2-110.新種の竜
「温泉が涸れた? そんなバカげたことがあるわけ」
「遠路はるばるお越しくださった外のお客様には心苦しくも……ご覧の有り様でして……」
温泉の管理人が示すように、街には温泉の蒸気一つ上がっていない。
観光客が居ない伽藍堂の街並みの寂しいこと。
「いったい何故?」
「はぁ、それが……」
「あれ? アルティ姉?」
「マリア?」
「わはー偶然!」
勢いよく抱きついてきたマリアを受け止める。
「出先で知り合いに会うのってテンション上がるね、ニシシ」
「ですね」
一人。それも帯刀している。
どうやら観光旅行ではないらしい。
「もしかして依頼中ですか?」
「そうそう。立ち話もなんだし、ご飯食べながら話そうよ。お昼まだなんだぁ。アルティ姉ゴチです♡」
「稼いでいるんですから自分で払いなさい……まったく」
何やら訳アリらしい。
近くの食堂へ移動して話を聞くことに。
相変わらずの健啖ぶりでテーブルの上にからの皿を積みながら、マリアは受けた依頼について語った。
「ドラゴン?」
「そう。二週間くらい前かな。オースグラードの源泉……オーベルジオの山頂ね。そこに一頭のドラゴンが住み着いちゃったんだって。で、そのドラゴンが源泉を独占してるらしいの。それでオースグラードから要請を受けて、私が来たってわけ」
「だから温泉が涸れて……しかし、なんでまた?」
「ドラゴンだって温泉は好きでしょ。竜泉郷にだってたくさんの魔物が湯治にくるくらいだし。オースグラードの温泉は格別だからね」
「いえ、そうではなく。いくらドラゴンが並の冒険者の手に余る相手とはいっても、それで何故神竜級のあなたに依頼が来るんですか?」
「調査隊の報告によるとね、そのドラゴン新種っぽいんだよ」
「新種?」
マリアは報告書の束をテーブルに広げた。
部外者に簡単に情報を開示するのは褒められたことではないけれど、あえて突っ込まないようにしましょうと、私はそれらに目を通した。
「名称未定……」
「昔リコリス姉とストーンイーターを討伐したとき、ミスリルドラゴンに進化したことがあったんだけど。今回も同じなんじゃないかっていうのが今のところの見解っぽい」
「見た目は普通のドラゴン。それもだいぶ小型なようですが、何故新種と?」
「調査隊には鳳凰級の冒険者が三人同行したらしくてね、その人たちによると剣も魔法も何一つ効かなかったんだって。まるでダメージを無効化してるみたいに。その人たちは命からがら逃げてきたらしいけど、そんなドラゴン前例が無いってことで、暫定的に新種に定めたっぽい」
「物理と魔法を無効にですか。それが本当なら上位種のドラゴン……いえ、幻獣に近しい存在かもしれません」
「ね。ってことで、ここでアルティ姉に会えたの運命だと思うんだよ♡ ねぇねぇ一緒に調査しに行ってよ〜♡」
「イヤですよ。今休暇中なんですから」
「おーねーがーいー♡ 手伝ってくれたらギューってしてあげるからー♡ アルティ姉が一緒だと心強いよー♡」
ギューってされましても。
「リコじゃないので効きません。私をなんだと思ってるんですか」
「お願いだよー。可愛い妹からのお願いっ♡ ねっねっ?♡」
「はいはい可愛いです可愛いです。では頑張ってください。オースグラードの温泉が再び潤うことを祈っています。それまではキノーフィスでも回りながら観光でも」
「じゃあ決まりっ! ごちそうさまでした! 行こうアルティ姉!」
「は? え? いやだから私は行かないって……力強いですね!! 人の話を聞きなさいバカ妹!!」
こうして私はマリアに拉致されてオースグラードが誇る霊峰、オーベルジオへと足を向けたのだった。
本当、あとで覚えてなさいマリア……
「なんで私まで……」
