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百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!  作者: 無色
王国漫遊編

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25/311

幕間:百合の夜

 焚き火の音が小さく弾ける静かな夜。

 騒がしい日々の中で、ゆっくり流れる切り取られた時間。

 別段、寝ずの番が必要なわけじゃない。

 みんなといる時間と同じだけ、この瞬間が好きなだけ。


「ドーロシー」


 そんなアタシを気にかけたらしく、リコリスは馬車から顔を覗かせた。


「寝られない?」

「いいえ、そういうわけじゃないわ。ただ目が冴えてるだけ。先に寝ていいわよ」

「いやぁ、ちょっと小腹がすいてしまいましてのう」


 照れた風に笑うその手にはワインが握られている。


「子どもたちには内緒で二人で飲もうぜ」

「アタシにしてみればあんたも子どもだけど」


 ウインク一つでそれを受け入れてしまうのだから、アタシは心底こいつに(あま)い。




 氷魔法で程よく冷やされたワインが、夏の前の熱気を孕んだ身体にスゥっと染み込んでいく。

 

「くっはぁ、うんま」

「ええ」


 べつにこれといって話をするわけじゃない。

 隣にいるだけなのに、さっきより心が穏やかな気がした。


「おいしいお酒にはおいしいおつまみが欲しくなるよねえ」


 そんなことを言って、いそいそと準備を始めるリコリス。

 鍋に潰した一欠片のにんにく、オリーブオイルを入れて熱し、香りが立ったら具材を入れる。

 芋にトマト、干し肉を炒め煮にしたら、驚くくらい簡単に料理が出来た。


「リコリスさん特製お手軽アヒージョだ」


 聞いたことのない料理だけど、にんにくの香りがこんな時間にも関わらず食欲を湧き上がらせる。

 食べる前から罪深さを報せてくるよう。


「いっただっきまーす。はふはふ、はちっ。んーんまぁい♡」


 干し肉の旨味が溶けた油を吸った芋とトマトのおいしいこと。

 なるほど、これはワインが進む。


「マリアとジャンヌも好きそうな味。ちょっと辛味を利かせてパスタと絡めるのも良さそう」

「あーペペロンチーノね。めっちゃおいしいよ。今度作ってあげるね」

「ペペロン……なに? 下ネタ?」

「ちゃうわ」


 よくわからないけど、忘れた頃にリコリスの多才さを思い出させられる。

 奔放で自由人のくせに、アタシなんかよりずっと家庭的で女の子っぽいんだから。


「ムカつく」

「ペペロンチーノが?!」

「なんでもないわよ」


 八つ当たりを飲み込むように、アタシはワインを煽った。


「アヒージョは、オイルにパンを浸してもおいしいんだぞー」

「太るわよ」

「私太らないんだよね。完☆ぺき美少女だから♡ えへっ♡」

「はいはい可愛い可愛い」

「雑すぎてぴえん」


 雑に扱わないと止められなくなるくらい、アタシはあんたに惚れてるってのよ。

 まったく。

 コテン、とアタシはリコリスの肩に頭を預けた。


「酔った?」

「酔ってはいるわ」

「ドロシーのデレはおいしいなぁ♡」

「フンッ」


 身体が熱いのは焚き火と酒精だけのせいじゃない。

 ああ、もう。


「いいから、こういうときは黙ってキスしなさい」

「仰せのままに。皇女様」


 真夜中のキス。

 ワインとにんにくの匂いでムードもへったくれもない、ほんの少し塩気が利いた甘いもの。

 もっともっとと欲しくなる。


「ところでリコリス」

「なに?」

「夜に女が一人でいるところにお酒を勧めるなんて、洒落っ気の利いた()()()()()と取られても仕方ないと思うんだけど。これは、そういうつもりでいいのかしら?」

「あ、いや、それはーそのー」

「ねえ、来て」


 髪を耳にかけて目を閉じ、唇を求めおまけにローブもはだけてやる。

 発達のいい…とは、お世辞にも言い難い身体でも、これで色気はそこそこある…はず。

 いや、あるったらある。

 

「そ、そろそろ寝よう……かな……なんて……」


 だからリコリスがヘタレて顔を赤くしたのも、アタシの色気のせいということにしよう。


「バーカ」


 膝に頬杖をついてキシシと笑う。

 切り取られた時間の中の小さな幸せ。

 おやすみなさい。いい夢を。




 ――――――――




 夜。

 寝る前にちょっとだけお話するのが好き。


「あったかいねジャンヌ」

「うん、マリア」


 寒くなくて、冷たくない。

 毛布にくるまってるだけだけど。


「今日も楽しかったね」

「うん。とっても楽しかった」

「今日はね、アルティお姉ちゃんに魔法を教えてもらったんだよ」

「私はドロシーお姉ちゃんのお手伝いをしたよ。お薬を作ったの」


 お姉ちゃんはみんなすごい。

 けど、リコリスお姉ちゃんはもっとすごい。

 リコリスお姉ちゃんは何でも出来る。

 可愛くて、キレイで、とってもカッコいい。

 たまに、


「今日は一緒にお風呂入ってアワアワブクブクでヌルヌルしようね♡」

「真性の危険人物」

 

 よくわからないことを言って、アルティお姉ちゃんとドロシーお姉ちゃんに怖い顔をされてる。

 でも、二人ともリコリスお姉ちゃんが大好きなのがわかるんだ。


「みんな優しいね」

「うんっ。みんな優しくて、みんな好き」

「私も」


 鎖で繋がれてたときは、クスクスって笑うとご飯を抜きにされた。

 でもここでは何も言わないし、何もされない。

 あったかくて優しいところ。

 でもたまに、ほんの少し怖くなるときがある。

 これは全部夢で、朝になったらみんな消えちゃうんじゃないかって。

 そんなときは、二人で一緒にリコリスお姉ちゃんの隣に行くの。

 リコリスお姉ちゃんは太陽とお花みたいないい匂いがして、近くにいると怖い気持ちがスーって消えていく。

 くっついてると、そっと頭を撫でてくれるのが好き。


「ありがとう」

「大好きです」


 お姉ちゃんは私たちを太陽の下へと連れ出してくれた。

 私たちはお姉ちゃんに何が出来るかな。

 何かしてあげられるといいな。

 おやすみなさい、大好きなリコリスお姉ちゃん。

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― 新着の感想 ―
なろう系の奴隷は家畜以下の扱いだってそれ一番言われてるから。なかには奴隷を勝手に奪ったあげく放逐したり自身の嫁にする頭のおかしい作品もあったな
[良い点] あったかい百合ですね すごくいいです
2023/10/31 14:14 退会済み
管理
[良い点] オwナwバwレw [一言] 匂いフェチなのかな?とてもよくわかる……
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