2-24.心に焚ぶる炎の熱さ
アンリミテッドスキル。
本来何百、何千年とかけてスキルを精錬し辿り着けるその領域は、その者が持つ権能、また性格を色濃く反映させる。
マリアちゃんの【太陽竜の爪】は、炎熱を支配する権能を持つ。
更に熱による運動能力の上昇、加速。
強化されたその肉体の性能は、呪力によって強化されたウチに匹敵する。
「にゃおらぁ!!」
「せいっ!!」
殴り殴られ蹴り蹴られ。
斬っては斬られの結び合い。
ウチの身体を傷付けられる人が、いったいこの世界に何人居る。
愉しい。
それ以上に凄い。
そして怖ろしい。
これがまだ二十にも満たない子どもの実力かと慄える。
「救世赫刀流、燐!!」
「七曜凶星、武曲之剣!!」
力比べと身体の耐久はまだウチに分がある。
速さは…まあ押されてる。
それでもってこの剣技がウチたちの勝負に差をつけつつあった。
銘も無いただの鈍を振り回してるだけのウチと、お姉様手製の名刀…焔と、救世一刀流を昇華させた救世赫刀流。
どっちが優勢かなんて比べるまでもない。
「ヤッバい強い!身体の奥がジンジンする!こんなの久しぶり!シキ姉のこと大好きだ私!」
「クフフ、ウチも好きやよ」
「嬉しいっ。じゃあ勝ちはもらうね!」
「やれいと可笑し。今はまだその時とちゃうよ、マリアちゃん」
口から吹いた黒い靄で視界を遮る、猫騙しならぬ狐騙し。
我ながら何を大人気ない。
「これくらい…ッ!」
そう、これくらいマリアちゃんはすぐに反撃してくる。
猛獣みたいに炎を滾らせて。
ウチにはその一瞬があればいい。
「狐火!!」
呪力で練られた灰色の炎。
狐火はウチが使えるただの火の玉。
火力なんて木の葉を燃やせるのがやっとくらい。
けど、あるものを喰らってその火力を上昇させる。
"炎"
他の炎を取り込み自らの力とする、対炎術用の呪術。
「熱い…っ?!私が炎で押されるなんて…!!」
「死合い読み合い騙し合い。伊達に歳取ってるわけじゃないんよ」
五行が通じないからこそ、こんな手遊びの術に頼らんとあかんかったんやけどね。
「降参した方がいい。狐火は炎がある限り燃え続ける。無事じゃ済まないよ」
こんな進言でどうにかなるはずはない。
わかってるのに、つい老婆心が顔を出す。
灰色の炎に身体を焼かれながら、マリアちゃんは八重歯を覗かせた。
「負けないよ…私は折れない…!私には、これしかないんだから!!」
マリアちゃんの左手に膨大な炎が宿る。
「あかんよ!炎を灯せばそれだけ狐火が!」
「ああああああーーーー!!」
同じアンリミテッドスキルでも、ウチとマリアちゃんじゃまだ格が違う。
そう高を括ってたのに。
「ありえない…」
呆けたみたいな、素直な言葉が口から漏れた。
ウチの炎を吸収して、炎の刀を作り上げるなんて。
「救世赫刀流…!!」
「っ、蠱毒!!」
「緋焔双爪!!」
爆炎の二刀流。
最速の呪術ごと斬られ、飛び散った血が蒸発する。
ウチは灼熱に燃える空を見上げた。
――――――――
「はぁ、負けた負けた」
焼け焦げた身体から血を流してるのにシキは満足げ。
私にしてみれば何が何だかで、わけもわからないうちに勝負が終わってたくらいの感じなんだけど。
それでも二人は、たしかに語り合ったみたいだった。
「よく言うよ。退場になってないってことは、まだ戦闘不能じゃないってことでしょ」
「いやいやもう眠たぁくなってきてるよ。充分満足した。姉に勝つのは〜なんて、格好つけたのだけが恥ずかしいくらいかな」
「ニシシ」
「ウチはここで敗退やけど、お姉様が合流するまでは、サクラちゃんのこと頼むね」
「うん。サクラ姉、今からは私がお姉を守るからね」
「うん、お願い。って歳下に言うのは若干情けなくあるな…」
二人の戦いに巻き込まないよう魔術師のスキルを使ってたけど、性能は確かみたいで安心だし。
あとはリコリスに合流するだけ…って、なんで頼りにしてるみたいになってるの私。
意味わかんない。
「大怪我なんだから、早く治療してもらってね」
「おおきにね。二人は…」
「!」
二人の耳がピクリと動く。
目の動きを追って空を見上げると、黒い何かが複数降ってきて、重い地響きを鳴らした。
「何?ロボット…?」
これってあの、レガートとかいう大賢者の…
「お姉!!」
マリアに突き飛ばされてから、私が立っていた空間を熱戦が通り過ぎているのがわかった。
「剡天下!!」
