2-17.交錯する参戦者
剣魔祭開催まで五日。
徐々に賑わいを増す街には、続々と各国から実力者が揃い始めた。
或いは国を代表する冒険者。
或いは世間を騒がす盗賊。
或いは武芸百般を謳う流派の筆頭。
或いは救国の英雄。
いずれも有名人。らしい。知らないけど。
歩けば人が垣根を作るので、気軽に出歩くことも出来なくなった。
元々外に出るのは好きじゃないし、祭り事には何の関係も無いので、他のみんなと違って私は気楽だ。
アリスとリリアとボードゲームに興じるくらいには。
「えいっ。6だ!トントントントン…事業に成功、金貨をもらう!やった!」
「次は私です!5!えーっと、双子の赤ちゃんが産まれた!みんなからご祝儀に金貨をもらう!わーい!」
「1ね。バイトをクビになり彼女にフラれ財布を落として馬に蹴飛ばされる。金貨を払う」
クソゲーすぎる。
なにこのつまんな人生。
まあリアルの人生の方がクソゲーか。
「イェーイ私の勝ちー!」
「むーアリスお姉様強すぎです!」
「アリスは運がいいから」
「エヘヘ〜。はあ、ゲーム飽きちゃった」
子どもの移り気こわ。
「お外で遊びたい〜。びゅーんって空飛ぶの〜」
「ダメ。今日は家でおとなしくってアルティから言われてるでしょ?」
「やーだー。お外行く〜」
ワガママっぷりが親にそっくり。
この子絶対将来は大物になる。
「ていうかなんで私が子どもの面倒見てるの」
「お二人は、本日到着予定のお客様を迎えに行かれましたから」
「シャーリー」
「お茶とお菓子をお持ちしました」
「どうも」
「ケーキだ!」
「ケーキ!ケーキ!」
「お客様って?」
「お二人のご家族です」
――――――――
「あー…」
「しゃんとしてください。周りの目があります」
「だーってー、べつに出迎えとかよくない?向こうだっていい大人なんだしさー。ほら、アリスとリリアが寂しがってるといけないし」
「そうですか。てっきりお義母様たちへの定期連絡をサボって顔を合わせづらいのかと思っていました」
「うぐっ…」
わかってるんじゃねーかチクショー。
会うのはかれこれ二年ぶりくらい?
忙しかったとはいえ、さすがになぁ。
はー…どうせまた頭に拳骨落とされるんだ。
痛いんだよなぁ…
「列車が来ましたよ」
「思ったんだけど、騒がれるのが嫌だから田舎に引っ込んだのに、なんで剣魔祭に参加することになったんだろ」
「さあ?」
「それはね」
停車した列車。
扉一枚隔てて尚、その怒気は私を戦慄させた。
「こういう機会でもないと、不出来な娘を叱れないからよ」
「はぴゃあ」
ゴンッ
「いだい…」
「あなたって娘は、いくつになっても変わらないんだから」
「申し訳…」
「そこがリコリスのいいところだけどな」
「さす父!それな!」
「甘やかさないのユージーン。リコリスもそんなにいい加減だと、この子が顔を忘れちゃうわよ」
私のお母さん、ソフィアの影に隠れて、赤い髪の小さな子どもがひょっこり顔を見せん゛んんぎゃわいいいい!!
ほっぺぷくーってしてふぅぅぅ!!
「ノーエルー!♡私の可愛い妹〜!♡」
「このガキだーれ?」
「ゴフッ!!!」
ガ、ガキ…ガキ…?
「ノエル、あなたのお姉ちゃんよ。リコリスお姉ちゃん」
「お姉ちゃん?私ってお姉ちゃんいた?」
「小さいときに会ってるよ!一緒にお散歩したでしょ?!おしめも変えたし!ほっぺにチューもしたよ!」
「ふーん?」
「ノ、ノエル〜?♡思い出してくれたかな?♡キレイで可愛いリコリスお姉ちゃんだよ〜♡ちゃはっ♡」
「子どもに興味無いからどうでもいいや」
「コポァ!!」
い、妹が…妹が冷たい…
「ふぐぅぅぅ…!」
「あまりにも報い」
「辛辣極まれりか!もう少し慰めて!優しく抱いて頭撫でてキスして!」
「これに懲りたら家には顔を出しなさい」
「うぃ…」
「フフ、ソフィアったら。そんなにいじめちゃ可哀想よ」
「長旅おつかれさまです、お父様、お母様」
「やあ」
アルティの両親、ヨシュアさんとマージョリーさん。
ほんっとにこの人たち年取らねえ。
荒木飛○彦かよ。
「久しぶりですね、ショコラ」
ヨシュアさんに抱かれた銀髪の子どもは、アルティの顔を見るなり恥ずかしそうに顔を背けた。
ほでゃああああ!
かわちいかわちい!
アルティの妹ショコラちゃん!
ノエルとは違ったタイプのかわい子ちゃんですなぁ。
「あらあら、ショコラ。お姉さんに挨拶は?」
「お、お久しぶりです。アルティ姉様…」
「ちゃんと挨拶が出来て偉いですね」
「うゅ…」
んー可愛さ天元突破。
私の妹ときたら…
「お婆さん、荷物重たくない?私が手伝ってあげるね。うひょー渋めのおば様はっけーん!ちょっとそこで一緒に入るお墓について語り合いませんかー?♡」
枯れ専とは…
「拗らせてんなぁ」
「あなたにだけは…あなたにだけは似ないようにと育てたのに…」
「まるで私に責任があるみたいな言い方なに?」
「立ち話もなんですから屋敷の方へ。アリスとリリアも会いたがっていました」
「ああ、ありがとう。孫たちは定期的に遊びに来るんだけどね」
「申し訳ありません。つい業務を優先してしまって」
「忙しいのはいいことだよ。君たちが元気ならそれで充分さ」
「かっけーですねヨシュアおじ様。うちのお母さんもこれくらい寛容になってくれればいいのに゛ひっ?!」
「これ以上寛容にしたら、あなた次は何をやらかすかわかったものじゃないでしょう?」
頭の形変わっちゃうよぉ…
「うーいてて…ん?」
「リコ?どうかしましたか?」
「いや、今あっちにシキがいたような」
一緒にいたのは…
「んおっ?!」
「うおっ?!どうしたのお父さん。変な声出して」
ア○ルにローターでも入れてんの?
