5.銀色の再会
新章開幕です
成長したリコリスたちの冒険をどうかお楽しみください
「今日旅に出るよ。長いことかかったけど……まあなんとかやってみる。たまにお祈りするよ。だからどうか見守っててね、リベルタス」
街の教会で祈りを捧げ終わって、背後でポヨンとリルムが跳ねた。
『リー。そろそろね、時間だよー』
「ほいよーっと」
太陽のあたたかさは変わらない。
村に吹く風、緑と土の匂いも。
私は今日タルト村を出る。
村総出のお見送りは、女子たちの咽び泣く声が耳に刺さった。
「さてと、じゃあ行くね」
軽自動車くらい育ったウルの背中に乗って、私はお父さんたちに別れを告げた。
「本当に行くのか? 寂しくないか? 心細くなったらいつでも帰ってきていいんだからな」
「いや何歳だと思ってんの。気が向いたら帰ってくるよ。お土産いっぱい持って」
「いいか、変な人に声をかけられてもついて行っちゃダメだぞ。お菓子をくれると言われてもダメだ。それに男には気を付けろ。あいつらは隙あらば女を孕ませようとする害虫だ」
「だーから何歳だと思ってんのよ」
だいたいその理屈で言うとお父さんももれなく害虫だけど?
「男はみんなチ○コ触ってるんだ。握手すると妊娠するから気を付けろよ」
「今絶賛その手で撫でられてるのは?」
「心配いらないわよあなた。だってリコリスだもの」
「前にも聞いたセリフを……」
「リコリス、忘れ物はない?」
「うん。何回も確認したから大丈夫。リルムたちも一緒だし。お母さんもお父さんも元気でね」
「あなたも」
お母さんは私に手を伸ばすと、そっと頬にキスをしてくれた。
美人人妻のキスやったーーーー!
「行ってらっしゃい。ヨシュアたちによろしくね」
「うん! 行ってきます!」
「身体には気を付けるんだぞ! 生理のときは無理せず休むんだ!」
「最低さんか。わかったよ、そんじゃね」
「次帰ってくるときにはお姉ちゃんになってるだろうけど、この子にはお姉ちゃんは元気にやってるって伝えておくわね」
「ちょいちょいちょいうぉぉーーい?! それこんな別れ際に言うやつじゃなくない――――――――?!!!」
元気にヤってるのは両親でしたっか。
年頃の娘にはきちぃってそういうの。
王都へ向かう前に、辺境伯であるヨシュアさんたちに報告を。
「ついに……か。時が経つのはあっという間だな。我々もすっかり年を取ったよ」
「いやいやおじ様もおば様も昔とちっとも変わってませんて」
「あら、お世辞が上手くなったんだから」
うん、ほんとに。
肌が若々しいとかじゃなくて、二人の時間だけ概念から隔絶されてんの?ってくらい老けない。
肌ピッチピチ。
「リコリスちゃんは美人になったわね。昔からとびきり可愛くはあったけど、今はキレイの中に凛とした格好良さがあってステキだわ。ふとした瞬間に一目惚れしちゃいそう」
「マジですか。じゃあ次は私と結婚しますか」
「それもいいわね、フフフ」
「ウヘヘヘ」
「略奪愛となると、僕はリコリス君を死罪にしなければならないね。ハハハ」
怖えよ辺境伯。
知り合いの人妻とNTRなグッチョグチョなんてわけあるか同人誌じゃねーんだよ。
過分に惹かれはするけども。
「冗談はさておき。リコリス君、娘を頼むよ」
「はい。お任せを。ていうか今更ですけどよかったんですか? 大事な一人娘を旅に出すなんて」
「これも経験だよ。アルティがいずれ家名を継ぐにせよ、それ以外の道を行くにせよ、見識が広いことに越したことはない。広い世界を見て自分で選択してほしいのさ。貴族である前に、僕たちは彼女の親だからね」
「いい両親に恵まれてアルティは幸せですね」
「いい友にもね」
「ウッヘッヘ」
「そうそう、もうすぐ一人娘じゃなくなるのよ」
「は?」
「アルティに会ったら伝えておいてね。次帰ってくるときには、あなたはお姉ちゃんよって」
「はへぁ……?」
空前の出産ブームどうした団塊の世代の先駆けにでもなろうとしてる?
