たな甘味ですね」
「こんな魔力…初めて、です」
「おいしいですけど…リコの魔力をダイレクトに感じて…なんだかむず痒いような気がしますね」
みんなには絶賛されてもう一度試してみたけど、やっぱり味はしない。食感だけ。
自分の魔力だから味を感じないのか。
そりゃ自分の魔力を自分で取り込んでも何も変わらんよね。
「リコリスお姉ちゃんすごいなぁ。ねえねえアルティお姉ちゃん
、私もあれやりたい」
「私も〜」
「やりたいと言って出来るものでは…いつも言っていますが、基本的にリコはお手本にしてはいけない類の人間ですからね」
「理想の姉とおっしゃい」
しっかし…こんなにおいしそうなのにつまんないの。
なんて風にちょっとがっかりしていると。
「きゃーひったくりよー!」
通りの奥で何やら騒ぎが起こった。
お祭りで騒ぐ連中ってのは絶えないね。
「こっちに向かってきますね。止めた方が?」
「そうだな。エヴァ」
「はっはい…浮遊」
「うおっ?!な、なんだ?!」
男は突然身体が浮いて混乱した。
せっかくみんな楽しんでるんだから、暴力沙汰は避けておきたいな…ってことだったんだけど。
「おるァ!!」
ひったくり犯の男は、空から降ってきた女の子の蹴りをモロに受けてその場に昏倒した。
「エ、エーファ…!」
「ったくゴミ野郎が。おれの縄張りでひったくりとはいい度胸してんじゃねえか。ニューエルのエサにされてぇのか。あぁ?」
「おーエヴァっちの妹つえー」
「いい蹴りでしたね。お見事です」
「言ってる場合か。おーいエーファちゃん、その辺にしといてあげなよ」
「あァ?なんだてめぇらか。チッ、おいこのカスを衛兵に突き出しとけ」
「アイアイサー!」
エーファちゃんは手下の子たちに指示して、ノビた男を連れて行かせた。
「自警団というのは本当のようですね」
「カッコいいじゃない」
「ケッ、余所者に褒められても嬉しくねぇよ」
「偉いね…エーファ」
「でしょ、ねぇね…ん゛ん!うっせぇんだよ姉貴は…つーかなんだその格好」
「あっ悪魔の仮装…なんだけど…」
「めちゃくちゃ似合って…ゲホッゴホッ!!肩とか出してんじゃねえよ風邪引いたらどうすんだクソが!!」
あら可愛い。
お姉ちゃん大好きっ子いいわぁ。
「よおマリア!ジャンヌ!」
「ケイト君だ」
「さっきぶりだね」
「祭を見て回ってるんだな!」
「うんっ。ほら見て私たちも海賊だよ」
「フフンです」
「おーカッコいいな!似合ってるぞ!」
おっ、ちゃんと褒められて偉いじゃないか少年。
うんうん、君はいい男になるぞ。
「ま、おれの次にだけどな!」
おいこらしばき倒すぞ小僧。
「そうだ!おれたち今から飯を食いに行くところだったんだ!よかったらお前らも来いよ!いいよね船長?」
「好きにしろ」
「ご飯!」
「行きたいです!」
いっぱい食べ歩きしたろ君たち。
けどまあ、特に断る理由は無いので。
エーファちゃんたちについて行くことにした。




