2-22.魔法の最奥
『開始早々火花を散らすのは、優勝候補にして時代の超新星!百合の楽園リーダー、おばあ――――じゃなく、て…リコリス=ラプラスハート=クローバー選手!相対するは同じく百合の楽園!史上最年少でその位に名を刻んだ天才魔法使い!そしてリコリス選手の妻!銀の大賢者、アルティ=ラプラスハート=クローバー選手だー!』
実況のテンションえぐ。
あの二人が戦ってるってそれ、ただの夫婦喧嘩なんじゃないの?
人のこと気にしてる場合じゃないか。
「どこここ」
見渡す限り森なんだけど。
ランダムで国中に転移されるっていうのは、ちょっと予想してなかった。
リコリスならすぐに見つけてくれるだろうけど…なんて、ガラにもないこと考えて安心感を抱いていたのも束の間。
グルルル…と、茂みの向こうから大きな熊が顔を覗かせた。
「そりゃあ…こういうことも起こるだろうけどさ…」
さすがに一般人に魔物は無理!
「わああああ!」
無理無理無理!
いくら魔術師からスキルをもらってるって言っても無理!
怖いもんは怖い!
「誰か助けてー!!」
追いかけられ必死に逃げ回っていたところ、空から何かが…いや、誰かが降ってきて、熊の頭を殴り潰した。
「怪我はあらへん?」
「シキ!」
右手についた血を払いながら安否を尋ねる。
女嫌いでなかったら安堵に抱きしめていたかもしれない。
「ありがとう……」
「お礼言うことなんてないのに」
「一応助けてくれたわけだし。……もしかして、どうせ魔物にやられるくらいなら自分の手でとか、そんな感じで助けてくれたとか」
「それはそれでおもしろい展開やね」
クスクスと笑う所作の上品なこと。
シキは機嫌良さそうに尻尾を揺らした。
「サクラちゃんに戦う気が無いのはわかってるからね。お姉様が予め百合の楽園の全員に伝言したんよ。もし、自分とサクラちゃんが離れ離れになったら、そのときはみんながサクラちゃんを守ってって」
「リコリスが……」
「そやからリコリスちゃんが合流するまではウチが」
「でも、今リコリスはアルティと戦ってるんでしょ? ここに来られるかどうかなんて……」
「わかるよ。みんなわかってる。リコリス姉が勝つって」
大きな木の陰から、刀を担いだマリアが現れる。
「マリアちゃん」
「やっほーシキ姉、サクラ姉」
「わかるって、なんで?」
「お姉は最強だからね。伊達に私たちのリーダーじゃないんだよ。それでもお姉に勝ちたい、お姉のびっくりした顔が見たいって戦いを挑むの。もっちろん私も挑戦するよ。だからシキ姉、その前にちょっとだけ、肩慣らしさせてくれると嬉しいなぁ」
鞘から抜き放たれた赤い刃が燃え上がる。
この距離ですごい熱気。
木々が、地面が炎に包まれて、金色のシルエットが陽炎に揺れた。
「お手柔らかに」
負ける気は無いって顔。
こんなに暑いのに寒気がすごい。
「行くよ」
言った直後には、マリアの刀がシキの腕と打ち合い高い音を鳴らしていた。
燃える腕を意に介さずカウンター。
空間を削るような蹴りがマリアの腹に突き刺さる。
一転、今度はマリアの刀がシキの肩を小さくを斬り裂いた。
「ふー。お互い手の内わかってるからなぁ。こんなんじゃ準備運動にもなんないや。シキ姉にならいいよね?本気出しても」
「いいよ。そうじゃないと勝てないから。サクラちゃん、ちょっとだけ離れててくれへんかな」
炎が吹き荒れる。
灼けた大気を一身に受けながら、エヴァは黒いオーラを広げた。
「教えてあげんとね。姉に勝つんはまだ早いって」
猛獣と怪物の戦いが始まる。
好き勝手やり合ってくれるのはいいんだけど、お願いだから巻き込まないで。
――――――――
火山が見る見るうちに氷河に変わる。
吹雪が手足となって私に襲い来るのもそうだけど、やっぱり大賢者は…というか、アンリミテッドスキル持ちは攻撃の規模が違う。
「逃げ回るだけですか?」
「どうやってハグしてやろうか考えてんだよ」
アルティは魔法の天才だ。
魔法に愛され、魔法の神にすら愛された、当代きっての実力者。
「氷獄の断罪!!」
氷の津波を剣で退けたそばから、剣が、矢が、斧が飛んでくる。
これでトップギアじゃないんだからさすがだ。
【妃竜の剣】が魔法に干渉する制御スキルなら、【九天竜の極星】はあらゆる魔法を神速で構築する攻撃……もとい殲滅特化のスキル。
氷だけじゃない。
炎、水、風…合計九つの属性、それらに該当する自然物を自在に操ることが出来る魔法の極地。
そんな物騒なもんを普段のツッコミに使ってるこいつの神経はともかく…さすがに強い。
それにキレイだ。
本気で私を倒そうと迫る鬼気も込みで、今のアルティを美しく思う。
だからこそ、煽る。
「こんなもんか!!あァ?!」
こんなもんじゃないってことを、私が一番知ってるから。
「温存か?後のことなんて考えて私に勝てるつもりかよ!!」
「…少し躊躇いました」
「躊躇う?」
「私の高揚で、この国が滅びてしまうかも…と」
今までのは様子見か。
改めて確信したわけだ。
私になら自分の本気を出しても大丈夫だと。
「小手調べはここまで。受け止めてくださいねリコ。でないと」
世界が鎖されてしまいます。
アルティはそう言って扉を開けた。
第一階位――――――――魔術神の加護が有って初めて踏み入ることが許される、魔法の最奥へ続く扉を。
「神氷獄界!!」
――――――――
「空気が冷たい…。これ、アルティ姉さんの…」
神氷獄界…リコリス姉さん相手に本気でやってる証拠だ。
ちょっと乗り遅れた。
今からでも間に合うかな。
空間転移はあんまり得意じゃないんだけど。
「……?」
今、何か気配が。
「誰?」
一閃。
放たれた光の筋に胸を貫かれて、私はその場に前のめりに倒れた。
『ふむ、テストはしていなかったが問題なく稼働しているようだ』
『したり顔してるとこ悪いんですけど、もう戦いは始まっちゃってますよ博士』
『兵は神速を尊ぶとは言うがね、結局は勝ったものが勝者だよ。さあ、獲りに行こうじゃないかルシャトリエ。優勝を』
『了解』
――――――――
国中で戦火が巻き起こる中、帝都ルーニアより北。
エリアの端。風に靡く草原に。
「オーマイガー。出遅れてしまいマーシタ。もうバトル始まってマース。おいしいの食べ逃す、これ一番良くない」
稲妻が鳴る。
「パーリータイム♪」
雷帝、出撃。
いろんな組み合わせでバトらせるの楽しすぎて困りますね。
次回、リコリスvsアルティ決着。
脱落するのは――――――――
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