「ああそうだ、大切なものを渡し忘れていた」
と、メイドに持ってこさせたのは木箱に入ったビン。
中身はワインみたいだ。
「アルティとリコリス君の生まれ年のものだ。成人の祝いに」
「わっ、ありがとうございます」
「何か困り事があったら、いつでも連絡してくれ。我が辺境伯家は、いつ何時もリコリス=ラプラスハートの後ろ盾になろう」
心強さと優しさを受け取って、私は王都へと出発した。
ウルに乗って約三時間。
到着した王都は相変わらず賑やかしい。
これだけ人が多いと、リルムたちを連れてると目を惹く。
さっきから視線が痛すぎる。
「ねえ、あの人」
「わっ! すごい美人…!」
「はぁ……カッコいい……」
なーんちゃって私への視線でーす☆
どうも美人ですよーはいはい美少女が通りますよーフヘヘへへへ。
ちょっとニッコリ笑いかけたりしちゃったりして。
「きゃー!」
「こっちを見て微笑んだわー!」
「きゃーきゃー!」
ハハハ、くるしゅうないぞ。
こちとら女の子にキャーキャー言われてる時が一番生を実感するもんでね。
『何をやってるんだ』
「これが美少女の宿命というやつだよシロン」
『いいから行くぞ。待ち合わせの時間はもうすぐなんだろ?』
「貴様【睡眠】を覚えてからマジで堕落したな……突撃大好きホーンラビットはどこへ行った」
『これもボクなりの進化だ』
「そうかい。アルティからの手紙だと、今日の正午に中央広場の噴水の前に集合ってことなんだけど……中央広場ってどっち?」
『マスター、わたくしが空から見てまいりましょうか』
「そうだね。お願いルドナ」
『かしこまりました』
ルドナのナビのとおりに進むと、開けた空間に出た。
広場の中央には噴水も見える。
確かにここで間違いないようだ。
「ありがとうルドナ」
『お役に立てたようで何よりでございます』
『拙者の鼻でアルティ殿の匂いを追ってもよかったでござるのに』
「また今度ね。さて、アルティはー……っと」
アルティに最後に会ったのは13歳くらいのときだから、もう五年も経ってんのか。
あんにゃろう最初こそ帰ってくる度に泣きべそかいてたくせして、ちょっと熟れてきたら、帰る暇があったら勉強しますとか言い出しやがってよぉ。
いざ卒業ってなったら迎えに来てくださいだもんなぁ〜言われるままに来たけど。
ここは一つ、大人になったリコリスさんの色香でメロメロにしてくれるわ。
リコちゃん好き!抱いて!ってなもんよ。
「あっれぇ? アルティまだ来てないじゃん。日付けあってるよね……? おいおい遅刻かよー呼び出しといてしょうがない奴だな」
『リー、リルムお腹すいたなぁ』
「お昼だもんね。もう少し待って来なかったら一旦昼食……に」
不意にその人物に目が止まった。
いや、視界には入っていたはずなのに、ふと目があった瞬間、意識の全てを持っていかれた。
絵画から出てきたような、舞台の上のお姫様のような。
どんなものにも例え難いくらい、その美少女は美少女だった。
「みんなちょっと待ってて」
駆け足で近付いた後、何してんだと我に返って焦りだす。
何も考えてなかった……このままだと不審者と間違われる。
とにかく何か、何か言わないと。
「あ、あのっ!」
うっわ髪キレー……
目キラッキラ……
ハッ、ヤバい黙っちゃった!
「えっと、その……び、美人さんですね」
何を言ってんだ私はァ!
美少女ポカンとしてる。
ああでもその顔可愛いぃ〜。
っていやそうじゃなくて!
怪しい者じゃないって誤解を……
「プッ」
「ほぇ?」
美少女は慌てふためく私が相当可笑しかったらしくて、小さく吹き出した。
「相変わらずですね」
「えと……?」
「お久しぶりです、リコ」
「リコ……って」
そんな呼び方するのは一人だけで……って、え?
…………え?
それに首から下げたネックレス…昔私があげた手作りの指輪…
は――――――――?
「うぉえええええええええええええええええ――――――――?!!!」
アルティ=クローバー、18歳。
私の好みどストライクの超絶美少女になってましたとさ。
「うそうそマジでなになにちょっと待ってヤバいー! アルティ? 本当にアルティ? 本物?!」
「私の偽物が居るんですか?」
「あの泣き虫私にべったりの甘えん坊がこんなクールビューティーお姉さんになるの?! 魔法?!」
「いつの話をしてるんですか」
うあぁぁ……ジト目すら可愛いぃ……
「てかそんな喋り方じゃなかったじゃんかよー。高等部デビューかー?」
「それよりリコ、私のこと気付いてませんでしたよね?」
「ギクー! そそそそそんなわけないじゃん! 気付いてた! 気付いてたよー! 私がアルティのことわかんないわけないじゃーん! やだなーもー! アハハハハ!」
「本当のことを言ってください」
「めちゃくちゃ私好みの美少女居るじゃんナンパしたらベッドの上でおはようワンチャンいけないか?とか思ってましたすみません!!」
「……まあいいです」
ギュッ
ほあああああああああああ!!
