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百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!  作者: 無色
百妃夜后編

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2-79.味方がいる

 そっとフミコを横たわらせて。


「じゃあモナは行くね♡ 起きたらいっぱいお話しよ♡」


 と踵を返したとき。

 

「ご苦労だったなフミコ」


 目を離した一瞬のうち、その人物はフミコの傍らにしゃがんでいた。

 濡れた目元をそっと拭い、それからモナへと冷たい目を向けた。


「新しい子だ〜♡ あなたもモナと遊んでくれる、の――――――――」


 油断も慢心もする。

 それがモナの矜持とはいえど、その人物はあまりにあっけなくモナの首を刎ねた。


「失せろ」


 しかし不死。

 首と胴体は引き寄せられる。

 

「モナは死ーなない♡ ……あれ?」


 いつもどおりの爛漫な笑顔が固まる。

 未だかつて覚えの無い虚脱感に膝をつき、口元からは血を垂らす。

 

「おっかしいなぁ……モナは無敵なのに……」

「不死も無敵も、ましてや最強も私の前には無意味」

「やーんやられちゃうー♡ なーんちゃって♡ 邪淫に噎び哭く口吻を(ラストドミネーション)♡」


 魂を強制的に隷属させる魔法。

 アンリミテッドスキル【欲望竜の邪淫(アスモデウス)】の真骨頂だ。

 けれどその人物は、妖しい輝きを帯びた黒刀を以て権能を切り裂く。


羅刹(らせつ)




 ――――――――




「これで火の手は収まったか」


 随分手間取った、とアザミは焼け崩れた一帯を見やりながら肩を落とした。


「これだけで抑えられたのを喜びましょう。負傷者は出たもの、幸い死者はいないようですし」


 遊女たちの避難が間に合ったのは、ひとえにアザミの迅速な活動によるものだが、彼女は不服そうにミオに視線をやった。


「私は真選組(しんせんぐみ)だぞ。民の命は守れて当然だ。民が安心して過ごせる場所を守るのも。まったく不甲斐ない」

「生きていれば何度だってやり直せます。悲観するより、今は更なる被害が出ないように努めましょう」

「……ああ」


 リコリスの後を追おうとした矢先のこと。

 二人の後ろで爆発音が一つ。

 

「?!」

「なんだ?!」


 (くるわ)を突き破ってきたモナの姿に目を見開いた。


「モナさん!!」

「っ、待てミオ!!」


 駆け寄ろうとしたミオにアザミが制止をかける。

 しかし一拍遅く。

 粉塵の中から飛翔した黒い斬撃がミオに直撃した。

 

「――――――――!!」

「ミオ!! 救世一刀流(ぐぜいっとうりゅう)!! ()――――――――」

黒倒(くろのす)


 アザミは剣を振る最中、心筋を撫でられているかのような圧迫感を覚えた。


(なんだ……動きが遅い……!! 身体が動かない……!!)


 黒刀を手に一歩、また一歩。

 戦場にそぐわないほど可憐な所作で、静かにアザミの胸を貫いた。


「こふッ――――――――」

「朽ちて滅び死に絶えろ。お前たちが作った絶望の灰の下で」




 ――――――――




 ミナモという新手の登場で、一度押し返していた戦局は再び忌童衆(きどうしゅう)が盛り上げる形になった。

 シキとアグリがどれだけダメージを与えても、


妙薬投与(みょうやくとうよ)!!」


 あいつのスキルで回復される。

 一番体力の消耗が激しいのはアグリだけど、無尽蔵のスタミナを持つシキでさえ息が上がってる。

 

「ケヒヒヒッ、どうしたどうしたの? まだまだ終わらないよ。河降(かわくだり)!!」


 濁流が降ってくるのに合わせ、シキが印を結ぶ。


五行相生(ごぎょうそうしょう)水生木(すいしょうもく)!! 五行相剋(ごぎょうそうこく)木剋土(もくこくど)!!」


 更に続けざまに。


五行相生(ごぎょうそうしょう)土生金(どしょうごん)!!」


 相生(そうしょう)相剋(そうこく)

