2-36.百合なる世界《ティル・ナ・ノーグ》
「決着がついたようだ」
「レオナ」
「一足遅かったか」
「どのみち戦いの様子は観られなかったわよ。アタシがさせなかったから」
そうか、とレオナは立ち上る光の残滓に目をやった。
「残り僅か。我らを含めて、あと八人か」
「七人よ」
そろそろ限界だし、アタシも死に花を咲かせないとね。
……この言い方は縁起が悪いからやめよう。
「棄権か?」
「それも考えたんだけど。ガラじゃないからやめるわ。どうせなら派手に散ってやろうじゃない」
「では、それに応えよう」
「ありがとうレオナ。さあ、最後まで輝きなさい!! 【月皇竜の秘薬】!!」
「光を喰らえ!! 【竜屠殺の獣帝】!!」
アタシにしては、よくやった方じゃないかしら。
あー、楽しかった。
――――――――
気配を読む、なんて達人みたいなことが私なんかに出来るはずない。
けどたしかに一つ、また一つと大きな存在が消えていくのがわかった。
そしてこの場所でも。
「救世六刀流……!!」
「ラプラスハート流奥義……!!」
剣士たちの気迫に空気が震える。
「セーラーママぁ!!」
「ええ、合わせるわ。遠慮なくいって!!」
英雄と賢者も魔力を昂らせて、私は思わず腰を抜かした。
逃げるか隠れるかしないと命がいくつあっても足りない。
背中を向けようとして、
「そこにいろ、サクラ」
たった一言が私を止めた。
視線を向けられたわけじゃない。
だけど、なんだろうこの妙な感覚は。
「私のカッコいいとこ、一番近くで見てて」
何が起こったのか、起こるのか。
リコリスの言葉はいつもの悪態すら呑み込ませた。
「……負けるな」
「おう!!」
不意に出たそのセリフに呼応したかのように、緋色のオーラが滾り空を染める。
「明王・夜刀契!!」
「剣よ、終末を告げよ!!」
六腕の鬼と剣の輪を背中に携えた巨人が、大地を……もとい国を滅ぼすかのような覇気で剣を振り下ろす。
対して英雄と賢者は二人の力を合わせ、空を突き破るほど巨大な剣を顕現した。
「「七覇光の流星王剣!!」」
理外、人外の化け物揃い。
生きた心地がしない……のは、正味今に始まった話じゃない。
この世界に来たときからずっとそうだ。
死のうとしてた身空でこんなことを言うのは滅裂しているもしれないけど、これだけは今ハッキリ言える。
この人の傍は安心する。
――――――――
まともに当たればちゃんと消し飛ぶなこりゃ。
この人たち、不殺のルールを忘れてんじゃねえの?
そんだけ本気ってことか……それならしょうがない。
しっかり止めてしっかり勝ってやる。
「百合の誓い!!」
【創造竜の魔法】は、【百合の王姫】と並ぶ私の力の結晶の片割れ。
元を辿れば【百合の姫】で魂が繋がった女たちの能力と、神々の加護とを統合したものでもある。
まあ、ただでさえ一つ一つが世界くらい滅ぼせちゃうような力。
それら全てを同時に解放したなら……その権能は"不可能の実現"を形にし、さらにその先の罪をも引き起こす。
「【創造神竜の原罪】!! 百合なる世界!!」
今週が忙しすぎた……
どうか百合チートを忘れないでやってください!!