「あ、あの、アルティ……さん?」
「会いたかった、リコ」
五年ぶりのハグとか情熱的ですなアルティさんうおおお乳柔らかーーーーい!!
いい匂いするぁぁぁぁ!!
「あ、っと……」
ヤッバいガチ照れしてる言葉出てこねー……
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け……
ステイクールでいけ……
心にキ○トとユー○オを……
ステイ……クール……よしいいぞ落ち着いてきた……
「リコからはギュッてしてくれないんですか?」
無理に決まっとるやろがーーーーい!!
「アルティ、ちょっとそこの宿で――――」
『リー』
「ふぁい!! え?! あ、リルムか! どうしたの?!」
『お腹すいたぁー』
「そ、そうだね! 何か食べに行こうか! それがいいよ! アルティお腹すいてる?」
「……ええ、少し」
どことなく不満そうにアルティは身体を離した。
「よし行こう! おいしい店あるんだーって王都のこと全然知らないけどーウヘヘヘ」
「はぁ。いいですよ、私の行きつけに行きましょう。リルムたちも入れるところですから」
「お、いいじゃんいいじゃん! 行こう行こう!」
はー……あっぶね。
ちゃんと性欲に負けるところだった。
こんな可愛くなってるとか…神様にチートもらってんのかよ。
アルティ行きつけというから、どんな高級レストランかと思ったけど……訪れたのはどこにでもありそうな大衆食堂だった。
学生御用達の早い、安い、美味い店。
そういうお客さんが多いのか、リルムたちを連れて入っても誰も何も言わない。
むしろ、
「うおっ! なんだあの美女二人!」
「おい、声かけようぜ!」
「無理だろ相手にされねえよ」
「ていうかあの銀髪の方ってさ……」
「ああそうそう! そうだよ!」
アルティが目惹いてんなぁ。
「にしても美少女に育ちすぎだろ。五年会ってないからってそんなんなるかね」
「そんなに変わりましたか?」
「いやぁもう可愛い。絶世の美女。めっちゃ告られるでしょ」
「めっちゃ告られますね」
「嘘ぉ?! え? え?! まさかもう彼女居たりすんの?!」
「居るわけないでしょう」
「焦ったぁ……もぐ」
「私はもうあなたのものなのに」
「うっわこの骨付き肉うっまこれ好きだわ! ちょ、これおかわりしよ! すみませーん、これもう一皿! あとサラダとぶどうジュースも! ん、何か言った?」
「なんでもないです」
なんでそんな膨れっ面なの?
「手紙では定期的に報告聞いてたけど、学園はどうだった? 楽しかった?」
「それなりに」
「そんな仏頂面でちゃんと友だちとか出来たのかー? 学び舎を共にした仲間とか一生モンだよ?」
「学園に通ってない人が何を」
「バッカおめー通ってなくてもだいたいそんなもんってわかんだよ」
「少なからず友人と呼べる人は何人か……」
「おほぉちゃんとやることやってて安心したわぁ。女の子? 可愛い?」
「はい。後で挨拶だけ伺いたいのですがよろしいですか?そのつもりで事前に連絡していて」
「オッケーオッケー。てかその畏まった喋り方何? 昔みたくリコちゃんて呼べばいいのに」
「学園に慣れたというか……今その呼び方は……恥ずかしいです」
酒が進みそうな恥じらい方しおってこやつめ愛いわぁ。
あ、酒といえば。
「これこれ。んしょ……っと。おじ様から預かってきたワイン。二人でどうぞって。夜に酒盛りしよ」
「……リコ、今それどこから出したんですか?」
「どこからって、ここからだけど?」
確かに何もない空間に手を突っ込むのって異常光景だけども。
「【空間魔法】?! エクストラスキルの中でも稀少な……リコ、あなたそれ!」
「さーわーぐーなって。違う違う、これリルムのスキルなのよ」
「リルムの?」
「【アイテムボックス】っていって、こういう風に異次元空間に物を収納しておけるの。生き物は入れらんないけど、中に入れた物はそこで時間が止まるから保存にも超便利。容量は大きめの屋敷も余裕で入るくらいはあるかな」
