2-28.英雄と賢者たる所以
『ひいおじいちゃんもひいおばあちゃんも痛い……いや、若いなぁ……』
『ちょっと』
『っと、すみませんなんでもないです!! さ、さあここで謎の仮面の戦士と魔法使いが、世界の新星を相手に立ち阻かるー! 謎というベールに包まれた二人の実力は如何に!!』
『しかし、見ていて居た堪れないわね……』
『ほんとに……』
「【英雄王の光剣】!!」
「【賢者后の秘術】!!」
実況には大いに頷くところだけど、痛い格好には相変わらずヒいた笑いが零れそうになるけど、それを差し引いてもなんだこの夫婦。
強いのは知ってた。
でもそんなの人間の枠組みに収まった話だろ。
剣も魔法も一撃必殺。
いや、存在そのものが最早必殺。
天災がコスプレしてるみたいなもんだ。
「手加減はしなくていいんだぜリコリス!!」
いちいちカチンとくる。
挑発になんか乗るわけ……
「この程度でリーダー張ってられんなら、大したことねぇなぁ百合の楽園!!」
「氷獄の断罪!! 冥府ヲ満タス血ノ剣!!」
「おっと!!」
「上等だ!! 泣いて土下座させてやるクソお父さん!!」
「やれるもんならなぁ!! セーラーママ!!」
「一等星の矢!!」
一瞬前まで私の顔があった空間を光線が走る。
「初見でこの魔法を躱すなんて、さすがね」
「どーも」
「ならこれはどう? 黄道十二宮召喚、星竜獅子!! 星毒戯蠍!!」
星座の魔法陣からでっかいライオンとサソリ……幻獣……星獣か。
何でもアリかこのお母さん。
限られた期間だけど、アルティに魔法を教えてただけはある。
それに何と言っても立ち回りが巧い。
魔法の規模と威力が半端じゃないのに、私の動きを読んで罠を張ったり、主役級の力を持ってながらお父さんを立てることを忘れない。
二体の星獣を斬って消滅させた私は、不意に口角を上げていた。
「すっごいな……私のお父さんとお母さんは!!」
――――――――
「すっかり蚊帳の外ですね」
能面の人、ミオは刀の峰を肩に乗せた。
剣聖リーゼとやり合うには興が削がれたと言わんばかり。
「除け者にされたみたいでおもしろくありません」
「大いに同意です。親子水入らずに水を差すのは野暮だとしても、咎められる道理はありません」
そう言った次の瞬間には、二人は私の傍から消えていて、
「?!」
両親の相手で手一杯のリコリスの背後を取った。
「朧月!!」
友だち、知り合い、容赦も手心も無し。
刀が背中を斬りつけ、剣が胸を貫いた。
「っ!!」
「おいおい、横入りすんなよ」
「はいわかりましたと聞き分けが良いなら、再び戦場に立とうとなどしませんよ」
「そりゃあ、そのとおりだな!!」
「一等星の矢!!」
至近距離から放たれた光速の矢がミオの顔を掠める。
砕けた能面の向こうの、冷たいまでに妖しい水色の目が光り、刀が六本に分裂した。
「霊刀解放!!」
「南十字の星炎!!」
「救世六刀流、阿修羅の否薙!!」
星が煌めく藍色の炎ごと、セーラーママことソフィアの身体が斬り裂かれる。
それに声を荒げたのは、他ならぬタキシードパパことユージーンだ。
「セーラーママ!!」
「よそ見は厳禁ですパパ。無明の矛!!」
世界最強の剣士。
その剣が英雄の身体を大きく裂いた。
「ぐぉぉ!!」
状況が二転三転したことに目まぐるしさを覚えるけど、次の瞬間にはリーゼの剣が折られ、ミオの刀が蹴り飛ばされていた。
悔しいと、そう思った。
赤い髪を靡かせたあいつに、私の目が釘付けにされていたことに。
「【聖竜の憤怒】!! 【兎竜の怠惰】!!」
四人に一斉に生まれたほんの僅かな隙。
「私をフリーにしてんじゃねえよ」
口の中の血を粗野に吐き捨て、リコリスは地に伏せた四人を見下ろした。
――――――――
「あーしんど」
みんな遠慮無く攻撃してきたもんな。
「服ボロボロじゃん。……なんか今の私ワイルドでえっちくない?! いやんリコリスさんの新たな魅力発見!」
