2-227.王様の中の王様
ピラミッドを思わせる巨大宮殿を中心に、半径、深さ共に数百メートルの超巨大な蟻地獄。
これは外部からの侵入を防ぐため、魔法陣によって展開されたものだ。
ただし間違って流砂に足を踏み入れようものなら、抵抗むなしくそのまま地中深くまで呑み込まれてしまう。
さながらあっちっちさばくの如く。
なら空中を飛んでいけばいいのでは?ってなると、宮殿の周りにはテイム済みのハゲタカの魔物、ヴァンデットバルチャーが何羽も旋回しているためそれも難しい。
時折この地形が起こす極小の砂嵐も、外部からの侵入を防ぐ要因となっている。
「ギミックがフツーにあっちっちさばく」
「帽子取られないよう気を付けような」
「あのクソ鳥マジヘイトヤバい」
「マ◯オネタではしゃぐアラサーきっつ」
「「アラサーじゃねーよ」」
知ってるってことはお前もやったことあるんだろ。
てか何歳でもはしゃぐわ神ゲーだぞ。
「これより橋を渡ります」
蟻地獄の縁から砂の橋が架かる。
その上を車で進み、ようやく宮殿へ到着したというところで。
「ん?」
窓の外に何か見えた気がした。
「キャハハハ!」
「きゃー!」
「アリス様! リリア様! 危ないのでこざいますよー!」
「こっちに戻ってこーい!」
……これがあれか、蜃気楼ってやつかな。
「なぁアルティ。見間違いじゃなかったら、私たちの娘が危険な蟻地獄の上を危険な鳥の魔物の足を掴んで飛び回ってるように見えるんだが?」
「奇遇ですね。私にも同じものが見えています」
「そっか」
……ふぅ。
「「くぉらー!! 降りてきなさぁーい!!」」
大声出して怒るけど、二人は聞く耳を持たず楽しそうに飛び回り続けた。
そこへもう一つ。
同じように鳥の足に捕まって飛ぶ子どもの姿。
「ワハハハハ! 今日の風は一段と良いな!」
あれは……
「な、な……危ないからおやめください!! アルリム様!!」
それはそれは楽しそうに遊ぶ姿に顔面を蒼白させ、運転席から飛び出してバースィルさんが叫び散らかした。
アルリム=エリドゥ=ラムール。
ラムールが誇る王様に向かって。
「アリスもリリアも! 遊びに来たんじゃないって言ったでしょ! いっつもいっつも危ないことして! ママ怒っちゃうよ!」
「ゴメンなさぁい」
「うゅ……」
ひぃん娘の泣き顔がグサッとくるぅ!
罪悪感で胸が締め付けられるぅ!
「そう叱るなリコリスよ。あまりの退屈故に我が二人を誘ったのだ」
「戯れは程々になさってくださいね陛下愛しのプリティエンジェルを誑かしてんじゃねぇクソガキ性癖歪めたろか」
「リコ、一応王様ですよ」
「フハハ。そなたは本音と建前の明暗がついてじつに良い。円卓会議だからと態度を改めることもあるまい。長旅ご苦労であったな。歓迎するぞ、恵みの一雫たちよ」
アルリムは私の手を取ると、紳士然と手の甲に軽く唇を当てた。
この子ども、歳はアリスと同じ。
しかし見た目とは裏腹な貫禄と風格。
王子ではなくれっきとしたラムールの王様だ。
「公式の場なのでこの口調で失礼。この度は円卓会議の会場を設けていただき感謝いたします」
「よい。すでに手紙にてその旨は受け取っている。我が自慢の国に名だたる王を招くことの出来た幸運は、何ものにも代え難い誉れだ。場を提供したくらいは些事に過ぎぬ」
天才。
各分野で突出した才能の持ち主は皆そう呼ばれるけど、アルリムを天才と呼ぶのなら、王の天才に他ならない。
産まれながらに王。
産まれながらに人の上に立つことを定められ、人を統べるカリスマ性を持つ純然な王。
生後一時間で立ち上がっただの、玉座の上でしか眠らなかっただの、最初に発した言葉は「命とは儚いな」だっただの逸話は山ほどあるが、特に信じ難いのは1歳のときに父親を退位させ王位についたものだ。
まあ私はそれくらいの頃には、見ただけでこの人今日生◯だなってわかってたけど。
「ご立派な心構えですが陛下、テイムしているとはいえ魔物で遊ぶのはおやめください。このバースィル、心臓がいくつあっても足りません」
「飼い慣らされた魔物で怪我を負うようならば、それは我の器が狭量であったということであろう。そなたが責を負う必要はあるまい」
「そういうことではありません。第一護衛は何を」
「ちょぉッとォ、もうィヤッ! なぁにこれ!」
あのバリトンボイスと虹色のアフロヘアーは。
「すーっごい肌に染み込んでくるじゃないのォ! しっとりツヤツヤモッチモチ! いいわァこの化粧水! 樽で送ってちょうだい! もうこの国日差し強すぎっ! 日焼け止めのプールで泳ぎたぁい!」
「あなたは……陛下の護衛もせずに何をしているのですか! アサヒ=シャイニングナックル!!」
派手な化粧、青ひげ、隆々の筋肉、いやにアバンギャルドな服。
特徴を挙げればキリが無いおネエさんは、私たちを見て象みたいに大きく鼻息を吹き出した。
「まぁた女が増えたじゃない! 男を連れてきなさいよ男を! ゴッゴッゴッゴッ、ぶふぅ!」
「悪いね絶世の美女で」
「お久しぶりですアサヒさん」
「護衛もせずに酒まで……この筋肉ダルマ……!」
「仕方ないでしょ! こんなに女が集まって女臭いったらないんだから! もうホントいや! 飲まなきゃやってられない!」
豪快さはさすが大賢者。
旭日の二つ名どおり、一度見たら目を焼かれそうな濃いキャラだ。
「あれ、モナ姉さん?」
「やっほー♡ みんな遅ーい♡」
「なにを一緒に飲んでるんですかあなたは」
「エヘヘ〜♡ アサヒちゃんがうちの商品のお得意様だって聞いたら盛り上がっちゃった♡」
「だァッて化粧品も香水も革命級なんだもの! もうオルタナティブ無しじゃ生きていけないわよ! どうしてくれるのよバカ!」
お得意様ありがてぇ。
「アサヒさんも円卓会議の護衛に?」
「そうよォ。バースィルちゃんがどうしてもって言うからぁ。本当はこんなとこ戻ってきたくなかったのに」
「そう言うなアサヒ。我が国を照らすもう一つの太陽よ。そなたが居ることは何より心強い。頼りにしておる」
「んもウッ! ほんっと可愛いんだからアルリムちゃんッ! んんんんんまっ!」
「陛下の頬に薄汚い唇を付けるなぁ!!」
キャラ濃すぎるのやめてくんないかな。
私が霞むだろ。
「キッツいなこの人」
「リコリスとどっこい」
……え?
アサヒは唯一書いてて楽しい野郎……もといおネエさんです。
腕周りが成人女性のウエストより太い人です。
次回もお楽しみにm(_ _)m
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