『なんか覚えたんだよー』
「ねー」
ある日突然エクストラスキルを覚えたのはさすがにビックリしたっけ。
なんだかんだリルムが一番伸びしろあるんだよなぁ。
やっぱ十年そこそこの月日って偉大だわ。
「やけに荷物が少ないとは思ってましたが……。相変わらずふざけた人ですね」
「シッシッシ。あとでアルティの荷物も預かるよ」
「ありがとうございます」
「間違えて下着とか物色しちゃったらゴメンね♡」
「自分で持ちます」
冗談だってばよ。
お腹いっぱいになったら、冒険者ギルドに登録に行く。
その前にアルティが友だちに挨拶したいというので、先にそっちを済ませる。
アルティの友だちかー。
いったいどんな美少女が待ってることやらグヘヘ。
「よだれ垂れてます」
「いけね」
「お願いですから粗相はしないでくださいね」
「お前は私を何だと思ってんだ。時代が生んだ超新星。可愛いと美しいとカッコいいとセクシーを兼ね備えた神に愛された絶世のスーパー天才美少女が私だぞ」
「自己肯定感お化けじゃないですか。恥じらいと謙虚はリルムに食べられたんですか?」
「食べられてねーよ! ていうかアルティ」
「はい」
「友だちのとこ行くって言わなかった?」
「そのつもりですが」
「家ってこの近く?」
「もう着いてますよ?」
「あー……見間違いじゃなかったら……ここお城じゃない?」
「お城ですよ」
王都のど真ん中にでっかく聳えるお城がそこらの貴族のものなわけも、ましてや平民の娯楽施設なわけもない。
ここってまさか。
「王城じゃん!!」
「行きますよ」
えええ……アルティ顔パスで入ってっちゃったよ……
衛兵さんたち敬礼しとるぅ……
私が入って捕縛とかされないよね?
「彼女は私の……です。変人ですが危険ではないので通してあげてください」
どんなフォロー?
アルティは勝手知ったる感じでどんどん城の中を進んでいく。
すれ違う人たち全員敬礼したり会釈したり、対応ヤバいだろ。
「あの、アルティさん? アルティさんていったい?」
「着きましたよ」
「ほぇ?」
「宮廷魔法使い、銀の大賢者、アルティ=クローバー様!! 御登城なされました!!」
なんだなんだ?!
銀の大賢者?! 何それ?!
開いた扉の奥にはたくさんの人、人、人。
衛兵に貴族に臣下に…奥の玉座に座ってるのは…
「よくぞ参られたアルティ=クローバー。そしてその友よ。ドラグーン王国第四代女王、ヴィルストロメリア=ジオ=ドラグーンである」
Oh……
一番偉い人御出座。
てかキレー……
「お目通りの機会を与えていただき、心より感謝致します陛下。こちらは我が無二の親友、リコリス=ラプラスハートにございます」
「ラプラスハート……英雄ユージーンと賢者ソフィアの子か」
「はい。リコ」
耳打ちして肘で小突くな。
こっちはいっぱいいっぱいだぞ。
どうするのこれどうしたらいいの。
膝とかついてないけど不敬じゃない?
今からでも土下座しとく?
「多少砕けてもいいですから。普通に」
「ふ、普通…?」
普通って何?
誰基準の普通?
何を以て普通?
よ、よし…
「どもーリコリス=ラプラスハートでーっす! はじめまして女王陛下! おキレイですね、今度二人きりでデートでもへぶち!!」
「無礼の極みですか!! 誰がそこまで粉々に打ち砕いた態度を執れと言ったんですか!!」
「いったぁ!! 頭叩いた!! アルティが普通って言うから普通に美人口説いたんだろーがよぉ!!」
「シンプルなバカじゃないですか!! だいたい痛くないでしょうスキル持ってるんですから!!」
「んだとこんにゃろー!!」
ギャーギャーギャーギャー
すると女王陛下が笑った。
「クク、ハハハ! 愉快な娘だ。よい、気が向いたときにでもそなたの申し出を受けようではないか」
騒然。ていうか唖然。
ユーモアがわかってるわー女王陛下あっぶねー首チョンパされなくてよかったー……
「ただしつまらぬ逢い引きを催したときは投獄する」
この先の言葉選び絶対失敗出来ん!
