幕間:百合の未来
「世界を征服、か。クスクス、彼女は本当に人を飽きさせることを知らないね。波乱万丈で破天荒。僕は彼女が心底好きだよ」
無限の蔵書が眠る古書堂で、魔術師アリソン=ヴォルフマギアは本を口元に当てながら笑った。
「彼女はどんな物語を紡ぐのだろうね、ジークリット」
「師匠は物語の結末を知ってるじゃないですか。わざわざ訊くのは時間の浪費だと思いますよ。【禁忌の魔術】。現在、過去、未来を統べるアーカイブの持ち主のくせに」
「ハハハ、時間の浪費か。さすが売れっ子の吟遊詩人はジョークが冴えてるね。不死の僕を指して大層な皮肉だ。しかしそういう意味じゃあジーク、君も同類だろう。過去と未来を行き来する時の旅人よ」
「その呼び方は風情があって良いんですけどね。私は師匠みたく全部を把握してるわけじゃないんで。遡れる過去にも限度はあるし、未来って言っても私にとっての本来の時間軸より先には行けないし。【放浪竜の旋律】はそんなに万能なスキルじゃないんですよ」
稀代の吟遊詩人。
そして十二からなる百合の系譜の血を引き、自らを百合の楽園の正当なる後継者と呼称する者。
緋色の後継リーダーこと、ジークリット=ラプラスハートは、師アリソンにジトりとした目をやった。
「まさか悪態をつかれるとは。そこまで実用的にしてやったことに感謝してほしいんだけどね。実際には今の僕でなく、君がいる時代の僕が、だが」
「それは感謝してますよもちろん。私の魔法の師匠なんですから」
「今さらながら、何故君は偉大なる大賢者を差し置いて、僕のような世捨て人に師事を仰いだんだい?」
「知らないことは無いんでしょって、まったく。おばあちゃんのことは一人の人間としてめちゃくちゃ尊敬してるけど、私あの人のこと嫌いなんです」
「何故?」
アリソンがニヤニヤと訊くので、ジークリットは頬を膨らませ唇を尖らせた。
「リコリスの正妻だからです。あーはいはい、もうっ。ただの嫉妬ですよ。言わせないでください師匠の意地悪」
「わざわざ過去の僕を訪ねてくる好事家をからかって何が悪いのかな。長い人生の退屈を彩るエッセンスだよ」
「わざわざ過去の師匠に挨拶しに来てあげてる優しい弟子になんて言い草ですか。ま、これといった用事があるわけでもないんですけど。んじゃ、そろそろ帰ります。ネタは山ほど仕入れたんで」
「次は何年後かな」
「わかりきってる答えは返しませんよ。また会いましょう師匠」
「ああ、また会おう」
パタンと本を閉じた瞬間には、ジークリットは目の前から消えていた。
「永劫の未来で」
次回より第二部が開幕します!!
作品としては完結させず、このまま連載を続けていく所存!
まだ構想中につき、掲載はもう少しだけ先になりますが、今週か来週には始められるかと思います。
その際はまたお付き合いくださいませ!
全ての読者に感謝を込めて。