2-8.女嫌いの美少女
大道寺桜。
改めサクラ=ダイドウジ。18歳。
簡単なプロフィールは勝手に診させてもらった。
まともに話をしようとしないんだもん。
それだけならいいけど、隙あらば死のうとするし。
私がいる限りそんなことさせないけどな。
【創造竜の魔法】で治癒力促進させて痛覚も無効にしてやったわ。
そしたら早い段階で死ぬのは諦めた。
「死にたがりってとこだけなら、シキより厄介だ」
あいつは死にたくても死ねなかった。
力が強すぎるせいだ。
けどサクラは違う。
強度は一般人。いや、一般人よりタチが悪い。
なんせサクラは、スキルの一つも持ってないんだから。
「あいつは、ある日突然この国に現れたわ。腹部に重症を負った瀕死の状態で」
「魔物に襲われたか?」
ドロシーは切り株のテーブルの上にナイフを置いた。
「あいつの腹に刺さってたものよ」
「刺された…」
死に際に神に見初められてこっちの世界に転生するってケースは実在する。
私とルウリがそれに該当する。
解せないのは、サクラの肉体が変質していないことだ。
私がリコリスとして産まれたように。
ルウリが自動人形として生を受けたように。
魂はそのままに、肉体は新しい器を得る。
それなのにサクラは、瀕死のままこの世界にやって来た。
転生…いや、状況を鑑みれば召喚に近い。
「ちょっと話を聞いてみるか」
ユリホをちょちょいと操作して。
『もしもーし♡リコリスちゃん元気ー?♡』
立体映像よろしく、ユリホの上にそれはそれは美麗な神様が姿を見せた。
「元気元気。そっちも元気そうだねリベルタス」
自由神リベルタス。
私をこの世界に転生させた張本人。もとい張本神だ。
『連絡してくれるの嬉しい♡今日はどうしたの?♡』
かくかくしかじか。
リベルタスにあった事を伝えた。
『んー私たちが転生させたわけじゃないから、たぶんその子は次元の狭間に迷い込んじゃったんだと思う』
「次元の狭間?」
『リコリスちゃんがいた世界とこっちの世界は、隔絶された別の次元なの。基本的に世界間を行き来することは出来ないし、干渉することも出来ないようになってる。私たち神や、一部の例外を除いてね』
そういえば、フアリママは転生するときに世界を選べてたっけ。
『けど極稀に、何らかの拍子で世界同士にトンネルが出来ることがあるの。小さくて細くて、私たち神ですら把握出来ないような。そのサクラちゃんっていう子は、そのトンネルに落ちてこっちに来ちゃったのかも』
「なるほど。よくわかんないけど、なんとなくわかった」
境界トンネル的なあれか。
「そのトンネルとやらを作れば、あいつを元の世界に返してやれるってこと?」
「私に作れって言ってんのか」
「出来るでしょ」
「たぶん」
『あんまり無茶しないようにね♡』
「ん、ありがとリベルタス。今度またお酒でも供えるよ」
『楽しみにしてるー♡』
んー…世界を繋げるトンネルねぇ。
「ってことなんだけど、どうする?」
「どうするって何が?」
「元の世界に帰りたいんなら、私がなんとかしてやるよってことなんだけど」
するとサクラは、死ねるんならどこでもいいと自虐的なことを吐いてから。
「でも、元の世界にだけは帰りたくない」
そう目を伏せた。
訳アリだよなぁ。
心を読むのは簡単だけど、それはさすがに私の中の紳士の部分が待ちたまえとストップをかける。
いい女たるもの、まずは心を落ち着けて寄り添うことが大事だ。
「ふぅ」
「なんで座ってんの出てけよ気持ち悪い死ねブス」
「とりあえずお茶して今後のことについて話でもしようよ。チョコレート好き?マカロンもあるよ。あ、これロストアイの薬茶なんだって。私これお気に入りなんだよねー。ちょーっとクセがあるけど、ハーブティーみたいで結構いけ苦が熱っづぁ!!」
「ウザい」
「残念だったな!私は女の子から冷たくされるのも好きなタイプだ!」
「出てく気が無いなら私が出てく」
「まあまあ、ちょっと待ってって」
横をすり抜けようとするサクラの手を掴もうとして、パンッと乾いた音が爆ぜた。
手を払い除けたサクラは、鬼気迫る顔で私を睨んでいた。
「私に……触るな」
私はよっぽど間の抜けた顔をしてたんだろう。
しばらくしてから、サクラはハッと我に返ってまた目を背けた。
「自分で言うのもなんだけど、私ってば女の子にはモテるんだけどな。嫌いって言われたことは一度くらいはあったけど、拒絶されたのは初めてだ。こんなスペシャルいい女なのに!」
「キモすぎ」
「なんだとコラ」
「自意識過剰なのもバカなとこも全部ブスキモウザい」
閻魔様も地獄行き即決するレベルの悪口だろ。
こちとら天上天下に無双する美貌の持ち主ぞ。
「……女なんかにモテてもウザいだけだよ。女とかマジで嫌い。みんな死ねばいい」
「お前も思うところがあって言ってんだろうけどな。私の前で女の子を罵倒するな。全ての女の子を愛するために産まれた私としては、どうしても聴き逃がせねえ」
「全ての女を愛する?……なら、私とは絶対わかり合えない。全ての女を憎む私とは」
向かい合う顔の良いこと良いこと。
けどまあ、わかり合おうとしないんじゃ話にもならない。
「よしっ、じゃあ出かけるか」
「はぁ?」
「どこ行くにしても何するにしても、まずはこの世界がどんなもんなのか知らないことには始まらないだろ。だからリコリスさんが案内してやろう」
「いい。勝手に野垂れ死なせてくれればそれで」
「うるせェ!!!行こう!!!って知ってる?知ってるよね?同じ世界出身だし!」
「アニメとか漫画とか見てなかったから知らない」
「なんでアニメとか漫画だってわかんだよ。ニシシ、なんだおもしろいなサクラ」
「名前呼ぶな」
「ちなみに誰推しだった?私絶対的にハン○ックなんだけど」
「…………コウ○ロウ」
「く○なのお父さんの?!チョイス渋すぎない?!」
「女推しよりマシ」
「やっぱおもしろい奴だな。なっ、行こうぜ。スカッとさせてやるよ」
ずっと城の中も退屈だったらしい。
訝しみながらもサクラは私に付いてきた。
差し出した手はガン無視されたけどね。