「さて、アルティよ。此度は冒険者としてその娘と旅に出るのだとか。延いては一時的に宮廷魔法使いの任を解けと。相違無いか?」
「はい。私はこのリコリスの傍らで、広い世界を知るつもりです」
「賢者ソフィアの愛弟子。そなたを史上最年少で大賢者にし、銀の称号を与えたのは酔狂のつもりではなかったのだがな」
大賢者というのは現在世界に九人しか存在しない、魔法使いのトップ中のトップ。魔法を極めた者のことをいう。
内、ドラグーン王国が抱えている大賢者がアルティを含み三人。
ちなみにお母さんはこの大賢者を辞退している。
理由は、
『めんどくさいじゃない』
とのこと。
アルティは五年前、氷の令嬢として史上最年少で大賢者の末席に加わり、銀の称号を与えられたらしい。
国中に号外が出たらしいけど…うち新聞とか読まないんだよなぁ。
ていうかアルティもヨシュアさんたちも知ってたなら言ってくれよなんで私だけ内緒にされてんの。
「撤回はせぬか? 大賢者はただの位ではない。国家が誇る貴重な戦力だ。出来れば手元に置いておきたいのが本当のところなのだが」
「何かあれば力にはなりましょう。ですがそれは出来かねます。私の親友が留まることを選ばないので」
「ふむ、リコリスよ」
「ほぇ?」
「我が直々にそなたの望みを叶えると約束すれば、そなたはこの地に留まるか? 必要とあらば地位と屋敷も世話をするがどうだ?」
「いや、無理ですけど」
また周りがざわついた。
そんな変なこと言ったかな。
そりゃ女王様ならハーレムくらいすぐに叶えられるだろうけど、与えられたハーレムは私のハーレムじゃないだろ。
「私の幸せは私が決める。私の夢は、私以外叶えられません」
言ってから、これも不敬か?!ってハッとしたけど、女王陛下は短く息を吐いて口角を上げた。
「親子揃って御せぬか。まったく度し難い。良い、銀の大賢者アルティ=クローバーよ、私を前に一分も臆さぬその娘の気概に免じ、今より一時宮廷魔法使いの任を解くことを認めよう。ただし緊急時に限り、その力を我が国のために使え」
「陛下の寛大な御心に感謝致します」
アルティが胸に手を当てて一礼したので、私も慌てて倣った。
終わった? もう帰っていい?
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退室後。
「よろしかったのですか、陛下」
「構わぬ。御せぬ相手と問答を繰り返すだけ時間の無駄だ」
「銀殿といい、奈落殿といい…我が国の大賢者は皆様揃って奔放ですな。それでも身勝手に世界中を飛び回っている雷帝殿よりは遥かにマシ…コホン、失礼しました。御せないからこそ大賢者足り得るのかもしれませんが…。しかし、あの銀殿がああも信頼を寄せているとは…。彼女はいったい何者なのでしょう」
「さあな。だが興味は湧いた。あれは私と同類…領域外の住人だ。何者にも屈せず、縛られず、靡かず、傅かない。王の資質のある女。奴がこの先何を成すのか…見ものだな」
クックッと楽しそうに。
女王は未来を見据え微笑んだ。
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「マージでさー。女王様に会うなら会うって言っといてくんない? 心臓バックバクなんだが?」
「言ったら逃げたでしょう」
「逃げるわ! そりゃもうホーンラビットの如く!」
「だからですよ」
「なんとかなったっぽいけど、認められなかったらどうするつもりだったん?」
「城丸ごと壊して国外逃亡です」
「衛兵さーん。謀反、ここに謀反企ててる人居ますよー」
「冗談です」
「わーとっるわ。てか、友だちに会いに来たってまさか女王様のこと?」
「そんなわけあると思いますか? 普通に友だちですよ」
「ふーん。それより、この国って女王が治めてるんだね」
「外の世界に関心が無さすぎませんか……。数年前に前王が崩御されて、ヴィルストロメリア陛下が王位に就いたんですよ」
「ほーん。ところで銀さんや」
「やめてください」
「なんで宮廷魔法使いとかなってるの?」
「それは」
アルティが言いかけると、部屋にそれはそれは可愛い子が入ってきた。
「アル!」
歳は私たちと変わんないくらいかな?