すぐさま反撃に出たマリアの剣で、ロボットは真ん中からキレイに両断されて爆発する。
けど、ロボットは次から次へと現れて私たちを取り囲んだ。
「一体一体は倒せるのにキリがない…」
私を守るように戦ってるからだ。
「マリア、私なら平気だからここは」
「ん、しょ…っ」
「シキ?!」
「シキ姉?!」
「傷は浅くないんでしょ?動いたら…」
「そうなんやけどね、最後に二人を逃がすくらいはやってみようかなって」
「逃がすって…」
「ウチとやり合ったばっかで、マリアちゃんは万全とちゃうんから。こんな絡繰でも相手取るんは少し面倒やと思ってね。せやからここはウチに任しといて」
「でも!」
「行け言うとるんよ。雛遊び」
予め編んでおいた呪符を放ると、それは私たちの足元で大きな怪鳥へと変化した。
「シキ!」
「どのみちウチはここまでやからね。サクラちゃん、マリアちゃん。見ておいで、この先の景色を。どうせなら優勝狙ってまえ」
怪鳥は翼をはためかせ遥か下方へと置き去りにした。
儚げに笑ったシキと、鈍く重い銃撃の音を。
――――――――
『あのサクラという少女はともかく、赫灼の爪の方は仕留めておきたかったんだが』
兵隊の一体から声がする。
『百合の楽園は強敵揃いだからね。一人を堕とせただけでも良しとしようか』
「漁夫の利もいいところやわ。こんな絡繰でウチらをやろうなんて」
『それも戦法さ。我自身の戦闘力はさほどなものでね。しかし絡繰とは風情ある呼び方だ。一応は機械兵という名前があるんだが』
「それは失礼しました」
『数の暴力を無粋と嗤うかい?』
「戦いにキレイと汚いもあらへんよ」
そのルールは今も昔もずっと一緒。
「勝ったもん勝ち。やろ?」
そのとおりだ、と。
屑鉄はガシャンと右腕から砲身を飛び出させた。
さあ、最後まで抗ってやろうっと。
――――――――
『戦況は激変!!屑鉄の大賢者、レガート=ニュートリノ選手がフィールドを蹂躙するー!!』
『機械兵…生成はレガート選手のスキルによるものでしょうが、どうやら自立して稼働しているようですね。様々な武装を施された個体が約三千体。他の選手がどのように対応するのかが見ものです』
「ったく、いいとこだったのに」
「本当にね」
ユウユと背中を合わせて、周りのロボット…機械兵だっけ?を警戒する。
せっかくユウユとバトろうとしてたのに。
「それはそれとして、めっっっちゃ解体したすぎ!こんなにいるんだから一体くらい貰っちゃおー!そんで好みに改造すんの〜♡エヘヘへへ♡」
「オタク」
「オタクですが何か?」
「ていうかルウリなら、スキルでこいつらの制御権奪えるでしょ」
「さっきからやってんよ。でも弾かれる」
これはスキルが上回られてるんじゃなくて、スキルの干渉を弾くプログラムが組まれてんね。
天才にそういう勝負挑んじゃう?
マジで草。
「じゃあ壊していいわよね」
「んぇー?」
「数には数。個人で軍隊有してんのは向こうだけじゃないって教えてやんないとね」
「一体だけ残しといて。そしたらあたしがこのロボットたちを止めてやんよ」
「了解。死霊術・骸の兵団!!」
魔法陣から黒い骸骨の群れが這い出てくる。
「行きなさい骸の兵!!」
「ユウユ」
「暴れて…って、何よルウリ」
「おばけ怖すぎて動けない無理ぃ…」
「あんた私と何年一緒にいんのよ!!!」
「無理なもんは無理なんだがぁ!!はやくその怖いのどっかやってぇ!!ふえええんもう棄権するぅぅぅ!!」
「この無能錬金術師!!!わあああ攻撃してきたわよ!!死霊が困惑してるからちょっと離ッ、離れろ動きづらいわねもぉぉ!!」
「夕闇大穴!!」
銃弾と光線が黄昏色の穴に呑み込まれた。
かと思えば開いた別の穴から、機械兵に向けて銃弾と光線が返される。
この魔法は…
「サリーナ!!」
「サリーニャあああ!!」
「大丈夫ですかユウカさん!ルウリさ、にゃあああ!ちょっ、鼻水!ベッチャベチャって!嫌ぁぁぁ!!」
「助かったわ。ルウリが使い物にならなかったから」
「い、いえ…ちょうど近くにいてよかったです」
「一旦共闘しましょ。とりあえず薙ぎ払えば、あとはルウリが何とか出来る…………はずだから」
「わ、わかりました」
おばけいないんならあたしだって戦力なんだが?
とりま、でも……
「よろしくおなしゃす!」
そろそろ、あの子たちも暴れさせませんとね。
次回の更新をお楽しみにお待ち下さい!!m(__)m
それはそれとしてハッピーハロウィン!