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2-10.覚醒の百合

 魔法。ってことだけわかった。

 わかった気になった。

 この世界についても、あの人たちについても理解出来てない頭じゃそれが精一杯。

 あの赤い髪の人も、こんな感じだったのかな。

 この世界に来たばっかりのときは。


「バーベキューするんだからあんまやりすぎんなよ」

「このサイズなら一体残せば充分でしょうに」

「やってやれないことはないだろ」

「誰に物を言っているんですか。空の果てにて吹き荒べ…【九天竜の極星(アンリ・マユ)】」


 虹が煌めいたかと思えば、次の瞬間には海竜が…海が氷漬けになった。


「もー!アルティ姉!なんで氷漬けにしちゃうの!それ今私が倒そうとしてたのに!」

「マリアが遅いのが悪いんです」

「むぅ!」

「ノロマ」

「ジャンヌー!」

「そんなこと言ってるうちに私の方が多く倒しちゃうよ?」

「ザコいんだからどいてたらいーじゃん!」

「そっちのがザコいし!」

「ウッザいんだよバカ!!一緒に燃えしてやるから!!【太陽竜の爪(クトゥグア)】!!」

「呑まれて溺れちゃえ!!【絶海竜の牙(バハムート)】!!」 


 太陽が、海が暴れる様にさえ、彼女たちはそれがいつものことだと微動だにしない。


「【黒竜の暗影(スカサハ)】」


 影が貫いても。


「【創世竜の混沌(ティアマト)】」


 闇が押し潰しても。


「なんでどいつもこいつも、競うみたいになってるのかしら」

「その方が私たちっぽいからじゃない?」

「それな。てか久しぶりにみんな集合してテンションブチ上がってんでしょ。あたしもそうだもん」

「わかるけど。アタシこれでも女皇なのよ?ほんとにもう…とびきりおいしいご飯食べさせてくれなきゃ承知しないわよ。【月皇竜の秘薬(ヒュドラ)】」

「期待しましょ。【死王竜の反転(ウロボロス)】」

「アガってこーぜっ、【機械竜の錬成(ゲーティア)】」


 淡く輝く青い光のドラゴン。

 黒い骨のドラゴン。

 機械部品が象ったドラゴン。

 それぞれが海竜の群れを押し返す。

 スケールの大きさはファンタジーそのもの。

 私は呆然と立ち尽くすしかなかった。

 泡を吹いて倒れないだけ、肝が据わっているということにしよう。


「あまりやりすぎると他の魔物まで呼び寄せてしまうぞ。っと、もう遅いか」


 こうもりの羽を生やした小さな女の子が空を仰ぐ。

 空の向こうから、また違うドラゴンが群れでやってきた。


「オースグラードのドラゴンが餌を求めて嗅ぎつけたか」

「繁殖期やからね。仕方ないんと違う?」

「いいなぁ〜♡モナも繁殖した〜い♡」

「しとるじゃろ、そなたはいつも」


 三人は、このとんでもないメンバーの中でも、明らかに雰囲気が異質だった。

 存在としての格が何段階も違うような。


「【紅蓮竜の無限(アザトース)】」

「【九尾の呪禁(たまものまえ)】」

「【欲望竜の邪淫(アスモデウス)】♡」


 この人たちはなんだ。

 一人一人がドラゴンなんて歯牙にもかけない強さ。

 元の世界の国民的アイドルが足元にも及ばない美しさ。

 そんな人たちを束ねるあの人はなんだ。


「最後の一体だ。おとなしく…」


 あの人は…


「お肉になれ!【創造竜の魔法(ラプラス)】!!」




 ――――――――




「ウッヘッヘ!大量大量!よっしゃーバーベキュー始めんぞー!シャーリー、みんなに今すぐ来いって連絡頼むね」

「かしこまりました。僭越ながら、皮と鱗はいただいても?服の素材にしますので」

「あいよー。まあ、丸焦げやら凍ってるやら風穴開いてるやらで、肉ごと無いなってるのもあるけど」


 バーベキューバーベキュー♪


「マリアーパパッとお肉解体してよ」

「お姉さぁ、私の刀は包丁じゃないんだけど」

「そう言わずに。おねがぁい♡」

「もー」


 ため息をついて肩を落とす。

 それだけの動作で、山のような海竜が肉の塊に早変わり。

 私でも見えない剣閃とは、さすが百合の楽園(リリーレガリア)の筆頭剣士。


「無冠の剣聖は伊達じゃないな」

「その呼び方やめてよね。リーゼちゃんに悪いから」

「ゴメンゴメン。にしても、程よく脂乗ってんなぁ。さすがドラゴン。新鮮だしシンプルに塩胡椒で串焼きが良さそうだな。なぁ、サクラ」

「なに?」

「一緒に下拵えしよう。そしたらお前も食べられるだろ?」

「……私は」

「ママー!」

「おママ様ー!」


 んぁ?