かわえぇ〜
「こんにちはリエラ」
「来てくれてありがとう。あ、こちらの方が?」
「ええ」
「はじめまして。ヴィルストロメリア=ジオ=ドラグーンが嫡女、リエラ=ジオ=ドラグーンと申します」
女王陛下の次は第一王女様か。
アルティの人脈エグチぃ……
それはそれとして、はい顎クイ。
「超可愛いね好きになりそう。私とイイことしない?」
「ひゃひっ?!」
「へぶっ!!」
アルティお前……普通女子の顔……グーで殴るか…?
「コ、コホン……。改めて、ドラグーン王国の第一王女です。どうぞリエラとお呼びください」
「リコリス=ラプラスハートです。アルティとは一夜を共にした仲です」
「まあ」
「子どもの頃のお泊りです」
「リエラもどう?忘れられない熱い夜を過ごさせてあげるよ」
「まあ……」
お、満更でもない反応。
ワンチャンあるよこれ。
「期待しても無駄ですよ。その人口だけで経験無しの処女ですから」
「はははは、はぁ?! 処女かどうかなんてわっかんねーだろー! 会ってない間にヤりまくりかもしんねーだろー!」
「ヤりまくったんですか?」
「ヤってないけど……」
「クソ処女」
「うっせーなー処女が処女に処女って言うなやー! こっちは高嶺の花すぎて純潔もらってくれる人が居なかっただけだってんだよバーカ!」
「こんな風にこの人は顔だけで性格は基本的にクズです。近付くと妊娠しますよ」
「妊娠させてやろうかソロプレイしかしたことないくせによぉ!」
ガルルルルルル
「プッ、フフフ。すみません。仲がよろしいのですね。アルが感情を剥き出しにしているところなんて初めて見ました」
「いやぁすっかり生意気になって」
「リコはすっかり女好きの顔だけタラシ色ボケあんぽんたんになりましたね」
口に悪霊でも取り憑いてんのか。
「羨ましいです。私にはそれほど砕けた友人はおりませんから」
「アルティとは友だちなんでしょ?じゃあ私とも友だちでよくない?」
「よろしいのですか?」
「もちろん」
「嬉しいです! じつは私、学園は中等部からの編入で。時期が時期ですでに形成された輪の中には入りづらく、それに王族ということで学園では遠巻きにされて…結局卒業まで腫れ物のように扱われていましたから。そんな中、アルだけが私に普通に接してくれたんです」
「王族とのコネクションは何があるにも絶対に有益だと思ったので」
「この人もう反逆者と何ら変わりないだろ」
「こういう裏表が無いところが好感が持てるんです」
そんなもん?
「ズレてるね王女様。ところでアルティってさ、学園ではどんな感じだった? この子そういうの全然教えてくんないのよ」
「アルは常に成績もトップで、魔法の才能は他を圧倒していましたね。それにとても可憐で美しく、一部のアルを慕う生徒からはシルバープリンセスなんて呼ばれ方をしていたようですよ」
「シwルwバーwプwリwンwセwスwwwうひゃひゃひゃお腹痛ぁーーーーwww」
「頭ってどのくらい凍らせれば記憶消せますかね」
そんな冷たい目で見んなよシルバープリンセスw
名付けた奴マジで最高にいいネーミングセンスしてるわ。
リエラ曰く、アルティが宮廷魔法使いになったきっかけは、アルティがリエラの魔法を見てあげたことらしい。
それが偶然女王の目に留まり、トントン拍子で宮廷魔法使いの中で名声を高め、大賢者になるに至ったのだと。
才能の塊だな……どおりでアルティのスキルが爆増してるわけだわ。
「アルが王都を去ってしまうのは寂しいですが、友として門出を祝わせていただきたく、お時間を頂戴した次第です」
「悪いねリエラ。アルティは私のだから」
「もう、そういうところが…」
なんでモジモジしとんだアルティよ。
「本当羨ましいです」
リエラは私の隣に座るとコソコソと耳打ちしてきた。
「アル、ずっとあなたの話をしていたんですよ。それはもう毎日。絶対一緒に旅に出て、あなたの隣に並び立てるようになるんだって。そのためにはいっぱい頑張らなきゃいけないんだって」
うわ……
なんか、なんだろ……
健気で……嬉しい……
「リコリスさん、アルのこと幸せにしてあげてくださいね」
「うんっ。もちろん」
「……?何の話をしているんですか?リコ?リエラ?」
「シッシッシ」
「「内緒!」」
可愛いところは変わってなくて、なんだか無性に抱きつきたくなっちゃった。
これからいっぱい話を聞こう。
会えなかった分までいっぱい話をしよう。
なんたって、私の一番の親友なんだから。