154.私が幸せになるための物語
子どもだから考えることがある。
子どもだから冴える頭がある。
馬車に揺られながら眠るみんなに微笑んで視線を外に移す。
すると対面からアルティの声が飛んできた。
「なんだか楽しそうなことを考えている顔をしていますね」
「わかる?」
「付き合いが長いもので」
「フアリママのこと考えてたんだ」
「ゲスいことなら殴りますよ」
「私を何だと思ってんだ貴様。じゃなくてさ、すごいなって」
「創りたかったから、創れたから、というあれですか」
「そうっ!」
私は目をかっ開いて前のめりになった。
「国を創る…自分のしたいこと、欲望の理想形だ!」
「……はぁ。あなたという人は。迷宮と商会だけでは飽き足らず、次は国ですか?」
「ニシシ、おいおいアルティ。この私だぞ?国なんかで満足すると思ってんのかよ」
「?」
「私とみんながいれば、案外出来るかもって」
今までに考えたことが無かったわけじゃない。
子どもの夢物語。
冗談のつもりでなら何度か思ったことも言ったこともあるかもしれない。
けど今の私なら。私たちなら。
「世界全部、私のものにするのも悪くないな」
「世界…全部…」
「言葉にするとただの悪役だし、そうするにはまだまだ知らないことばかりなんだけどさ。行ったことない国がある。会ったことない人もたくさんいる。世界を我が手に〜なんてのは子どもっぽすぎるかもしれない。でも、いいなぁって思った。思っちゃったんだよね」
「今さら私たちがどうこうは言いません。いいんじゃないですか?リコはずっとそうでしたし。それに、今は子どもなわけですから」
シシシ、とアルティは白い歯を見せた。
愛しい妻と子。
可愛い妹に大好きな仲間。
裕福な暮らし。
それなりの地位。
ドキドキワクワクの冒険。
およそ考えうる限りの幸せを手に入れても尽きない欲望を、人は笑うかもしれない。呆れるかもしれない。
でもそれが私だから。
「やってみるか」
これはまだ見ぬ未来へと繋がる、これ以上無い御伽話の始まり。
旅の果てに何が在るのかを知るための旅。
今までと何も変わらない。
「ついて行きますよ、どこまでも。あなたを愛していますから」
「うんっ!」
私が幸せになるための物語で、私が幸せにするための物語だ。
短編ではありますが、これにて御伽旅装編は終了となります!
お付き合いいただきありがとうございました!m(__)m
今回の章は子どもながらの無邪気さ以外に、富、名声、力…全てを手に入れた少女リコリスの、今までの人生の振り返りと、新たな価値観の定着にフォーカスを当てたものとなります。
物語としての起伏は非常に少なく、今までとは違い退屈に思った読者様もいらっしゃるでしょう。
それも今後更に盛り上がる物語の、嵐の前の静けさと受け取っていただければ幸いです。
まだやっていないこと、会っていない人、行ったことの無い国。
それらに焦点を当て、百合チート持ちで異世界に転生したとか百合ハーの姫になるしかない!!は第一部を最終回とし、第二部へと移りたいと存じます。
ぐだぐだと、まったりと、刺激的に。
成長した百合の楽園の冒険にお付き合いいただければ幸いです。
更なる百合を願って、今後書きとさせていただきます。
ではまた次回の更新でお会いしましょう!
ありがとうございました!!m(__)m