「ぶつくさ言わないの。大人でしょ」
生意気言いますねこの妹。
「だいたいなんで私が運ばなきゃならないんですか。あなた自分で飛べるでしょう。飛ぶというか翔けるですけど」
「アルティ姉みたいに空間転移出来るわけじゃないんだもん。そういう繊細な魔力のコントロールは無理」
「無理じゃなくてやらないだけです。自堕落なところまでリコに似なくていいんですよ。昔は私みたいな魔法使いになりたいと言っていたくせに」
「姉離れってやつだね」
「このまま落としてもいいんですよ」
「やーんアルティ姉こわーい」
「あなた本当妹じゃなかったらしばき倒してますからね」
そうこう言っているうちに、白い天険に到着した。
夏の終わりにも関わらず吹雪く悪天候を抜け、天の宮へ。
さすが竜の住処。いつ来ても空気が重い。
それに独特の魔力の濃さが肌に纏わりつく。
オーベルジオの最高峰、上位種たちの住処ともなれば尚の事。
「しかし新種というのもあながち間違いでないのかもしれませんね」
「どうして?」
「ノワールが幻獣に昇華して以降、竜王の力はアリスが継承しても、竜王の座は未だ空席。それは多くの上位種たちが、自らの力不足を弁えているためです。にも関わらず見ず知らずの新参者が天の宮の源泉を独占しているのを良しとするのは、力量差を感じ取っている以外にありえません」
「なるほど」
天の宮……本来竜王が住まうこの聖域に足を踏み入れた瞬間視線が刺さった。
敵意も殺意も無く、ただ私たちを視ているだけ。
マリアもそれに気付いているからこそ特に反応しない。
「依頼内容はドラゴンの調査でしたね」
「うん。あと可能なら源泉の奪取。そんでもしドラゴンが人類に対して有害なら討伐も視野に入れるって感じ」
「相変わらずギルドは無茶を言いますね。上位種を討伐だなんて、国軍が動く案件だというのに」
まあ、国軍に匹敵する個人戦力が神竜級なわけですが。
「人の匂いがすると思えば」
白い石柱の上から声が。
雪のように白い鱗の竜が一頭、私たちを見下ろした。
「お久しぶりです、スノウホワイトドラゴン」
冷気を纏った巨竜、スノウホワイトドラゴン。
この天の宮の番人にして、先代竜王の側近だ。
「珍客もあったものですね」
「足を運んだ理由は察していただけているようで」
「つい先日この地を土足で踏み荒らした無礼な者共を追い払ったばかりというのに」
命からがら逃げてきた冒険者というのは、どうもスノウホワイトドラゴンに痛い目に遭わされたらしい。
オーベルジオは定期的に人の手によって調査が行われているが、彼らが無事なのはドラゴンたちの気まぐれにすぎない。
むしろ感謝すべきだ。
自分たちの住処を余所者に我が物顔で歩かれる煩わしさを堪えていくれているドラゴンたちに。
生かされている幸運に。
「お邪魔させていただいても?」
スノウホワイトドラゴンは冷たい息を吐くと、起こした身体をまた横たわらせた。
「あなたたちが求めるものはこの奥に」
「失礼します。ところで、あなたはそのドラゴンには関与しないのですか?」
「他の竜がどう思っているのかは定かでありませんが、私はノワール様以外の王に仕えるつもりはありません」
「一途な忠義ですね」
私たちは柱の脇を過ぎ奥へと歩を進めた。
彼女ほどの力があれば、とうに幻獣の仲間入りを果たしていてもおかしくないでしょうに。
それほど強大な力の持ち主が静観を決め込むほどの相手。
はたしてどのようなドラゴンが待ち受けているのか。
何事も無いとありがたいのですけどね。
更新頻度落ちて申し訳ありません!!m(_ _)m
私生活がバタバタしております!!
過去の話でも遡って、気長に待ってやってください!!
よろしくお願いしますm(_ _)m




