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151.子どもは疲れたら寝る

「わー!」

「キレー!」


 青空と青い海に囲まれた国。

 茂る草木と鮮やかな花々。

 弾む雲の大地。

 甘く香しいお菓子の家。

 かくも幻想的な光景がこの世にあるのかと、私たちは圧倒された。


「こんにちは!ようこそドリーミアへ!」

「ようこそ!楽しんでいってくださいね!」


 妖精さんたちの歓迎がまた嬉しい。

 よく考えたら、こうやって妖精族を見たのは初めてだな。


「お姉、精霊と妖精って違うの?」

「私もよく知らないんだよね」

「ぜーんぜん違うよ」


 と、トトが頭の上に止まった。


「精霊は魔力(マナ)の集合体。見える人が少ないってだけで、結構その辺に普通にいるものなの」

「トトみたいに会話出来るような上位精霊は稀だけどね」


 そうドロシーが付け加える。


「精霊は性質的には生命に数えられないけど、妖精はちゃんとした種族なんだよ」

「ただ他種族のような交配はいっさい行わず、花から産まれる一代の完結種族だったはずですが」

「へぇ。花からねぇ」


 エモモちゃんみたく頭に付けてる花が産まれてきた花ってことなのかな。

 この国も自然がいっぱいだもんなぁ。


「ん?一代で完結する種族ってことは、親とか姉妹みたいな血縁も無いってこと?」

「そういうことになります」

「そしたら誰が名前付けてるの?」

「妖精の女王。ドリーミアを統べるお方です」


 妖精の女王様か。

 めちゃくちゃ興味あるけど、今はこんなだし。

 仕方ないしばらくは大人しくしてよう。

 可能な限り。

  

「リー、リー、すごいねお家が全部お菓子だよー。食べてもいいのかなー?」

「いや待ってリルム。さすがにそれは」

「大丈夫ですよ。お腹いっぱい食べてください」


 見送りのエモモちゃんは笑ってそう言った。


「ドリーミアの家は全てお菓子。甘くて幸せな気持ちになる魔法のお菓子です。食べてもすぐに元通りになりますし、どれだけ食べても虫歯にはなりません」

「わーい」

「リルム、オイラも食べるぞー!」


 説明を聞き終わる前に突撃したリルムとプラン。

 あの二人の食欲だとこの辺全部更地にしちゃうんじゃ…と、そんな懸念は杞憂に終わった。


「あれー?お腹いっぱいになっちゃったー?」

「オイラもいつもより食べられないぞ。こんなにおいしいのに」

「身体が子どもになってるせいかな」


 いつもの感覚だけが残ってるのが逆に変な感じみたいで、二人は不思議そうに丸くなったお腹を押さえた。


「全部が子どもサイズってわけね」

「そうみたいだねリコちゃ……っああもう!なんで私だけ精神が!」

「観念したらいいじゃない。べつに誰も困らないんだし」

「アルティ姉のそういう感じ珍しくて可愛いよ!」

「私たちにも敬語じゃない喋り方してほしいです!」

「ほーら、可愛い妹たちのおねだりだぞ?」


 ニヤニヤしてやると、アルティは苦虫を噛み潰したように顔を顰めた後、観念したように肩を落とした。


「あんまり虐めないでよ…マリア、ジャンヌ」

「「可愛い〜〜〜〜♡」」


 うんうん、私の嫁は昔から可愛かった。

 強いて言うならもう少しテンション高めでバカっぽかったけど。


「誰がバカっぽいの!!」

「ヤベ、つい声が」

「犬も食わないやつはその辺にしてさ、時間もったいないしとりま遊ぶべ。あたしさっきからワクワク止まらんのだが」

「モナもー♡はやく行こー♡」

「はいはい。ってもどこから回ればいいのか」

「ちゃー。っしゃいドリーミアへー」


 なんだかいやに気怠げな妖精が現れた。

 黄色いマリーゴールドを頭に付けた妖精はあくびを一つ、迷う私たちの前で浮かんだ。


「初めてのお客さんな感じですかー?」

「あ、はい」

「ではではドリーミアの名キャスト、わたしダルルがご説明させていたーきやーす」


 エモモちゃんとは打って変わってやる気が無い。

 可愛いから許すけど。


「ドリーミアは女王様がお住まいの城がある中央区(セントラル)を基点に、四つの区画が虹の橋で繋がってます。外からのお客さんがゆったりと生活出来る居住区(イーストサイド)に、たくさんの動物と触れ合える自然区(ウエストサイド)。おいしいご飯が食べ放題の食事区(サウスサイド)。そしてドリーミアが誇る、一番人気の遊園区(ノースサイド)。好きなところで好きなだけ、思い思いの時間を過ごしてくだ、ふあぁ…。あ、ドリーミアは広いのでー移動にはこの子をどうぞー」


