2-80.老人の務め
「観廻組に元鬼倭番衆。古くせえ遺物が雁首揃えてきたと思えば大賢者じゃとは。なかなかどうして、豪勢な喧嘩じゃなぁおい!!」
大剣を叩きつけると、地響きの後に地面が隆起した。
「どいつもこいつもぶち殺してやりてぇところじゃが、やっぱおまんはわしが殺さんと気が済まんわ狐ぇ!! 濤龍門!!」
専用の舞台のつもりなんだろう。
城の景観を破壊し競り上がる台地は、トウマとシキの二人を残しあとの面々をふるい落とした。はずだった。
「おっと〜その役はお姉さんに変わりな〜」
シキを乱暴に蹴り落として、アグリは自らトウマの戦場に立った。
「おまん……!!」
「散々やられたからね〜。借りは返さないと気が済まないのさ〜」
「ああ、ええじゃろう!! まずはおんしからじゃ!! 肉片にしてやるけぇのう真選組!!」
怒りを押し上げ空を穿つ台地を、私たちは見送ることしか出来なかった。
「大丈夫、心配無いよ」
エトラはポーションを煽り、絶え絶えの息で肩を上下させた。
「はぁはぁ……っ、助太刀感謝するよ」
「威勢よく登場しておいてなんじゃがのう。腰がどうも言うことを聞かんでな。悪いが体の良い護衛程度に思っとってくれい」
「使えないわねこの爺さん」
「斬られて臥せとったんじゃが?! 少しは労ってくれい!」
「だから治したじゃない。アタシの薬は効いたでしょ」
「効いたわギンギンじゃ! 全部終わったら遊郭へれっつらごーじゃ!」
「そんだけ元気ならいいじゃない」
そう言うドロシーは精霊の翼を広げてミナモに向いた。
「あいつらはアタシたちで相手をしましょうシズク、オソノ」
「承知仕りやした」
「ヒィエッヒェッ、ああ」
「ぼくたち相手に一対一? ケヒヒヒッ、身の程知らずがいたもんだ」
「お館様より預かったこの力、大賢者であろうと噛み砕いてみせよう」
「来いよババア。今度こそ息の根を止めてやる」
「一応アタシ女皇なんだけど。不敬極まりないったら。シキ、あんたも少し休んでなさい。こいつら叩きのめして終わりってわけじゃないんだから」
「……ありがとね」
シキは気が抜けたように膝から崩れ落ちた。
体力が回復してないんだ。
「サクラ。シキのこと見てて」
「……うん」
ドロシーのそこはかとないニヤついた顔が気になった。
「なに?」
「べつに。クスクス」
他意とか無いんだけど。
状況が状況だから頷いただけだから。
「疾く消えろ、有象無象!! 鵺離壊牙斬!!」
咆哮に乗せた斬撃がエトラを襲う。
ヤクモはやれやれと羽織りをはためかせ、あろうことかそれを蹴りの一発で打ち消した。
「だからよぉ、老人は労らんか」
ショタお爺ちゃん強……
「ごもっともでさぁ。いたいけなお年寄りに手出しはいけねぇ。喧嘩の相手なら目の前にいるってぇのに。手前じゃ役不足ですかい? 鵺のお姉さん」
「唐傘風情が……いいだろう。まずは貴様から殺してやる」
「恐悦至極。と言っちゃあ何ですが、助っ人に呼ばれてやられて終わりなんざ笑い種でごぜぇやす。手前も大賢者の端くれ。良いところを見せやしょう」
番傘をくるり。
柄の鯉が泳ぐ。
「虎死弾弾!!」
連射される砲撃を合図に、ドロシーとオソノも駆け出した。
ミナモとシノがそれを追う。
私は変わらず見ているだけなんだけど、目の前が静かになってガクッと力が抜けた。
我ながら気を張ってたらしい。
「サクラ」
「なに?」
「ありがとう」
エトラが何故か感謝の言葉を口にした。
「お礼言われることしてないけど」
「無力でも無能でもってやつ。響いたよ。かっこよかった」
「……あっそ」
「さすがリコリスの選んだ女だね」
「次それ言ったらぶん殴る」
「かんらかんら。っと、こうしちゃいられない」
「どこへ?」
「これだけの数、被害はきっと街にも及んでる。早く民の避難を促さないと」
勢いよく立ち上がるけど、足はふらついて体勢を崩した。
「無茶しない方がいいですよ。まだ万全じゃない」
「市中は観廻組が動いとる。心配は要らんぞ」
「余が動いて誰か一人でも助かるならそれがいい。無茶も無理もするよ。余は将軍だからね」
この無鉄砲な感じ……あいつが重なってイライラする。
けど、それがやりたいことなんだから仕方ない。
「私も行く」
「心強い」
「私も……お供します」
「セイカ! 傷はもういいの?」
「今立ち上がらなければ、もう二度と女性の厠を覗けない。それは御免被りますから」
この変態はなにを良い顔してるのか。
「鬼倭番衆」
どこからか傷だらけの忍者たちが現れた。
「将軍を、この国を守るために刃を振るえ。散っ」
御意と短く残し散っていく。
私たちも走った。
とにかく夢中で。
誰かを助けるために。
「まったく、お転婆じゃのう」
「先代の将軍にそっくりです」
「それな、じゃ。ほれどうする九尾の」
「ウチは……」
「若者だけが前を向いておるぞ」
唇を噛み、シキもまた立ち上がり駆けた。
自分に出来ることを探すように。
「世話が焼ける」
「それが老人の務めですよ」
「あいつ誰よりも歳上なんじゃが」
ヤクモは手の平に拳を打ち付けた衝撃で、彼らを囲む忌童衆と滾る戦火を震わせた。
「野暮は無しか。すぅー……ふぅ。ぃよっしゃ行くかのう!! しかと目ン玉に焼き付けろや小僧共!! 酔侠ヤクモ=ホウヅキ此処に在りじゃあ!!」
4月に入ってあたたかくなりましたが、肌寒い日が続きます。
風邪など引かぬようお気をつけください。
当方は絶賛花粉で死んでおります。
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