2-21.開幕
晴れ渡る空に祝砲が爆ぜる。
帝都ルーニアの闘技場。
古代ローマを思わせるこの場所に、私たち剣魔祭の参加者は集められた。
見知った顔が多数。
あとの参加者も強者揃いの風貌だ。
「よぉ、久しぶりだな。覚えてるだろ?おれだよ、大熊の顎のジョーだ」
けど、まさかこんな場所でみんなでやり合うってわけじゃないよな?
ちょっと本気出したら辺り一帯消し飛ぶが?
「おれも今や鳳凰級だ。あのときは実力差がはっきりしてたが、油断してるとお前でも……おーい、聞いてるか?ちょっ、おい?!無視するなよ!おいって!おれ死んだの?!」
開会の挨拶はまだみたいだけど、それより何より。
「お父さん…お母さん…」
「むっ?お父さん?誰のことだ?私は弱きを助け強きを挫く、人呼んでタキシードパパだが?」
「私もお母さんじゃなくて、愛と正義のセーラー服人妻戦士、セーラーママよ?」
「痛夫婦か!!変装っていうかただのコスプレ!!」
「私が作りました」
お前かシャーリー!!
どうりでいい出来だと思ったわ!!
「私もう二十歳超えてんだけど!!両親のウッキウキなコスプレ見るの精神的ダメージすごい!!あとお母さん生足出しすぎて素直にキツぐぁぁぁぁアイアンクローやめてええええ!!」
「娘と孫も観てるからな、手加減はしねえぞ」
これもお祭りの醍醐味ってことか…
実際戦うことになったら羞恥で悶え死ぬ自信があるんだが。
「スゥー…チャオーエブリワーン!」
マイクによって拡声されたテスタロッサの声が、緩んだ私たちの気を引き締める。
「本日は晴天なり!今日という日を迎えられたこと、心から嬉しく思いマース!ここに集いし百人の強者が雌雄を決す!思う存分暴れマショウ!」
歓声が上がる。
ちなみにこの様子は魔導具を通じて世界中に放送されているらしい。
ルウリが作った技術が活かされてるのは悪い気はしない。
「古今東西より参られたし参加者の他にも、多くの来賓の方々にお集まりいただいておりマース!」
各国の王様や領地経営者。
その他アンドレアさんを始めとした各界の著名人たち。
見るも壮観な顔ぶれが紹介されていく。
もしもここで残忍な殺戮ショーでも始まれば、その被害は計り知れないだろう。
「重鎮が参加者側ってのは異例なんじゃない?レオナ」
「かもね。でも仕方ないよ」
「強いんだから、か?すっかり王様が似合うようになったね」
「根は気弱なままだよ。みんながいるから気を張ってるだけ」
「の割には、負ける気は無いって顔してるよ」
「サヴァーラニアの皇帝としてはね。情けないところは見せられないぞって」
「健闘を祈る」
「こっちこそ」
ニヤリと口角を上げ、軽く拳を突きつける。
いいね、みんな本気だ。
「さてさて今大会を彩るのは参加者だけではありマセーン!実況解説はこの方々!」
「どもー!吟遊詩人のジークリットんがふっ!!シークレットれす…コホン!!暇そうにしてたからって誘われましたー!今日は実況頑張りまーす!」
「ゼンです。この勝手気ままなクソったれに鉄槌を下したい気持ちを呑み込んで解説に励みます。よろしくお願いします」
…?
仮面で顔隠してるけど、凄まじく美少女だなあの子たち。
あとでお近づきになろう。
「それじゃあとはよろしくデース!」
「はーいはい。えーそれではルール説明を!ルールはいたって単純。サヴァーラニアは帝都ルーニアを中心とした半径五十キロ圏内舞台で繰り広げられる、参加者百名でのバトルロイヤル!
戦闘不能、棄権により脱落とし、最後まで立っていた一名が、今代の最強を名乗ることが許されます!
許可されているのはスキル及び魔法使、武器、宝具を含むあらゆるアイテムの使用!
対し禁止とされるのが、非参加者への傷害、参加者を含めた殺害行為!
これを破った場合、その時点で失格!サヴァーラニアの法に基づき、被害に応じた罰則を支払っていただくこととなりますのでご注意を!
しかし、それ以外は何でもあり!
