2-3.リリーストームグループ【アナザーワールド:魔導宝飾部門】
リリーストームグループ。
大陸統一商会と銘打ち発足されたこの大規模な商会は、看板に偽り無しの勢いで、この数年で大陸を席巻した。
食料品、日用品から、衣類、宝飾品、薬、冒険者用の武器や防具まで、ありとあらゆるものを取り揃え、今や人々の暮らしに欠かせない存在にまでなったわけだけど、その立役者というのが間違いなく存在する。
まず何を於いても、たった一人で文明のレベルを上げ、独創的なアイデアで人々の心を魅了した大天才。
「よっすー姫&嫁〜」
「おつかれルウリ」
「おつかれさまです」
アナザーワールド総支配人、天才錬金術師ルウリ=クラウチ=ディガーディアーその人だ。
「おつおつ。視察って今日だったっけ」
「いつもどおり、ちゃんと仕事してますよーって周りにアピールするだけのやつだけどね」
「しゃーなしじゃない?上に立つ者の責務的なね」
「しかし今日も今日とて客足が凄まじいですね」
「まね。ユリホの新作出したから朝からてんてこ舞いしてる」
ルウリは薄い板を手元で遊ばせた。
ユリホ……時代に転機を齎したユリートフォンと呼ばれるそれは、ルウリが開発した小型通信デバイス。
端的にいうところのスマホだ。
魔石を液晶に加工し、内部に術式による回路を刻んだパーツをくっつけているだけと造りこそ簡素だが、番号登録による通話機能はもちろん、メッセージ送信に地図機能までついてる。
……まあ率直な話がスマホで出来ることはあらかた出来る。
SNSとか電子書籍とかソシャゲとか。
それはさておき、特筆すべきは所持金の電子化だ。
【空間魔法】を付与した画面に直接貨幣をチャージすることで、嵩張る硬貨の持ち運びが減り、また決済がスムーズになり金銭によるトラブルも少なくなった。
登録者以外に機能が使えない生体認証も大きなポイントだ。
「出始めた当初からは考えられない受け入れられっぷりですね」
「中毒性はあたしらが身を以て知ってるからね」
「それな」
人は便利を知るとそれから離れられなくなる。
けして購入者を軽んじているわけじゃない。
それだけユリホの登場は大きなインパクトだったってことだ。
「今さら訊くんですけど、ユリートフォンの"ト"って何ですか?」
「「知らん」」
ノリってあるやん?
とまあ話が逸れつつも。
時代の先駆者たるルウリが開発した"偉業"のうち、ユリホに並んで人々の人気が高いのが、ルウリの腕に嵌められているブレスレットだ。
「異空間庫の売れ筋も好調のようですね」
以前迷宮で入手した亜空のブレスレットと、スキル【アイテムボックス】を解析して作ったこの魔導具は、魔法が使えない人でも起動が可能で、異空間に物を収納出来るという優れものだ。
容量こそ限られてるけど、一般家庭から冒険者にまで幅広く支持されている。
「ったく悉く天才だな」
「悉く天才なんだよ。あ、そうそう。天才ついでにもうすぐアレが完成するってのも言っとこうかな」
「マジ?!」
「マジマジ。まーた世界をひっくり返しちゃうぜ。それもこれもラムールの資材と技術の提供のおかげなんだけど」
「最高だ!めっちゃ楽しみだな!」
「あなたもいい大人なんですから、いい加減そんな軽い言葉遣いは…」
「え?ダメ?どんなリコリスさんでも可愛くね?」
「下の者に示しがつかないと言ってるんです」
「下って言ってもなぁ」
「おーいルウリー。新作の時計の設計図持ってきたぞー。って、リコリスとアルティ。なんだ来てたのか」
「よっ、シロン」
奥の扉からダラけた様子で出てきたのは、白衣に身を包んだシロンだ。
「マジメに働いてるか?」
「ふあぁ…このボクが起きて動いてるだけでも褒められるべきだろ…」
「それはそうだな」
シロンと同様、幻獣組もみんなと一緒に働いてる。
自分の食い扶持を稼ぐためだ。
怠け者で出不精のシロンだけど、細かい作業は性に合っているらしく、日々ルウリの元で魔導具の開発及び時計作りに勤しんでいる。
すぐサボっては昼寝してる姿も目撃されてるっぽいけど。
「この後は?」
「いつものルートを回る予定です。ルウリたちも来ますか?」
「んにゃーオーダーメイドで注文入ってるからそっちやんないと」
「オーダー手数料だけで大金貨5枚はかかるのに。居るとこには居るなぁリッチな人は」
「どーしてもって頼まれたんだよ。冒険者なんだけどさ。結構人気とか高めらしいよ。見てこれすげくね?」
「なんだその黒光りしたゴッツい時計。時計…時計か?ガントレットじゃなくて?」
人でも殴るんか。
誰がどの用途で着けんの。
「なんか鳳凰級になったお祝いとからしいよ。ドラゴンポートの冒険者だって。名前なんだったかな。大熊の顎のジャ…ジュ…………忘れた」
「ふーん。まあいいや。んじゃ視察は以上ってことで」
問題特に無しっ。
仕事っぷりも可愛さも花丸っ。
「そんじゃね二人とも。たまには一緒にご飯にしよーよ。時間ある時はうちおいでね」
「それでは」
「おいよー」
「またな」
錬金術師と怠惰の化身に別れを告げて。
さて、次は売れっ子のファッションデザイナーのとこに行こうかな。
次回は元暗殺者のステキお姉さんが登場します。
ストーリーの進め方がスローペースになっておりますが、その分この五年でメンバーがどのように成長したのか、世界がどう変わっているのかを書いていくつもりです!
どうかゆっくりとお付き合いくださいm(__)m
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