 相入ることで生み出す力と、相反する力。

 水から木を生み、木を土流で呑み込む。

 土流からは金が。

 ただ防ぐだけならどうとでも出来たのにそうした理由は。


「アグリちゃん!!」

「……仲間扱いはしないでほしいんだけどな〜」


 隆起した黄金の柱に手を伸ばし、大口を開けてがぶり。

 瑞々しいフルーツにでも齧り付くように、口の中に黄金が滑り込んでいった。


「しゃらくせえんじゃダボが!! 龍嚇鋸(たつのおとしご)!!」

金祓(かねばらい)利速(りそく)!! 刈慰黎(かりいれ)!!」


 金は力。

 アグリはそれを体現する。

 後に衝撃波が生まれる速度で大剣を掻い潜ると、アグリは一刀でトウマを斬った。


「礼は言わないよ〜」

「うん、それでええよ」


 尤もそのダメージはミナモによってすぐに回復されたけど。

 

「ケヒヒヒッ、だめだめ。首の皮一枚繋がってれば、ぼくが何度だって回復させるから。忌童衆(きどうしゅう)玄武隊(げんぶたい)隊長、河童(かっぱ)のミナモ=ヌマノフチ。忌童衆(ぼくたち)を止めたいなら、まずはぼくから殺すんだね」

「身体の痛みなど何度でも耐えよう」

「心に負う傷の方が何倍も痛いことわからせたるけぇ」

「……はぁ。お姉さんの嫌いなタイプだな〜」


 コキッと首を鳴らして、アグリはそんなことを言った。


「自分ばっかり不幸だと思いこんで、他人の幸せを妬んでるだけなんてさ〜。人が傷付いて、飢えて、病んで、死んでなんて、世界中のどこにでもある話だぜ〜」

「だから憎み合うのはやめましょう。争うのはやめましょう。とでも言うつもり?」

「清濁併せ呑む……それはただの理想だ。皆が皆割り切り、つらい境遇を受け入れられるわけではない」

「わしらはこの力で、わしらの中の血に、運命に抗うんじゃ」


 矜持。或いは意地。

 三人は覚悟を背負った面持ちでシキとアグリを睨んだ。

 三人……


「シノは……!!」


 エトラの背後で影が揺れ、血しぶきが噴き上がる。


「――――――――!!」

「エトラ!!」


 エトラが斬られた。

 シキが勢いよく飛びかかったのに合わせて、シノはひらりと後方に跳んだ。


「ちょっと逸ったか〜。隊長たちの気配が大きいからやりやすいですよ〜。ありがとうございます〜」

「カッ、よぉ言うわ。闇に紛れるのが人斬りの生業(なりわい)じゃろうが」


 刀についた血を一舐め。

 シノは人斬りの快感と退屈が混じった何とも言えない表情で切っ先を下げた。


「これが成り上がりの血か。クソまじぃ。肉も貧相。つくづく無能だな。不思議でならねぇよ。なんでお前みたいなのが将軍の地位に収まってんのか」


 シキがポーションを飲まそうとする。

 だけどエトラはシキの手を押さえ、抱えられながらシノの言い分を笑った。


「かんらかんら……本当、なんでだろうね。将軍の血筋ってだけで将軍を名乗る……誰にも望まれず、疎まれるお飾りのくせに。自分の器くらい()が一番わかってるよ……それでも」


 エトラはシキの手を借りながら立ち上がった。


()が将軍であることには……必ず意味がある!!」




『エトラちゃんが将軍様だったら、みんなで仲良く出来たのかな』




「どれだけ嘲笑(わら)われようと、蔑まれようと、()は将軍であることを恥じた覚えは無い!! ()こそがヒノカミノ国の大将軍! 天上天下に並ぶ者無き唯一人の()!! 大天狗(おおてんぐ)、エトラ=クラマガハラ!!」

 

 かくも毅然と。

 その目は確かな光を宿して。


「遠からん者は音にも聞け!! 近くば寄って目にも見よ!! 無力も無能も花の内!! ここは()が統べる国!! 全ての命が手を取り合う国だ!! 死んで花実が咲くでなし!! 生きて未来を繋いでみせよう!!」


