2-96.同じ血
何が罪なのか。
生まれてきたことか、壊したことか、傷付けたことか。
ならば罪に問われるべきは誰かと、カレンは自問する。
呪いの元凶か、自分たちを排した国の民か、妹か、はたまた自分自身か。
どうすれば償える。
何を差し出せば足りる。
自問に末は無く、ただ駆け、翔び、刀を振った。
この国を、妹を救うため。
「止まれ!! この国にはもう、悪意など要らない!!」
刀が燐光を帯び、夜空に白い線を引く。
「羅刹!!」
破邪の呪いが巨人を両断するも、呪力同士が結び付き肉体は即座に修復した。
「っ?!!」
巨腕から生える大小様々な無数の触手がカレンを穿とうとする。
それを天地を凍てつかせる氷壁と、時空を歪ませる奔流が阻んだ。
「氷獄の断罪!!」
「暗黒天星!!」
両腕を封じるほどの強大な魔法にカレンは目を丸くした。
「貴殿たち……」
「はぁ、よくよく見ればそっくりですね」
「そっくり……?」
「自分一人で何でも抱え込もうとする。一人で全てを背負ったような気になって。よく似ていますよあなたは」
カレンの脳裏に一人の女性が浮かぶ。
そんな彼女に、アルティは大丈夫ですと声をかけた。
「リコが救うと言った以上、それは確定事項です」
「私たちが……あ、あれを、止めれば……きっと……なんとかしてくれます」
「あなたにも守るべきものがあるのでしょう。ならば折れないことです。心さえ前を向いていれば、必ず未来は拓けます」
その言葉を裏付けるかのように、カレンの視界に様々な色が灯った。
さながら百花繚乱の花園の如く。
「アッハハ! あの時は、二人ともボロボロだったっけ!」
「ノアのときね! 弱くて立ち上がるのもやっとだった!」
「けど今は!! 空を灼く獄炎!!」
「なんだってやれる!! 天破の浄罪!!」
マリアとジャンヌ、二人の猛攻に巨人が後ずさる。
そこへ間髪を入れずシャーリー。
その蹴りは腹に風穴を開けた。
「終の黑針!!」
守る。救う。
その気持ちが一様に彼女たちを突き動かす。
仲間のために。
「立つ瀬がないのう、モナよ。最強たる妾たちが傍観など」
「モナは最後まで暴れるよ♡ リコリスちゃんと、シキちゃんのために♡」
「ああ、妾もまったく同じ気持ちじゃとも」
腕を振るだけで五体が引き裂かれる。
投げキッス一つで首から上が消し飛ぶ。
最強はそこに在って最強とばかり。
「攻め続けよ!! 再生する暇を与えるでない!!」
幾本もの刃が煌めきながら傷を負わせていく。
しかし呪いの巨人は百合の花たちの思惑を他所に再生を繰り返した。
指の先を伸ばして大地に突き刺し、呪力を侵食させ腐らせていく。
黒く染まる大地は見る見るうちに崩壊の一路を辿った。
「これは……!!」
「大丈夫だと言ったでしょう」
慌てるカレンに、アルティは喝を入れた。
「あなたは前を見ていればいい」
瞬間、緋色の風が駆け抜けた。
「ぜぇやあっ!!」
指を片っ端から切り裂いて、リコリスはカレンの傍らに着地する。
「私、参上」
「格好つけるのはいいですが、撃ち込まれた呪力は止まりませんよ」
「そっちは専門家に任せる」
なんとかするだろ、と。
リコリスは勝ち気な笑みを見せた。
――――――――
「おーっと、こいつは……ユウユ頼んだ!」
「さすがにキツいけど……やってやろうじゃないの!! 呪いがナンボのもんだってのよ!! 再臨する反転の時!!」
ユウカを基点に国を魔法陣が覆う。
黒く妖しく輝く光に、呪力が押し返されていった。
「やるー♪ ユウユかっこよー」
「あんたも手伝いなさいよ……!」
溢れ出る呪力は鬼となり彼女たちを襲う。
対しルウリは銃弾を放って威嚇した。
「ちゃんと守ってやんよ。同じ姫の女だからね」
「っは、かっこよね」
どいつもこいつもカッコいいったらない。
アタシはその様子に微笑ましさを覚えた。
あんたも頑張りなさい、エトラ。
――――――――
指を斬られようと、腕をもがれようと、頭を消されようと、呪力は蠢き続けた。
すると今度は膨大な呪力で大地を天高く持ち上げ、あろうことか五つの街をそれぞれ切り離してしまった。
「エヴァ!!」
「反重力場!!」
リコリスが頭を一閃した直後、大地は海面へと落ちていく。
エヴァは合図と同時、重力場を形成。
大地が落ちて砕けるのを防いだ。
「天変地異さえも意のままか……」
「最高だろ? 私の女たち。みんなが押さえてくれてる。最後まで付き合う。一気に決めるぞ、カレン」
「……ああ!」
――――――――
「……これが、今この国で起きている全て。受け入れられない人もいるかと思う。でも」
怒号、焦燥、不安。
今この瞬間にも悪意が煮詰まってるみたい。
言葉の刃がエトラを串刺しにする。
画面越しに届いてくる国民の負の感情に押し潰されそうになりながら、それでもエトラは毅然とした。