「…………」
「おい中指立てんなサクラお前」
「みんな……寝てるの?」
「【聖竜の憤怒】でブーストかけた【兎竜の怠惰】だからな。いくらみんなでも剣魔祭が終わるまでは目が覚め……」
「っあぁ……効くぜチクショー」
「る……わけないんだから寝てろ化け物がよぉ」
「親に向かってなんだコラ」
「予め星祈乙女で魔法抵抗をかけてなかったら終わってたわね」
くっそ抜け目無い。
さすがに予想外だったけど、ミオさんとリーゼを倒せただけでも良しとしよう。
「おはようございます」
「よく寝ました」
「この……化け物揃いめ」
「眠気を斬るくらい剣聖には造作もありませんから」
「あっそ……ミオさんは?」
「昔から眠りが浅いんですよ」
体質で【兎竜の怠惰】を破られたって聞いたら、シロンが目を丸くしそうだな。
「第二ラウンドだ。来いよガキ共。大人の強さってやつを教えてやる」
「私は百を超えてるんですが」
「……父親の強さってやつを教えてやる」
「いちいち決まんないの何?」
けどこれで強いんだからムカつく。
今の私でも倒しきれないってなると……
「ったく、しょうがねーな」
久しぶりに越えてみるか。
限界ってやつを。
――――――――
「〜♪ いいデースねぇ、盛り上がってマースねー! どこもかしこも楽しそうで、どこから戦おうか迷ってしまいマース!」
テスタロッサはエリア上空を飛びながら、各地の戦闘の様子を観察していた。
彼の者の興味を引いているのは三箇所。
帝都を中心に北に位置する草原の、親子三人と剣士二人の激闘。
帝都より西の、錬金術師たちと屑鉄の軍勢。
そして帝都から真南に位置する山あいの村で起こった、小さな天災による混乱。
「ンーやはりリコリスさんと戦うのが一番楽しそうデースね。残り生存三十弱、そろそろメインディッシュの時間デース! ゴーゴー!」
と、それはそれは愉快そうに、リコリスたちのいる草原へと急降下しようとしたとき。
真っ黒な幕がそれを阻んだ。
「夜天の尾!!」
「!」
雷が滞空する。
目の前には影が二つ。
さらに雷を挟んでもう二つ。
「やっと捕まえましたピョン」
「ハローなのですニャー。雷帝さん」
「オー……少々予想外デス。まさかこのメンツで、ワタシと遊びに来てくれるなんて」
「こちらにも事情があるもので。若輩者ではありますが、お相手のほどよろしくお願いいたします」
シャルロット=リープ。
エヴァ=ベリーディース。
フェイ=ラビルリード。
コルルシェール=ルー。
四人は高度数千メートルの上空にて、テスタロッサ=メーラアドルナートに敵意を向けた。
「いいデースねー! 最高デース! でも油断ダメデースよ。どうやらゲストはまだいるようデスので」
「……! シャーリー、さん!」
エヴァの声に反応して身を引いたシャーリーの肩から血が吹き出る。
「これは……!」
「助けに来てくれたんデースか? エマさん」
「そういうつもりじゃないのである……。影が薄すぎて誰にも相手にされなくて……。人はどんどん減っちゃうし……だからこうして混ざりに来たのである……」
エマ=シトラスディースは、背中に生やした機械の翼をはためかせながら、剣に変えた右腕についた血を払った。
「紫苑さんまで、ですかニャ。他の大賢者が嫉妬しそうですニャー」
「何人増えたところででしょうピョン。やることは変わりませんピョン」
「そうですね。ここで潰させていただきます。リコリスさんの下へは行かせません」
「オーケー。レッツパーリー!!」
…………え?200話?
200話??!
なげぇよ剣魔祭!!
でも戦ってる女の子好きぃ!!
けど長いのは長いので、剣魔祭編後半!!
千遍万華編へ続きます!!!
いつも御愛読いただいております読者様に多大なる感謝を込めて、これからも百合チート、盛り上げていきます!!!
応援よろしくお願いします!!m(__)m




