2-97.ヒノカミノ国の夜明け
呪いの巨人、だいだらぼっちの撃破。
スイレンが目を覚ましたのは、その直後のことだった。
「スイレン……! スイレン……!!」
「姉さん……」
涙ながらに手を握るカレンと、それを取り巻く私たちを見て、
「……ああ、終わったのか」
スイレンは一言呟いた。
「結局私は……何も変えられなった……。何も……救えなかった……」
「そんなことない……。我は……ううん、私は……嬉しかったよ。やり方は間違ってた……たくさんのものを壊して、たくさんの人を傷付けたけど、私のことを思ってくれたことが……。ありがとう……スイレン……」
カレンはエトラに向くと、身を低くして頭を地面に当てた。
「この度の多大の被害の罪は、我々が償います」
スイレンはその様子を見て涙を伝わせた。
かつてカレンは自分一人で業を背負った。
けど今は。
「容赦も情けも無用です。この身、この命、如何様にも」
一緒に背負わせてくれる。
並び立たせてくれる。
それが嬉しくてスイレンは泣いた。
「どうする? エトラ」
「こんな健気な姉妹を前に、罪を償えなんて酷な話よね」
「けど大変なことじゃな。なんせここにいるのは、ドラグーン王国の公爵。加えてロストアイ皇国の女皇に魔王。世界の重鎮揃いじゃ」
「国際問題だね〜♡」
「ちょっ、みんな?」
「うーん。どうやってこの責任を取ってもらうべきか」
わざとらしい小芝居に、エトラは肩を落とした。
「ヒノカミノ国の将軍として、皆様にお願いがある。余の国と国交を結んではもらえないだろうか」
「国交ねぇ。魅力的な提案だけど、そのためにはこんな荒れたままじゃダメだと思うんだけどなぁ」
「かんらかんら。うん、そうだね。カレン=ユズリハ、スイレン=ユズリハ。忌童衆筆頭であるそなたらに、此度の沙汰を言い渡す。忌童衆はこの時を以て解体。今より鬼平隊と名を改め、真選組、鬼倭番衆に並ぶ余の側近として尽くすことを命じる。これを以て、全ての罪を雪ぐものとする」
鬼平隊……鬼が創る平和の世ってか。
ニシシ、悪くないんじゃねーの?
「すぅー……此度の件、全て余、エトラ=クラマガハラの預かるところとする!! この決定に異論ある者は名乗り出よ!! 天下泰平の第一歩!! これが、ヒノカミノ国の夜明けだ!!」
日が昇る。
翳った国が照らされる。
後光を背負うエトラの神々しさといったら。
そりゃ、拍手の一つも贈りたくなる。
最初は私。
それからアザミさんにアグリちゃん、チトセ。
ヤクモさんやオリュウさん。
映像を通じ、海上からも拍手と喝采が届いた。
すると今度はエトラまで泣き出した。
「将軍が泣いちゃ示しがつかねーんじゃねーの?」
「いいのっ! 将軍だって泣くの!」
「ニッシッシ、そりゃそうか」
私はエトラの頭をポンと叩いてから、倒れるスイレンをお姫様抱っこで抱え上げた。
「な、なにを?」
「まだハッピーエンドじゃないからさ。スイレンも一緒に見届けよう」
「私は……」
「何かが間違っただけ。自分の理想のために戦ったお前も、十分カッコいいよ。それを誇れるかどうかは、この先の生き方次第なんじゃねーの? って私は思うけどな」
「生き……方……」
スイレンがカレンを見やる。
いろんな感情を込めて、意を決したように言葉を発した。
「私は……今までずっと、姉さんだけに背負わせてきました……。姉さんはどんなときも私を思ってくれた。今度は私が姉さんを大切にしたい。だから……どうか幸せになってください」
「スイレン……リコリス殿……」
カレンは目元を拭い、エトラに向き直った。
「エトラ」
「うん」
『大きくなったら祝言を挙げよう! 私たちが一緒になったら、きっとみんな仲良く出来るよ!』
『祝言……?』
『大好きな人と、もっと大好きになるってこと! カレン!』
『エトラ……』
『私たち、いっぱい大好きになろう!』
「随分待たせた」
「待ちくたびれた」
「すまない」
「……その分、ちゃんと言って」
「好きだ」
「もっと」
「愛してる。世界中の誰よりもお前を幸せにすると誓う」
「無理だよ。余の方が、あなたを幸せにするから」
「ああ。私と夫婦になってくれ」
「喜んで」
熱く抱き合い、唇を交わして。
ここに二人の祝言は成った。
スイレンはまた泣いたけど、それ以上に泣いたのはシキだった。
――――――――
二人は手を繋いでウチの前に並んだ。
「シキ殿……私たちはこの血を継いでいく。この血で幸せになる。どうか見守ってほしい。……母上」
「孫の顔を見るのも近いかもよ、お義母さん」
母と、義母と、そう呼んでくれるん?
こんなウチを……
「ああ、あああ……! わあぁぁぁぁ!」
膝から崩れ落ちるウチを、二人は抱きしめてくれた。
こんなに幸せなことがあっていいのか。
こんな……
ありがとう……
それだけでウチは救われた。
これにて大団円ですかね。
あと1.2話で今章の完結を予定しています。
最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願い申し上げしますm(_ _)m
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