2-12.剣魔祭《カーニバル》
新章スタートです!
ガチバトル編ですが、どうかまたお付き合いください!
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
車窓から入り込むのは若葉薫る青い風に、私たちは意気揚揚とした。
「ウッヘッヘ、なかなか快適だな。やっぱいいね列車の旅」
「趣深いものがありますね」
「これがあたしの叡智ってやつよ」
「よっ、天才錬金術師!しゅきぴ!」
リリーエクスプレス。
御伽国ドリーミアが誇る幻想鉄道スターライトから着想を得て、我らがルウリが完成させたこの魔導列車は、文字通り魔石を燃料にして稼働している。
騒音、排気といった環境面への配慮を十二分に、安全性と快適性を両立させた稀代の発明だ。
ディガーディアーからは技術者を、砂漠の国ラムールからは資源を融資してもらうことで完成に至ったわけだけど、本人曰く、
「モノより線路引く方がめんどかった」
とのこと。
いや線路以前に誰が各国、各領地に話通したと思ってんだ。
あと資金な。
好きな女のためなら何でもするにしても。
まあ何にせよ、迷宮があれば各国は簡単に移動出来るけど、こうして風を浴びる旅ってのは風情が違う。
一般にはこっちの方が受け入れられることだろう。
「お母さん、みかん凍らせて!」
「お母様、私も!」
「はいはい」
行き先はサヴァーラニア獣帝国、帝都ルーニア。
新たな冒険…なんてほどのことじゃない。
言うなら、社員旅行?
「駅弁っておいしーね」
「ます寿司はお酒に合うなぁ」
「モナかに飯好き♡」
みんな楽しそう。
列車旅を満喫してるのもあるけど、一部は旅行の目的に気分が上がっているように見える。
そう、これはただの慰労目的の旅行ではない。
事の始まりは、ある日届いた一通の手紙。
――――――――
「真の最強を決めるべく集われたし。テスタロッサ=メーラアドルナート」
そう締め括られたその手紙は、百合の楽園への名義で送られてきた。
何かのいたずら…そう思った人はいない。
そう断言するには、手紙に同封されているかのような魔力の残滓が強大すぎたためだ。
「雷帝の大賢者か。こうしてコンタクトを取るのは初めてだね」
「大賢者の中でも最も奔放ですから。王国ですら足取りが掴めないほどに」
「そんな大賢者が、何故我々宛てに手紙を?」
「ざっくり、みんなで戦って一番を決めようみたいなことっぽい。場所はサヴァーラニア。日時は一ヶ月後だって。文面的に他にもいろんな人に声をかけてるのかな」
「どうするの?」
「どうするも何もなぁ」
私が渋ると、サクラは意外だと口を開いた。
「あなたはそういうの好きそうなのに。自分が一番強いと思ってるタイプだと思ってた」
「まあ、最強無敵で完全無欠なのが私だが」
「キッツ」
「バトルってなるとどうもね。私は女の子には暴力を振るえないし、案外これで無力だよ。やり合うのはベッドの上だけにしたいもんだね」
「キッツ」
二回も?
「一応立場は私の秘書なんだから、もっと優しい言葉使ってよー」
「人間性的に無理」
「サクラ女嫌いの前に人付き合い悪そうだもんな」
「私のじゃないんだけど?」
それはさておき。
「みんなはどうする?」
「私は興味ある!強い人いっぱい集まるんでしょ?そんな人たちと戦えるのすっごい楽しそう!」
「たまには身体を動かすのも悪くはないのう」
やる気なのはマリアと師匠くらい。
モナは遊び気分にはなってるかな。
言葉に出さないけど、アルティも興味は湧いてるんじゃないかな。脳筋だし。
あとは私が行くって言えばついてくる、くらいのテンションだ。
「仰々しい戯れに参加するかはさておき、慰安旅行ってことで行ってみようか。ちょうどリリーエクスプレスの初運行の時期と被るし。わざわざ招待状を寄越してきた大賢者さんの顔も立てなきゃだしね」
「賛成〜♡」
「やった!お姉大好き!」
「こんなのではしゃぐとか子どもっぽい」
「ジャンヌ何か言った?」
「べつに?」
「ひ、久しぶり……ですね。みんなで、旅……なん、て」
「楽しくなりそうです」
どんなドタバタが待っているのか、どんな美女たちが待っているのか。
かくして私たち百合の楽園の新たな冒険……剣魔祭は幕を開けたのだった。
――――――――
現在列車には私たち百合の楽園の他には、車掌を含めたスタッフが十数名。
それに加え、剣魔祭に招待された来賓が若干名乗っている。
「酒が足りん」
「お母様、飲みすぎですよ」
ヴィルとリエラ。
ドラグーン王国が誇る女王と王女である。
「すみませんリコリスさん。母が迷惑を」
「いいっていいって。道中も楽しくなきゃ旅じゃないよ」
「王都から出ることは稀なので浮かれているのでしょう」
「そういうリエラだって楽しそうに見えるけど?」
