2-5.リリーストームグループ【ナインテイル:娯楽商業部門】
緋色の花園。
各国に設置された転移門からのみ入場が可能な人工迷宮には、特定の階層に商業施設を設けている。
用途は様々だが、迷宮に挑む冒険者の休憩所ないし、武器やアイテムの補給地点が主だ。
その中でも一部の層に多大な人気を博している階層がある。
それが7階層、享楽の賭博場。
リリーストームグループが抱える娯楽商業部門ナインテイル、その総支配人、大妖怪シキ=リツカが統治する街だ。
「ここは相変わらず賑わってんなぁ」
「持て余した暇を消化するのにはもってこいなのでしょう」
街全体がカジノになっていて――――もとい改造して――――昼夜問わずとんでもない額が見えないところで動いている。
スロット、ルーレット、カードにビンゴ、競馬、麻雀。
ありとあらゆるゲームがここには揃ってる。
「持て余してるのは暇だけじゃないだろ」
「富裕層も多いですからね。元々はリコの私用や冒険者のレベルアップを目的に開設した迷宮も、今では立派な観光地になっているわけですし」
「完全プライベートな階層は別にしてもな。アドが頑張った…っていうか張り切ったおかげだ」
「今緋色の花園の全容を把握してるのは、彼女くらいですしね」
「私でさえ今ここが何階層あるのか知らないのってどうなんだ」
話をしながら歩を進めること数分。
武家屋敷を思わせる建物の前に到着した。
「りこりす様、あるてぃ様、ようこそおいでませやよ」
「中にてお館様がお待ちでございんす」
和服姿のおかっぱの子どもが二人、門の前でお出迎え。
変な関西弁を使うのがテマリで、これまた変な廓言葉みたいなのを使うのがマツリ。
五年前、海辺の街に捨てられていた赤ん坊をシキが見つけて、それからずっと面倒を見ている。
子どもながらに知識の吸収が凄まじく、またシキ以上にしっかりしてて、今ではナインテイルの経営にも携わっているほど。
聞けばシキと同じ妖怪なんだとか。
それもメジャーの中のメジャー妖怪。
座敷わらしだっていうんだからまた驚きだ。
「今日も可愛いね二人とも。はいこれ金平糖あげる。後で食べな」
「ありがとうなんやよーりこりす様」
「まことに感謝でありんすえ」
「シキはどちらに?」
「奥の座敷ででぃーらーしてはるよ。今びっぷ様が来られてるから」
「VIP?」
どこぞの王族でも来てんの?って奥を覗いてみる。
すると、
「ぬああああああ!!」
なんとも悲痛でみっともない叫びが聞こえてきて、私たちはため息をつく他なかった。
「……はぁ。テマリ、マツリ、あれはVIPじゃない。VUPだ」
「VUP?」
「ベリーウザいパーソンだよ」
また遊んでんのか、あののじゃロリめ。
「何故じゃ…何故じゃあ!出目が悉く…!イカサマじゃイカサマじゃ!シキそなた、壺かサイコロに仕掛けをしておるじゃろ!妾の目は誤魔化せぬぞ!」
「クフフ、嫌やわほんま。言いがかりはあかんよ。この街ではスキルも魔法も禁止。イカサマはご法度で即処罰。お客さんもウチらディーラーもね。お姉様の看板背負って清廉潔白謳ってるんは伊達じゃないんよ?」
「じゃあなんで妾一回も勝てぬのじゃ!」
「運が無いんやろ」
「むきーーーー!」
「むきーじゃねえよクソニート」
襖を開けると、涙目で地団駄を踏んでいる幼女の姿。
こんなのでも一応は最強を誇る吸血鬼で、私のスキルの師匠。
テルナ=ローグ=ブラッドメアリー。
ニートだ。
「おおリコリス!そなたらよく来た!金じゃ!金をよこすのじゃ!」
「ダー○神殿で山賊以外の転職拒否られでもしたのか。何して遊んでんの?ってなんだチンチロかよ」
「次は勝てる!絶対勝てるのじゃ!金貨1枚でよい!倍にして返すのじゃあ〜!」
「シキ、師匠っていくら負けてんの?」
「白金貨4000枚分」
白金貨1枚が1000万だろ…
てことは…
「よよよよ、4、400億?!!!」
声裏返ったわ。
「バッカじゃねーの?!!もう地下帝国行けば?!!兵○会長だって憐れんでステーキ食うか?って慰めてくるわ!!」
「ぬぁぁぁん!こやつが勝たせてくれないのが悪いのじゃー!妾悪くない!悪くないもん!」
畳の上でじたばたする師匠かわちぃ。
それはそれとして負債はバカだけど。あまりに。