負傷者はリーテュエル教皇、クロエ=ラスティングノーン猊下によって治療が施されるのでご安心ください!」
「神様以外治療されると思うなよ《ピーーーー》」
「ま、またこの大会によって破損、破壊された建築物、環境資源の補填は、大会主催者テスタロッサ=メーラアドルナート氏より行われます!」
半径五十キロ…めちゃくちゃ広い範囲でやるんだな。
メンバーがメンバーだけに、それくらいの面積を取らないと地獄絵図になるってことか。
「スタート直後に、参加者の皆様は公平を期すためにフィールド内にランダムに転移されます。
参加者の脱落はその都度アナウンスが流れます。
更に一定時間経過や参加者の減少につれ、フィールドの端から活動不能のエリアが増加。最終的にはこの帝都が決戦の地となります。
状況管理も大切な要因となることは間違いないでしょう」
メンツがメンツだからな、案外早く決着はつきそう。
けどランダム転移は厄介だな。
「サクラ、手出して」
「?」
「チュ」
「チッ!」
「殴んな!マーキングしただけだってんだよ!お前【百合の王姫】の能力下にないから!何かあっても駆けつけられるように!」
「それならそうって言ってから死ね」
「言う前に殴ったのお前だろ!まあこんなことしなくても、美少女の気配なんてエ○ルの心網より読めるんだけどね♡」
「じゃなんで手にキスしたの?」
「したかったから♡てへっ♡」
「アラサーの可愛こぶりキッツ」
「まだアラサーちゃうわ!!」
生前合わせたらアラフィフだけどな!
「さて、それではいよいよ!剣魔祭の開催です!右も左も強者曲者!時代の覇者の栄冠を手に入れるのは!はたして!」
「おママ様ー!お母様ー!ファイトですー!」
「おー!」
「負けんなよ姫様!隊長たちもな!」
「頑張れー!」
「サリーナ!負けたら承知しませんからね!」
観客席からの応援に、私たちは手を挙げて応える。
「可愛らしい応援団ですね」
「ウッヘッヘ」
「…!アタシたちだけじゃないみたいよ。応援団がいるのは」
ドロシーが目を向けた先。
ミオさんに向けた応援が飛んだ。
「ミオ様ー!!」
「ファイトー!!」
「あたしたちが、ついてますよー!!」
人魚の魔眼。
今は解散した、ミオさんのパーティーの仲間たちだ。
「アンナ、メノローア…リーニャ…」
「あれれ?泣きそう?」
「……少しだけ」
「勝って応えなきゃね」
「はい。誰にも負ける気はありません」
と、ミオさんは刀を空に掲げた。
「私が勝ちます」
それに感化されたみたいに、盛り上げ好きたちが拳を、武器を突き上げる。
「っしゃー!テンション上げていこーぜ!」
「みーんなモナの虜にしちゃうよー♡」
「勝つのは妾じゃ!」
いいねいいね、お祭りっぽくなってきた。
こうなると私だって身体の奥が熱くならざるをえない。
緋色の魔力を拳に、空に向かって撃ち出し爆ぜる。
鮮やかに咲いた花火の下で私は吼えた。
「どいつもこいつもかかってきやがれ!!」
リンゴンと街に鐘が鳴る。
「剣魔祭、スタートーーーー!!!」
私たちは光に包まれ、国の何処かへと転移した。
私が転移したのは、どうやらサヴァーラニア南西部の山岳地帯らしい。
火山帯…ディガーディアーに近いのか。
「さてと、まずはサクラを探さないとな」
サクラの気配を探ろうとした、次の瞬間。
「おいおい…マジか…。マジで言ってんのか!!」
とんでもない魔力がこっちへと向かってくるのを感じた。
覚えがあるどころじゃない。
これは…この魔力は…!!
「氷獄の断罪!!」
「っ、【創造竜の魔法】!!」
一帯を閉ざす冷気が、緋色の魔力に衝突して霧散する。
「奇襲は失敗ですね」
「そんなに魔力荒ぶらせて奇襲も何もねーだろ。まさか一番最初にお前にぶつかるなんてな」
「偶然転移先が近かったのが幸いしました」
偶然?
んなわけ。
どうせ転移の瞬間にハッキングでもして私の近くに転移するのを狙ったんだろ。
「そんなに私とヤりたかったの?最近は怒られるようなことしてないんだけど。……あんまりね!」
「何を言ってるんですか。お祭りは、楽しんでこそでしょう?ねえリコ」
「ああ、そうだなアルティ」
「何度目でしょうね。こうしてあなたと向かい合うのは」
「いや、たぶん初めてなんじゃないかな。ガチでヤるのは」
吹雪荒ぶ中、私たちは微笑み合い、駆け出した。
――――――――
「こんなこともあるもんじゃなあ」
「ねー♡」
「心苦しいのう。早々に身内から退場者を出してしまうとは。のうモナ、本気で行かせてもらうぞ」
「いいよー♡そうじゃなきゃつまんないもんね♡テルナちゃんのぜーんぶ、モナが蕩けさせてあげる♡」
最強らしく。
年甲斐もなく。
妾たちは魔力をぶつけ合う。