2-224.私がもし
「っし」
髪オッケー、化粧ノリ完ぺき。
うん、今日も絶世のいい女。
「リコ、準備はどうですか?」
「逆にどう? いい女すぎない?」
「今すぐキスしたくなるくらいには上出来です」
「えへぁ〜♡ してして〜♡」
した。いっぱい。
やる気アップしたとこで、真っ赤なコートに袖を通す。
正装のスーツと合わせると、まあガラが悪い。
「なんかマフィアみたいじゃない? デザインは最高だけど。なぁサクラ」
バカ言ってる、みたいな悪態が返ってくるかと思いきや返事が無い。
「サクラ?」
「え、あ……なに?」
「いや、大したことじゃないんだけど。どうした? 寝不足か?」
「あ……うん、そんなとこ」
なんか様子おかしいな。
「大丈夫? 体調悪かったら王都に残ってもいいよ」
「大丈夫。私も行く」
「そう? 無理しないようにね。アルティ、サクラにポーション渡してあげて」
「ええ」
「緊張か、それか疲れが溜まってるんだろうな。ここのとこずっと忙しかったし。ありがとサクラ。列車で少し横になるといいよ」
「……うん」
駅へと移動した私たちは、そこでエヴァ、ジャンヌ、ルウリの三人と合流した。
「おいすー」
「おっはよーみんな。今日も世界一可愛い」
「軽いですリコリス姉さん」
「う、嬉しいですけど……」
「ニッシッシ」
竜姫を含めた他のメンバーは、円卓会議の準備や諸々の事情でラムールに前入りしてる。
マリアはヴィルたちの警護で、ドロシーはロストアイの女皇として、それぞれ別行動を。
「師匠から何か連絡は?」
「何も。定期的に連絡を入れるように言っておいたのですが」
「もしかして、な、何かあったんでしょうか……」
「ま、師匠だしな。フツーに飲んだくれて連絡を忘れてる可能性のが高い」
とりあえずは心配しなくて平気って信じよう。
そうこうしてる間に、列車の出発時間になり、私たちは砂漠の国ラムールへと向かった。
「そういえばアリスちゃんとリリアちゃんは?」
「それがいつもどおり実家で面倒を見てもらおうと思ったら」
『お留守番ばっかりつまんない!』
『一緒に行きます!』
「って。ルドナにくっついてっちゃったんだよ。まったくおてんばで困るったら」
「そっくりじゃん親に」
「だってよアルティ」
「あなたですよ」
絶対にお前。
「一応向こうではルドナとプランに二人の面倒を見てもらう予定。円卓会議中はしばらくラムールを離れられなくなるし、あんまり遊んであげられそうにもないから退屈だよって言ったんだけど」
「ふ、二人とも、まだ子どもです……から。やっぱり、お母さんと一緒がいい……んだと思います」
「そうなのかなぁ……。それなりに構ってるつもりではいるんだけど……。仕事と子育てのバランスって難しい……」
アリスは精霊竜王という存在であるために途方もなく奔放。
リリアは普通の人間だけど、アリスという姉や私たちという特異な存在に囲まれてるために、多少感性がおかしいところがある。
一般的な親子像に当てはめようとするから、変な感じがしてるだけなんだろうけど。
「子育てって今だけじゃありませんし、一瞬一瞬を大事にしていればそれで充分だと思いますよ。二人もある意味のびのびとしていると言えますし」
「おおお、ジャンヌが先生っぽいこと言った! さすが大人気作家!」
「金言ですね。ジャンヌが子育てのエッセイを書いたら買いますからサインをくださいね」
「私も私も〜」
「もうっ、二人してからかって。姉さんたちなんか嫌いですっ。ふんっ」
「ニッシッシ」
ジャンヌは頬を膨らますけど、大きくなっても妹で遊ぶのが姉の楽しみなんだよ。
いつまでも可愛いまんまってことだね。
「子育てね。てかあたしらもそろそろ孕みてーんだが? ねーエヴァっち」
「は、はは、孕……ッ! ま、まぁ、その、はぃ……。その前に、結婚ですけど……」
「だから前から言ってんじゃん。私が世界征服したら全員まとめて嫁にするって。てか婚約はしてるだろ。孕……子どもに関しては授かりものだからってみんな納得してんじゃねーのかよ」
「それはそれ。これはこれ。っぱママ若いねとか言われたいわけよ。子どもたち見てるとシンプル羨ましいし。だからとっとと決めてよ。あたしら全員、姫のファーストレディになる準備は出来てんだから」
「あとは私だけってか」
プレッシャーかかってんなぁ。
みんなのためにも円卓会議を成功させたいところだけど。
「そしたら、悩みの種をどう解決するかだな」
暴力沙汰は好ましくない。
相手が女の子なら尚の事。
何も起こらないのが一番いいに決まってるのに、ダメだな。
マイナスなことばっか頭に浮かぶ。
そんな私の心境を察したか、みんなが神妙な面持ちをした。
「なんてな。大丈夫大丈夫。なんとかなるって。だって私たちだもん。今までだってそうだったろ」
「リコの楽観主義はいつものこととして、なるようにしかならないのはそのとおりです。私たちは最善を尽くしましょう」
そう言うとアルティは席を立った。
「サクラの様子を見てきます」
「ああ、私も行く」
「騒がしくしたらサクラが休めないでしょう」
なんで私が騒がしいの前提なんだよ。
――――――――
列車の個室。
ベッドで横になりながらも眠れず、私は晴れない気分で天井を見上げていた。
寝不足なのもある。
だけど、原因はやっぱりあいつだ。
『私のものにならない?』
あのクソ悪魔。
私の夢の中で散々言いたいことを言って逃げていった。
誰があんなやつのところになんか。
思い出しただけで気分が悪くなる。
『自分の居場所がどこであるべきか、ちゃんとわかってるはずだけど』
あの何もかもを見透かしたみたいな目……本当にウザい。
「ッ!」
イライラしたってどうしようもないのに、身体を起こして枕を投げつけた。
すると、
「キュウ」
アルティの鞄から小さなドラゴンが顔を出した。
「キュート……?」
オースグラードでアルティの従魔になった青い瞳のドラゴン。
家に居ても寝てばかりでほとんど誰とも関わらなかったのに、キュートは鞄から出てくると私の肩に止まり、鼻先で私の頬に触れた。
「もしかして、慰めてくれてるの?」
キュートは応えない。
ひんやりとした感触が、燻っていた胸の熱を冷ましていくようだった。
「……ありがと」
少し落ち着いたとき、アルティが様子を見にやってきた。
「気分はどうですか?」
「大丈夫」
「何かありましたか?」
「え?」
「いえ、いつもと様子が違う気がしたので」
勘がいい、とは違う気がする。
この人はきっと、よく見てるんだと思う。
リコリスが女に対して寛容な分、アルティは気を配り注意を払ってる。
いいコンビ……いや夫婦か。
「べつに。普通だけど」
「気のせいならいいんです」
部屋に入っても距離を空けて話してくれる。
私のことをよくわかってくれてる。
「……ねぇ、アルティ」
気が弛んだ。
そう気付いたときには、私はそれを言葉にしてた。
「私がもし百合の楽園を抜けたいって言ったら、どうする?」
気付けば次で300話ですか……
随分長いところまで来た気がします。
百合チートはまだまだ続きますが、変わらずリコリスたちにメロがってください。
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