「完全無職なくせに…。もーしょーがねーな。シキ、師匠の負け分は私が立て替えておくよ」
「ありがとねお姉様。まいどあり」
「おお!さすがリコリス!妾の愛しき弟子!マジよきにはからえじゃ!シキ、もう一戦ぁだっ?!!」
「あなた本当いい加減にしないと追放しますよ?」
ちゃんと拳骨落とすじゃんこいつ。
いつものことだけども。
「うう…いたいけな吸血鬼の頭を殴るなど…」
「正当な制裁だと思いますが」
「しばらく見てなかったと思ったら、シキのとこに入り浸ってたのか」
「最近は和食がブームなのでな」
言えば私が作ってやるのに。
こんなんでも、一応は私たちに気を遣ってくれてるってことか。
「今さら師匠に働けとかは言わないけど、あんまりだらしないことすんなよ。アリスとリリアが見たら何て言うか」
「む…」
師匠は、それはそうじゃのと言わんばかり押し黙った。
まあ、私にしてみればだらしない師匠の方が、師匠らしい感じがして好きなんだけど。
「今日は子どもたちはどうしたん?」
「タルト村。いつもどおりアリスがリリアのこと連れ回してるよ」
「クフフ、元気いっぱいやね」
「リリアはともかく、アリスはお転婆で困ります。昨日だって子どもたちだけでサヴァーラニアに行ってしまうし」
「奔放なんはお姉様譲りや」
「リリアもな。小さいリコリスが二人とは、アルティも苦労するのう」
「まったくです」
「のびのびしてていいじゃん」
「限度という言葉を叩き込んであげましょうか?」
くっ、これが方向性の違いってやつか。
「多少話が脱線しましたが、視察は以上です。特に不備は見当たりませんでした」
「クフフ、お姉様のお膝元で悪さなんかせえへんよ」
「元から疑ってるわけでもないけどね。体裁体裁」
「組織というのは規律が全てですから」
「さすがですわリリーストームグループ副総帥」
「代理、です」
「代理といえば、あやつは息災かの?しばらく顔を見ておらぬが」
「あやつって…ああドロシー?定期的に連絡はしてくるよ。一ヶ月前くらいにも会ったし。やっぱ私がいないと寂しくてしょうがないんだろうなウンウン」
もう困ったちゃんだぜ、あのツンデレ魔女ったらよ。
「まあ明日会いに行くんだけどな」
「ほう。さすがのそなたも寂しくなったか」
「ちげぇよ。いや、寂しいのはホントか。なんか大事な話あるからって呼び出されたんだよ」
「大事な話?」
「なんですか?」
「さぁ。メロシーさんかアウラ辺りが結婚でもしたんじゃね?てなわけで明日はちょっと出掛けてくるわ」
「なら今日中に仕事を終わらせてください。まだ視察は残っていることですし」
「うぃ。んじゃね二人とも。そろそろ行くわ」
「もう行ってまうん?久しぶりにお姉様の顔見たら火照ってもたのに」
「マジかよ仕事終わったら家おいで抱くから」
「やった。お姉様が好きなやつしたげるね」
「好きなやつ……私の目の前で公認NTR?!」
私の女に私の嫁がNTRで…くっ、エッチじゃん!!
「それとも最近してなかったスライム風呂とか…目隠しコチョコチョ吐息フーとか…ハァハァ!まさか十二時間耐久トロットロディープキスか?!ちょっ、も、もう今日の仕事終わりでよくない?!!夜が待ちきれないよー!」
「未だにあります。本当に神経を疑う瞬間が」
「結婚して子どももおるのにのう」
「何をするのでも構いませんけど、仕事だけはちゃんとしてください」
「オッケー任せろ!行くぜ行くぜービューン!」
「……お騒がせしました」
「いつもお姉様は可愛いなぁ」
「退屈せぬ」
「あんな人でも、好きだから許してしまうんですよね。まったく…」
「惚れた方の負け、やろ?」
「ええ」
「アールティー!はよはよー!」
「わかってますよ」
視察は次でラスト。
性欲を高鳴らせつつ、転移の魔法陣で迷宮の階層を移動する。
ナインテイルと同じく、緋色の花園に本拠地を構えるもう一つの部門。
美容健康部門、オルタナティブへと。
明日9/21はいよいよ連載1周年!
そして9/23は我らがリコリスの生誕祭!!
愛され続けてきた百合チートの歴史を、ともに祝ってくれると嬉しいですー!!
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