2-221.野望
「モナと同じくらい欲張り、か」
それぞれ掲げるものは違えど、悪魔は自分の欲望に忠実だ。
物欲に限らず、身体、心、富、名声……他者の支配。
チェスティ=クトゥリス……モナの腹違いの妹も例外じゃないってことか。
『一概に同じとも言い難かろう。モナは天真爛漫に物を欲するが、チェスティはモナとは比べるまでもなく打算的じゃ。それに極めて狡猾で利己的でもある。が、それにしても解せぬ。奴は計略と知略に長けれど、歴代のクトゥリスの中でもかなり弱い部類に入る。とてもではないが、ドラゴンの群れを従えるほどの器ではなかったはず』
師匠がそう言うなら間違いないんだろう。
そうなると……
「何かしらのきっかけで力を得た。実力を隠していた。第三者の力添えがあった。考えられるのはこの辺りでしょうか」
『それに今になって自分の存在を露呈してきたのも気になるわね』
『手筈が整った……ということなのかもしれぬな』
「手筈って、なんの?」
あんまり考えたくはないけど、そうだな。
「私たちと事を構える、じゃねーの?」
みんな揃って水を打ったみたいに静まり返った。
考えたくはないけど、あれだけの被害を出して以降、こちらに干渉せずに沈黙を貫いてきたんだ。
何かあるって考えるのは自然だろう。
「チェスティ=クトゥリスについて、他に情報は?」
「スリーサイズと性癖から頼むぐふっ!」
両サイドからアルティとサクラのパンチが……
『妾が知っておるのは噂程度のものじゃからのう』
『モナも最後に会ったのすっごく前だからわかんなーい♡』
「わかんないって、妹なんでしょ? 義理のだけど」
『だってあんまり話したことないし、そもそも気付いたときにはもう産まれてたんだもーん♡ パパが愛人作ってるのもその時知ったくらいだし♡』
さすが長命種になるとその辺もいい加減になってくるな。
『円卓会議まで時間も無い。可能な限り妾の方で調べよう。いつ何時向こうが仕掛けてくるとも限らぬ。そなたらも万全を期すように心掛けよ。なに案ずるな。万事妾に任せておくがよい』
「そうだね。ま、気を取られすぎて他を疎かにしちゃ話にならないわけだけど。今回こそは決めるぞ。みんな、よろしく」
「……? 決める?」
話が一区切りしたとき、サクラが小首を傾げた。
「んぁ? あれ、サクラには言ってなかったっけ?」
「いつだったか話したことがあったはずですよ。リコの野望の話なら」
「野望って、もしかして世界征服がどうのとかって、あれ?」
「なんだ聞いてんじゃねーか。そうそうそれそれ。世界征服」
いやぁ、何回口にしても小っ恥ずかしいね。
子どもっぽいっていうか、チープっていうか。
「よっと」
私はグラスのワインを煽って立ち上がった。
「私はさ、サクラ。女の子がだーい好きなわけよ」
「知ってる」
「この世の全ての女の子とイチャイチャしたいし、全員に私のことを好きになってもらいたい。私だけのハーレムを作って、みんなに愛される姫になりたい。そのためには、この世界全部ぜーーーーぇんぶ私のものにするくらいじゃないとダメだ」
リリーストームグループはそのための足掛けだ。
私という存在を刷り込み日常化する。
そこに在ることが当たり前だと、無くてはならないかけがえのないものだと。
「私たちはリリーストームグループを以て大陸統一を成立させた。なら、世界統一も夢じゃねぇ」
「世界、統一……」
「そう! 国境も人種の垣根も、差別も貧富も全部取っ払って、この世界丸ごと一つの国にする! そして私がその世界の姫になる! それが私の野望! 名付けて世界楽園化計画だ!」
サクラはぽかんと目を丸くした。
「そんなこと……」
「出来るかどうかじゃない。やるんだよ。……違うか。出来るし、やる。私は私を疑わないし、私の愛する女たちを信じてる。不可能なんてこの世界のどこにも無いだろ。奇跡も運命も、私の手の中だ」
歯を見せて笑うと、サクラは小さく息をついた。
「あっそ」
……え?
それだけ?
「……なに?」
「いや、もっとリアクションとかあってもいいんじゃないかなー……と」
「今さら驚くことなんて無いし。世界征服とか勝手にしてって感じ」
「お、おお……」
「ていうか、リコリスの持論だとハーレムに男は要らないんでしょ? それも差別の一つになるんじゃない?とか、いろいろツッコみたいところもあるんだけど。ま、頑張れば?くらいは言っとく」
あくびを一つ、サクラは口元に手を当てた。
「じゃ、私は先に失礼させてもらうから。空いてる部屋貸して。泊まってく」
「あ、ああ、うん。おやすみ」
なんだ、あんまり刺さらなかったか?
世界征服って結構なロマンだと思ったんだけど。
「少しは近付いたと思いましたが、まだ距離は埋まらないようですね」
『まあ、サクラらしいって感じもするけど』
「?」
みんなサクラのわかり手みたいな顔しやがって。
ズルいぞ。
『アタシたちも休みましょう。円卓会議の細かい打ち合わせについては後日で』
「そうですね。総支配人各位、部門を挙げて取り組むようお願いします」
「んじゃ、解散っ。みんなおやすみーんーチュチュチュ〜♡」
――――――――
「ふぅ」
「お疲れ様でしたドロシー様」
後ろで待機していたアウラがお茶を淹れてくれた。
「次から次へと。ほんっと、悩みの種が尽きないんだから」
ただでさえ円卓会議開催で忙しい時期だっていうのに。
「あのバカ、余計なこと考え込んでなきゃいいけど」
「誰のことですか?」
「はぁ、こういうの年寄りのお節介って言うのかしら」
アタシは背もたれに体重を預けて天井を仰いだ。
――――――――
世界征服。
リコリスたちが本気なのはわかったし、きっとそれはいつか実現してしまうんだろう。
でも、たとえそうなったとしても私は私のまま。
何も変わらない。
わかってる。
私はこの中で唯一の異物だってこと。
リコリスを好きになんてならない。なれない。
あの人たちが私を追い出すなんてこと、絶対にするはずなんてないのに。
「自分の欲望のためだけに世界を統一する……リコリスの方がずっと魔王っぽい」
ならリコリスが世界を征服したとき、そこに私の居場所はあるんだろうか。
私はそこにいていいんだろうか。
柄にもなく、そんなことを思ってしまった。
ああ……くそ……
「ヘラるの、うっざ……」
今回も読んでいただきありがとうございます。
リコリスたちって本当、描いてて楽しいんだから。
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