「怒りを、哀しみを、憎しみを!! 募り募らせてきたのは誰だ!! ずっと目を逸らし、排し、虐げてきたのは誰だ!! 罪というならそれこそが罪じゃないのか!! 余たちは変わらなきゃいけない!! 今、この時!! この国を救おうと必死になっている者たちの姿を見て!! ここはヒノカミノ国、日出ずる国!! もう二度と昇った日が沈まないように!! 今こそ余たちは心を一つにするべきなんじゃないのか!! 長き負の歴史に終止符を打ち、新たな時代の幕開けを迎えよう!! そのためなら余は、この命さえ惜しくはない!!」
意志に呼応するかのように、エトラの身体が光り出す。
金と銀。
烈光が夜空を切った。
上に立つ者の資格。素質。
胸を張りなさいと言ってあげたい。
あんたはとっくに。
「立派に……将軍してる」
そうね、って。
アタシはサクラに微笑んだ。
――――――――
「全員堪えなさい!! 如何に呪力といえ、宿主から切り離された以上再生は無限じゃありません!! 押して押して押しなさい!!」
アルティの号令で皆が更に火力を上げる。
私は一撃に備え全魔力を昂らせた。
けど、ノアのときみたいな浄化じゃダメだ。
規模がデカすぎるし、そもそも質が違う。
あれを抑え込めるのは、唯一カレンの力だけ。
そこで幾つか問題が浮かび上がる。
まず、カレンの力不足。
いや、カレンが弱いわけじゃなくて、巨人化した呪力が大きすぎる。
私が外からブーストをかけようにも、魔力と呪力が根本的に違う以上それも出来ない。
そうなると……
「シキ。お前がカレンをフォローしてやれ」
「お姉様……」
「…………」
「……わかった。カレン……ちゃん」
「……妙な感じだ。親でもなければ子でもなく、祖母とも孫とも違う。なのに、同じ血が通っている。忌童衆……いや、九尾の血族の末裔とて、我は貴殿の人となりが知りたかった。直接この目で確かめたかった。だからエトラに頼み貴殿をこの国に呼んだ」
そういうことだったのか。
「稀代の犯罪者。傾国の狐。命を命とも思わない冷徹な極悪人なんだろう。そんな者の血族が、将軍と……誰かと結ばれていいわけがない。そう思っていた。だけど、実際に会った貴殿は普通だった。どこにでもいる唯一人の女性だ。誰かを愛し、慕われ、愛される素敵な妖怪だ。……誇らしくなった。貴殿と同じ血が通っていることが。誇らしく思わせてくれた。リコリス殿が。……シキ殿」
「うん」
「全てが決着した暁には、我らの祝言に立ち会ってはくれないだろうか」
「喜んで」
手と手を重ね、白い光に黒い光が混ざり合う。
相反するそれらは互いに干渉し合い、巨人を包み込むまでに膨れ上がった。
巨人が暴れる度に光の球体にヒビが走る。
みんながそれを止めようとした瞬間、金と銀の光が球体を覆った。
「エトラ……!! 今だ行け!! シキ、カレン!!」
――――――――
どれだけ感謝を込めたらいい。
いったい何を捧げれば足りる。
ウチは……
「決めるよ!! カレンちゃん!!」
「これで終わりだ!!」
「「戴懴巫軍!!」」
呪力によって作られた黒白の球体が巨人を捕え、小さく小さく圧縮していく。
その内側は時間、空間の概念が消え失せたこの世ならざる無限の狭間――――幽世。
囚えられれば落ちるだけ。
心臓みたいに小さく脈動しながら、それは輝きを放ってウチらの元に。
「魔竜の暴食!!」
加えてお姉様の異空間に幽閉することで二重の牢獄を成す。
もう二度と、悪意に染まった呪力が外に出ることは無い。
突如訪れた静寂に困惑しながら、交わしたお姉様の視線が膠着した身体を解かした。
「終わったな」
報われたじゃない。
雪がれたでもない。
ウチはただ、涙を流して笑った。
約三日。
皆様に愛されながら書いてきた百合チートは、所謂センシティブを理由に運営により非公開にされました。
が、当方は、百合チートは舞い戻ってきました。
いくつかのページからセンシティブな部分を切り取りR18版に移行し、または改稿し、ようやく非公開の呪縛から解き放たれました。
呪いに打ち勝とうとするリコリスたちのように。
読者の皆様にはご不便をおかけしましたが、これからも百合チートは続いていきます。
ガイドラインのギリギリを攻めながら、軽薄なまでに軽快な百合を書いていこうと思います。
どうか変わらぬご愛顧を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
短くはありますが、以上を当方の言葉にさせていただくと同時、ヒノカミノ国編は残り数話で終わりを迎えますことをお伝えします。
ハッピーエンドを目指して。
最後までお付き合いくださいませm(_ _)m
高評価、ブックマーク、感想、レビューにての応援をいただけたら幸いです。




