2-89.カレンとスイレン
カレン=ユズリハ。
スイレンの双子の姉の酒呑童子で、同じ忌童衆の筆頭。
エトラの想い人でもある。
まったくでないにしろ、今回の事件には無関係だと勝手に思ってたのに。
今は私たちを守るために剣を抜いてる。
何が何だかだけど、一番困惑してるのは他でもないスイレンだ。
「姉さんが、どうして……なんで……なんでここに……」
驚愕……というにはあまりにも青ざめた顔。
止めに来るなんて予想してなかった?
いや、なんというかあれは……
「ダメ……ダメです姉さん……早く……はやく船に戻ってください!!」
口調が元に戻って……こっちが素ってことか。
「カレン……」
「すまないエトラ。もっと早くここに来ていたら、これほどの惨状は防げたはずなのに」
「そんなのどうでもいい!! なんで来たの?!」
エトラもスイレンとまったく同じことを訊いた。
助けに来た人に向かって言うことじゃない。
その理由はすぐに私も知るところとなった。
「あなたは船から出ちゃいけないのに!!」
「船から出ちゃいけない……?」
よく見れば顔色が良くない。
体調不良……?
「それって」
「サクラ殿、すまないがエトラを連れて下がっていてくれ。巻き込まない保障は無い。……スイレン」
「っ!!」
「もうやめよう。これ以上誰かを傷付けるのは。お前にも聴こえるはずだ。この国の嘆きが、人々の悲しみが。痛みを知るからこそ、我々はそれを他に向けてはいけない。そんなこと、お前だってわかって――――――――」
「私たちが一番嘆いてきた!! 私たち一番泣いてきた!! 忌童衆というだけで、狐の血が混ざってるというだけで、いったいどれだけの同胞が悲しみに打ちひしがれ、絶望してきたか!! 姉さんだって知ってるはずです!! 姉さんが、誰よりも!!」
「やはり……我のために……。すまないスイレン。我がちゃんと止めていれば、お前に罪を背負わせることはなかったのに」
カレンが申し訳なさそうにするのを見て、スイレンは胸を押さえた。
「どうして姉さんが……つらそうな顔をするのですか……。どうして姉さんばかり……いつも……。……っ、お前が……!! お前らが……!!」
歯を軋ませるくらい食いしばり、スイレンは憤慨した。
「お前らさえ居なければ!!」
怪物、【炎輪魔の灼刀】がスイレンに操られるまま炎を噴射する。
するとカレンは跳び上がるなり、炎の怪物を爆炎もろとも一太刀の元に切り裂いた。
「やめるんだ。呪いの力は我には一切通用しない」
「…………!!」
「これ以上の戦いは無意味だ」
「私は姉さんと戦いたいわけじゃない!!」
「我だって同じだとも。血を分けた妹だ。剣を交えたいはずがあるものか。だが、お前がエトラたちを傷付けようというなら。この力でお前を止める」
「……っ、どうして」
「スイレン」
「どうして、わかってくれないの!! 【悪鬼天帝の獄刀】!!」
「違う……わかりたいからこそだ!! 【悪鬼獄王の天刀】!!」
剣の打ち合い。
それが断崖の遥か下の海を、水平線の彼方まで割った。
ヒノカミノ国の、ともすればこの世界最大の姉妹喧嘩はこうして始まったのだった。




