2-45.酒呑の鬼
あれよあれよという間に夜。
師匠とモナは酔い潰れて、サクラは疲れてさっさと寝ちゃったけど、私はどうもそんな気になれなくて、煌々とした六紋船に照らされた海を一人眺めていた。
ほんの少しのシキへの苛立ちと、この先に何が待ってるのかって不安を抱きながら。
「眠れないか」
「カレンちゃん。どしたの? 見回り?」
「それもあるが、貴殿と話をしに来た」
「私と? 結婚はしてるけどいつでも彼女募集中です♡ 一夜限りの関係も可♡」
「貴殿はシキ=リツカをどう考えている?」
無視ですか。
「どうって、そりゃいい女よ。キレイでカッコよくて強くて、妖艶な雰囲気があるのにどこか子どもっぽい悪戯心があって、そんで博識だし面倒見もいいし、私を立ててくれる優しいお姉さんってとこかな」
「貴殿の中のシキ=リツカとは、どこまでも普通のようだ」
「ヒノカミノ国じゃ違う?」
「ああ。シキ=リツカは、己が力でヒノカミノ国を始め幾つもの国を傾け滅ぼした悪逆の徒。人を惑わせ、気を狂わせる悪女。それがヒノカミノ国の常識であり歴史、そして伝説だ。その影響は計り知れず、今も尚、たしかに国を蝕み続けている。巨大で底知れぬ呪いのように」
「あいつ相手に呪いってのは皮肉が効いてていいね」
「心構えはしておくことだ。シキ=リツカがヒノカミノ国に残した傷痕は、貴殿が思うよりもずっと深いということを」
「何があっても受け入れるよ。ありのままを」
カレンちゃんは一言、そうかと呟いた。
「ならばいい。明日の朝には入国の手続きが整う。心ゆくまでヒノカミノ国を満喫するといい」
「そうする。どうせならカレンちゃんにヒノカミノ国を案内してほしいなーなーんて♡」
「出来ない相談だ」
「あーやっぱりお仕事忙しいよね」
「……リコリス殿」
「なーに?」
「貴殿に、この船はどう映る?」
「どうって、綺羅びやかでみんな楽しそうにしてて、いい場所だと思うよ?」
そうか、って。
また呟いた。
今度は目を逸らして。
「どうかした?」
「いや。我はこの船から離れられぬが、その代わり一献付き合おう」
「お、いいねー! お酌しちゃうよリコリスさん! おひとつどーぞ♡って盃でっけぇ!! シャ○クスが白○げと飲んでたときに使ってたやつ!」
「鬼はみなこれくらい軽く飲む」
「マジかよ鬼すげぇ。んじゃ、いっちょ飲み比べといこうか」
「我は飲むぞ。以前六紋船中の酒を飲み乾して同胞たちに叱られたくらいだ」
「なんだそのめっかわエピソード。いいよ、ストックはあるから。酔い潰してその角にあーんなコトやこーんなコトしてやんよ♡」
「やれるものならな」
よっしゃー♡
かわい子ちゃんと朝までハッピータイムきたーーーー♡
悪いねカレンちゃん♡
遠慮はしないぜっ♡
へへへへヘ♡
「ゔぉろろろろろろろ!!」
「くっさ。きったな。近寄らないでキモすぎる」
「まったく愚か者め」
「お酒は飲んでも飲まれちゃダメなんだよー?♡」
「ぼまっ、ぼまえら゛が言うな……ぉ゛ええええええええ!!」
ぎぼぢわるいぃ……
胃が……身体中の内臓が殺してくれって言ってるぅ……
「あれ〜? 船長なんだか今日はご機嫌ですね〜?」
「ああ」
「何か良いことありましたか〜?」
「フフ、まあな」
涼しい顔してんなちくしょう……
お酒のストック全部無くなるまで飲んだのに……酒呑童子パねぇ……
「それでは皆様〜お気を付けて〜」
「リコリス殿」
「ぁい……」
「また飲もう」
「ハハハ……友だちのお誘いなら喜んヴォエエエエ!!」
「きっしょ」
私たちの船はヒノカミノ国本土へ向けて再び出航した。
私はというと師匠と一緒に死んでたわけだけど。
日が昇っては沈み、寝て起きては吐いての繰り返し。
「スキルで治しちゃえば? それくらい出来るんでしょ?」
「酒は……飲み過ぎちゃダメっていう、戒めに……」
「立派な志なのに見た目がグロッキーなの無様」
ひぃひぃ言って道中を楽しむという余裕は無く。
ようやく喉の乾きが止んだ頃。
船の甲板にヒラヒラリ。
夏の熱気を孕んだ風に乗って、赤く染まった紅葉が落ちた。
「見えてきた。あれが」
「そう♡ 四季五郷の妖怪の国♡ ヒノカミノ国だよー♡」
「やっと、やっとつい……おえぇ……」
「景観が不快で染まるから帰ったら?」
もう少し、優しい言葉かけてくれお願いだから……