 将軍らしい将軍の姿に、その場の全員の時間が一瞬止まった。


「くだらねぇ。虚言、妄言、甚だしいわ。全ての命が手を取り合う? 差別を作ったのはおまんらじゃろう!! 原因を作ったのはそこの狐じゃろう!! わしらとおまんらはわかり合えねぇ!! けして交わることはねぇ!! 笑わせんなや将軍よぉ!!」

「遺言にしては少しばかり長いがな」


 巨大な獣の姿のトキヲが、口と大砲に光を集束させる。

 シキとアグリが二人がかりで止めようと試みるも、シノとミナモに阻まれる。

 

「大志を抱いて死ね」


 二つの光線が放たれ描く軌跡。

 それが途中で両断された。


「そォれ突っ込めぇ!!」


 轟と唸る風の音。

 それと巨大な船と共に。




「ッ?! 何?!」

「これは……宝船(たからぶね)?」


 ってことは、まさか……


「おぉ! 無事到着したのう!」


 いの一番に船から飛び降りてきたのは、作務衣(さむえ)に一枚羽織りを纏った少年……の姿のお爺さん。


「ヤクモさん!!」

「おうサクラの嬢ちゃん! 無事で何よりじゃ! 援軍に来たぞ!」

「援軍って……」

「なにしみったれた顔してんのよ。らしくない」

「ドロシー……」

「出遅れたわね。ゴメンなさい。助かったわヤクモ」

「カハハハ! 礼なら船の持ち主に言ってやれ!」

「ヒィエッヒェッヒェッ! なーに道中拾っただけさね」


 この一際怖い笑い声は……


「オソノさん……」

「だけじゃないぞ! 昔の馴染みをかき集めてきた! それで時間がかかったわけじゃが、まあ些細なことよ! さぁて久しぶりの大喧嘩じゃ! 存分に暴れ倒してやれ観廻組(みまわりぐみ)!!」


 野太くゴツい声が響く。


「こんなに大勢……」

「将軍よ」

「ホウヅキの先代……」

「さっきの啖呵は胸に来た。その思いはきっと国を変える。そのためならわしらはいくらでも力を貸そう。孫のためと、その思い人のためもあるがの。カッハッハ」

「ワシも久しぶりに血が騒いだよ。ヒェッヒェッ、しばらくだねぇろくろ首」

「たしかに斬ったはずだぞババア」

「ヒィエッヒェッヒェッ! いい太刀筋だったけどね。あれじゃあ人斬りは名乗れない。どうせ斬るなら一太刀で命を断たないと」

「あんまり無茶しないでくださいよオソノ。本当に死にかけてたんですから」


 ダンゴロウさんまで……


「まったく、突然宝船(たからぶね)で飛んできたときには驚きましたよ。薬で傷は塞がっても、まだ万全じゃないんですからね」

「ああわかってるよ。どうもありがとうねぇ、ヒェッヒェッ。本当なら寺に籠もって成り行きに身を任せようと思ったんだが、生意気な小娘に灸を据えてやらなきゃねぇ。この平和な時代、人斬りなんて流行りゃしないよ」

「それをあんたが言うのか」

「だから引導を渡しに来たのさ。辻斬り小町の悪名は、もうこの世には要らないってね」


 オソノさんとシノが抜き身の刃を手に対峙するのを他所に、鬱陶しいとミナモが魔力(マナ)を高めた。


「みんな纏めて溺れ死ね!! 毒河穿(どくかせん)!!」


 触れたものを溶かす猛毒の激流。


「敵味方関係無くたぁ……そいつぁ何とも無粋でごぜぇやす」


 それを押し返す雨の幕。


十璃雨(とおりあめ)


 船から降りてきた最後の人は、カランコロンと下駄を鳴らし、ひらりくるりと番傘を回した。


「あなたは……」

「将軍の命の元、遅れ馳せながら参上仕りやした。時雨(しぐれ)の大賢者、シズク=アメミヤ。今からでも間に合うなら、この喧嘩に花を添えて見せやしょう」


 この国最強の魔法使いまで参戦して、戦いは更なる熱を帯びていく。

 様々な思いがここに交錯した。

 ピンチに仲間が駆けつけるのは、いつの時代も熱い展開で好きです。


 今月ももう終わりですね。

 4月も変わらず百合チートは盛り上がっていきますので、どうかよろしくお願いしますm(_ _)m

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