「意地の悪いことを言っては可哀想ですよリコ」
「おっと失敬」
「なんですかその小芝居…。あなたからも何か言ってくださいサリーナ」
「リコリスさんもアルティさんも、あまりからかわないでください。こういうのはまだ慣れてないんですから」
サリーナ=レストレイズ。
奈落の大賢者こと私の愛する女、エヴァ=ベリーディースの愛弟子にして、黄昏の二つ名を授かった大賢者。
そして、リエラ=ジオ=ドラグーンの恋人だ。
「いやぁ初々しくてついねぇ♡」
「自分たちはさっさと結婚して子どもまでいるからって」
「リエラもサリーナも、私たちがただふざけてるだけなんて思ってたら心外です。今から結婚式のスピーチはどうしようと悩んでいるくらいには、二人のことを応援してるのですから」
「アル…」
「おもしろがってるのも本当なんですけど」
「アル!!」
ウッヘッヘ、付き合いたてのカップルをいじるのは楽しいね。
幸せになっておくんなまし♡
「なんであの人って王族に対してあんな態度なの?」
「バグってるからしゃーなし」
「気をお許しになられている方には、リコリスさんは砕けた態度を執られますよ」
「私には最初からあんなだったけど」
「なら、サクラちゃんには最初から気を許してたんやね」
「……キモッ」
サリーナちゃんが列車に乗っているのは、宮廷魔法使いとして王族を護衛するのもあるけれど、私たちと同様に招待されたからでもある。
「すごいことを思いつきますね雷帝殿は。世界各地の強者を集めて武闘会を開くなんて。それも大賢者を全員招集した上で」
「十人の大賢者か。今まで集まる機会とか無かったの?」
「ありませんね。噂によれば百合の楽園に負けず劣らずの個性が強い方々のようですし。そもそも集まる意味が無いんです」
「どゆこと?」
「一口に魔法と言っても、炎や水のように属性は様々。そこから攻撃特化であったり守護に特化していたりと、ジャンルも異なります。謂わば一芸。大賢者はその一芸を極めた者たちです。わざわざ集まったところで、理解は出来ても実利にすることが出来ない。だから集まるのは無意味なんです」
「第一、大賢者はそもそもが国家級戦力。国の抑止力同士が対峙することの方が稀なんです。尤も現在は各国のしがらみは無いも同然。それ故に今回の催しが開かれたのでしょうけど」
平和になったんだねぇ。
なーんて国同士の諍いに首を突っ込んだ覚えも無いけど。
「今回は剣魔祭に、多くの来賓が集まるそうですよ。世界中の実力者に声をかけたそうですから」
「盛り上がりそうだね。私的には、女の子同士の殴り合いはあんまり見たくないんだけど」
「おー姉っ」
「んぉっと。どうしたマリア?」
「今ここで宣言しとくけど、私はみんなと戦うことになっても全力でやるからね。本気で優勝狙いに行くし」
おーおーやる気だねぇ。
さすが現役の冒険者だ。
それくらい血の気が多くないと。
「頑張れマリア。応援してる」
「むー雑いよぉ。お姉は戦う気無いんでしょ?」
「無い!みんなと戦うくらいならその場で土下座して負けを宣告するね!」
「一周回って潔くて草」
「お姉と本気でやり合ってみたかったんだけどなぁ」
「そうしょげるなマリアよ。それともなんじゃ、妾では不満か?」
師匠は酒ビンを掲げてニヤリと口角を上げた。
おお、なんだ。
なんか強キャラっぽいぞ。
「お酒飲んでるとこに不意打ちで勝てそう」
「下に見すぎじゃろこの小動物め」
「テルナ姉さんはさておき」
「なんでさておかれた?」
「マリアが優勝とか無理。私がいるし」
「は?」
「もし負けても泣かないでね?あやすのめんどくさいし」
「今ここでボコしてもいいんだけど」
「やる気?いいよ?」
「いいわけねーだろ始発が生の終着になるわ」
わんぱくかよ。
ヒートアップするのはいいけど、大丈夫かな。
ここにいる全員が本気出したらサヴァーラニアどころか大陸が地図から消えるんだが。
「おママ様!見えてきました!」
「ん、そろそろ降りる準備しとこうか」
「はーい!じゃあリリアと先に行ってるね!」
「うん。…………うん?」
「リリア、行こっ!」
「はい!」
「はいじゃない待って二人とも!!走ってる列車から飛び降りちゃダメぇぇぇ!!」
子どもって、うん…わんぱくだから可愛い…よね?
出だしからバタバタしつつ。
リリーエクスプレスは帝都ルーニアに到着した。
異世界モノって、武闘会パートやりがちですよね
当方だって書きますよ
だって戦ってる女の子はカッコいいですからね!!
仕事の都合上更新頻度が落ちる可能性がありますが、どうかゆっくりと前ページでも読み直しながらお待ちくださいm(__)m
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