 どこから声が…

 空から何か降って…あ、なんだ我が子たちか。


「…………我が子たちぃ?!!うおおおお!!」

「キャハハハッ。ただいまママ」

「ただいまおママ様!」

「わ、我ながらナイスキャッチ…って、なーんで空から降ってきたのぉ?!!ルドナぁ説明してぇ!!」


 二人の可愛い子どもたちを抱いて、空から降ってきた美人さんに声を荒げる。

 幻獣のルドナは、プランと同じくエヴァが経営する児童施設で働いている。

 担当はうちの子だ。


「申し訳ないのでございますマスター。お二人を連れ上空を散歩していた折、偶然皆様のお姿を見かけまして。そしたらお二人とも、一目散に飛び降りてしまったのです」

「我が子ながらもう少し恐怖心とか躊躇いとか持った方がいいよ」

「我が子…?」

「おー。私の愛する子どもたち。アリスとリリアだ」

「アリスです!」

「リリアです!」

「結婚、してるの?」

「え?見えない?いやー私ってばほんといつまで経っても美少女で。あ、あそこにいるのが嫁ね。ていうかここにいるの全員私の嫁(まだ結婚はしてない)だけど」

「…?……??」

「何言ってんだこいつ、みたいな顔してんな。しょーがねーな。おーいアルティ、こっち来いよ」

「なんですか?料理の下拵えなら手伝いますよ」

「絶ッッッ対何もしないで!!!」


 デス系料理下手は何もするな。


「この子はサクラ。私と同じ世界から来たんだって。んで、こっちがアルティ。私の嫁♡んーブチュチュ〜♡ぐっハァ?!」

「キスするにしても初対面の方の前で舌を入れないでください。うちの(バカ)が失礼しました。アルティ=ラプラスハート=クローバーと申します」

「あっ、と…大道寺 桜…サクラ=ダイドウジ…?です」

「この人には気を付けてください。とんでもない人ですので。気を許せば喰われますよ」

「人を騙して取り込む系の怪物か私は」


 さしものサクラもアルティの迫力に負けて強い言葉は使わなかった。

 握手に伸ばした手は空を切ることになったけど。




 とりあえず話は食べながらだなと、サクラを誘って調理を始める。

 自炊の経験があるらしく手付きがいい。


「自分でご飯作ってたんだ。得意料理とかある?」

「カレー…は、お父さんが好きだった」

「カレーかぁ、いいね。私も得意だよ。今度食べさせてよ。そんで私が作ったやつも…って、ゴメン無神経だった。言いたくないこともあるか」

「いいよべつに。無神経な女は慣れてるから。女なんてみんな…」

「暗い顔は似合わないよ。美人が台無しになる」

「台無しになってくれた方が、いっそ人生楽しめたかもね」


 サクラは肉を切りながらこんなことを言った。


「私のことより、そっちのこと聞かせてよ」

「いいだろう、スリーサイズは」

「死ね」

「私はねー、二十年とちょっとだな。この世界に転生して」

「楽しい?」

「最高♡やりたいことばーっかやって、好きな人たちに囲まれて。私以上に自由してる人はいないって断言出来るね」


 子どもも妹もいて、そこそこお金持ちで、そこそこ有名で。

 満たされてはいる。間違いなく。


「それでもまだ夢の途中なんだけどさ」

「夢の途中?それって…」

「ママーお腹すいたー」

「おママ様、リリアもー」

「もうちょっとだから、向こうで遊んでおいで」

「はむはむ」

「がぶがぶ」

「あ、こら!生肉つまみ食いしない!野生児かお前らは!お腹壊しちゃうでしょ!特にリリアは!」

「この前変な色のキノコ食べても大丈夫だったもん」


 アリスと違って戦闘系のスキルを持ってないんだから、そういう無茶はしないでほしいんだけどなぁ。

 わんぱくすぎて困る。


「すぐに出来るから待ってなさい。ほら、このサンドイッチ食べていいから」

「はーい」

「アリス姉様、向こうにおいしそうなヒトデが落ちてたから食べに行きましょう」

「絶対ダメだからね」


 リリア…赤ん坊の頃からアルティの離乳食で育ってきたもんな。

 全力で浄化(ピュリフィケーション)したり、回復(ヒール)かけたりしたけど。

 そのせいで味覚がバグって…


「許せ、不甲斐ないママを。っと、んで何の話してたっけ?」

「なんでもない」

「そっか?まあいいや」


 材料オッケー。

 火オッケー。

 あとは…


「リー、お待たせー」

「オイラたちが来たぞー!」

「おーみんな。待ったぞこのー」

「すまぬでござる。これでも特急で仕事を片付けてきたのでござるよ」

「酒は山ほど持ってきたぞ」

「んー、じゃーよし!」


 幻獣組も揃ったことで。


「みんなで肉を食うぞー!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルティさんの母乳飲むとわんぱくになる...? 遺伝すげえな リコリスさんとアルティさんわんぱくだもんね かわいいかわいいね リリアちゃん 大事にされてる
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