やめてよね娘の前でそういうプレイ。
「あ、いや…なんか急に寒気がしてな」
「風邪?」
「ってわけじゃねえんだが…なんだぁ?」
「変なお父さん」
「変な娘がそれを言うんですか?」
「ハッハッハ」
お黙りあそばせハニー。
――――――――
街を一望出来る時計台のてっぺんで、ウチは番傘の妖怪と対峙した。
「ウチに話ってなんやの?」
「言わなきゃわからねぇとは思いやせんが」
「わからないよ。ウチは心を読めるわけじゃないから」
「心を籠絡することは出来てもでやすかい」
番傘越しの視線の冷たさを覚える。
それも当然。
「噂にゃ聞いてやした。百合の楽園に拾われたこと、リーテュエルの庇護下に置かれたこと。実際この目で確かめねぇと、わからねぇことってのはあるもんでさぁ」
今でも妖怪には、ヒノカミノ国には、ウチの悪行が伝わっている。
ウチとは憎悪の対象。
忌むべき大罪人に違いないんやから。
「ウチをどうにかしたいならそれでいいんよ。でもお姉様や他のみんなには危害を加えんといて。お願いやから」
「殊勝は結構。ですがそいつぁ早とちりってやつでさシキの姐さん。手前にそんなつもりは毛頭ごぜぇやせん」
あまりにあっけらかんと言うので、ウチは肩透かしをくらい目を丸くした。
「復讐だ憎悪だ怨恨だぁ、今でも禍根が残ってんのは間違ったことじゃありやせんが、わざわざ重箱の隅をつついて、やれ誰が悪いなんてほじくり返すのは粋じゃねぇや」
「妖怪にしては珍しいんやね。本当なら今ここで首を刎ねられてもおかしくはないのに」
「乾いた性格たぁ言われやすが、国が一度滅びたのは大昔。手前にゃ直接の関係はねぇもんで。こうしてお時間をいただいたのは、ちぃと知り合いから頼まれ事を」
「頼まれ事?」
「言伝でさぁ。セイクウノ都で待つ、と」
「誰から?」
「来ればわかる、とも」
表立った用件にはしたくないんやろうね。
けどウチかってバカじゃない。
大賢者を小間使いに出来る人物が、この世界に、ヒノカミノ国にどれだけいる。
"将軍"
ヒノカミノ国の最重要人物だ。
「言伝くらいでウチがのこのことヒノカミノ国に出向くって?行けば何されるかわからへんのに」
「断るならそれでよし。九尾の末裔がその英断に散るまで。とまあ、ここまでが手前が預かった言伝でさぁ」
「……今の将軍さんの性格が透けて見えるようやわ」
「清濁併呑こそ処世術。上に立つ者にゃ必要不可欠じゃねぇでやすかい。尤も姐さんの主さんは、そういうのとは無縁に思えやすが…………あいや失礼。伝説の大妖怪の気に当てられたらしい。つい口が軽くなっちまいやした。どうか刀を収めておくんなせぇ」
言われて気付いた。
ウチの手に刀が握られていること。
切っ先を彼女の喉元に突きつけていること。
「言伝ありがとね」
「礼には及びませんや。それじゃあ、手前はしかと伝えやした。お互い祭を楽しむとしやしょう」
「うん。お手柔らかに」
用を終えたシズクさんは、高下駄を鳴らして去っていった。
ヒノカミノ国か。
「来てもたってことやね。過去と向き合うときが」
――――――――
「人が多いねぇ都会は。騒々しくて嫌になる」
「賑やかでいいじゃないか。若い頃世界中を旅していたのを思い出す」
「なんであんたまでついて来たんだい。年寄りなんだから家でのんびりしてればいいものを」
「そうはいかん。弟子の晴れ舞台を見逃したとなれば、わしは夜な夜な枕を濡らさねばならんからのう」
「私の弟子だよ。とか何とか言って、どうせ若い獣人のメス目当てだろう」
「ホッホッホ、よくわかったのう。さすがわしの愛する婆さん……うっひょーヘーイそこのネコ耳ちゃーん♡モフモフの耳でわしの愛剣白刃取りしなーい?♡」
「死に晒せクソ爺」
「はぐっ!!」
老爺の白髪に杖の先を落とし、老婆は背後の美女に振り返った。
「本番はもう少し先みたいだけど、どうだい調子は」
「はい。特に問題はありません」
「空気が違う。強い連中が集まってる証拠だ。まあ気負わずに楽しんでおいでリーゼ」
「かしこまりました。ラプラスハート流の名を汚さぬよう精一杯尽力いたします、師範」
剣聖、参戦。
キャラが多いと書くのがおもしろ大変ですねぇ。
まだまだ登場させなきゃならない人たちがいるのに!!
いつも愛読ありがとうございます!!
仕事の関係で更新がスローペースですが、引き続きお楽しみいただければ幸いです!!!
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