 ダルルちゃんが手招きすると、一頭のペガサスがかぼちゃの馬車を牽いてやってきた。


「可愛い子やね」

「ほんと。まるでシンデレラになった気分だ」


 ペガサスは鼻先を私の頰に当ててきた。

 人懐っこくていい子みたい。

 車両は一両だけど、子どもサイズの私たちは全員そのまま乗れる大きさで乗り心地も悪くない。


「それではごゆくりー。ふあぁ…すやすや」

「ありがとねダルルちゃん」

「あのやる気の無さ、ボクに負けず劣らずだな」


 シロンは何と張り合ってんだか。


「さてと、とりあえず飛んで一周してみるか」

「そうね」

「んしょ、と。ペガサスさんよろしくね」


 ペガサスはヒヒンと高らかに鳴いて、蹄で雄々しく雲の地面を蹴った。


「おー!」

「は、速い、ですね」

「ね!ラジアータ号で飛ぶことは違った爽快さある!」


 そんで馬車の外に見えるドリーミアが誇る幻想世界。

 居住区(イーストサイド)では妖精や他のお客さんたちが楽しそうに遊んでる。

 自然区(ウエストサイド)には動物だけじゃなく、ドラゴンやペガサス、他にもたくさんの魔物たちがいる。

 でも危険は無いみたいで、みんな穏やかな顔をしてる。

 とびきりいい匂いがする食事区(サウスサイド)の上を通って遊園区(ノースサイド)へ。

 活気めいた巨大なレジャーランドが、そぞろに私たちの気を惹いた。 


「すっげー!遊園地だ!」

「ママ!アリスあそこ!あそこいってみたい!」

「私も行きたい!なんかすっっっごい楽しそう!」

「いいですよね姉さん!」

「ニシシ。うん、いいよ。ペガサスさん、あそこに降りてもらえるかな」


 ペガサスは翼をはためかせて遊園区(ノースサイド)へと降下した。

 



 昨今の――――こっちに転生してから二十年近いからこの言い方が正しいのかどうかはともかく――――テーマパークとは違う遊園地らしい遊園地。

 ジェットコースターに観覧車、メリーゴーラウンド。

 キャラクターやキャストさんと触れ合うことより、アトラクションを楽しむことを目的としたこの場所には、ある種のレトロささえ漂っているように感じた。

 けれどここにある明るい雰囲気はセピア色とは程遠い。

 なんせ、


「ほわぁ〜!」


 私だけじゃない。

 みんながこぞって初めてのそれに目をキラキラさせてるんだから。

 大人なシャーリーにシキ、めんどくさがりのシロンでさえ、今か今かとウズウズしてる。

 私としてはなんで遊園地が?って疑問が浮かんじゃうんだけど。


「リコちゃん」

「ほぇ?」

「行こ!」


 可愛い子たちと遊園地!

 楽しまなきゃ損だろ!


「よーし遊ぶぞー!」

「おー!」




 身長制限無しのジェットコースター。

 スキルに守られてないドキドキも相まって、急降下に一回転にスリル満点。


「きゃー!」

「ふにゃー!」


 両側からしがみついてくるエヴァとユウカに興奮を隠しきれないのはさておき、ジェットコースターってこんなに楽しかったかな。

 振り子のように揺れる海賊船の豪快さ、フリーフォールもたまらなくエキサイティングだ。


「リコリスちゃーんモナこわーい♡」

「大丈夫だよ私が手を繋いであげるぁぁぁぁ!」


 ダイレクトに重力を感じるのって怖えぇ。




 メリーゴーラウンドは一転して落ち着いた楽しさ。

 音楽に合わせて回る白馬に跨がってるだけのシンプルさが、妙に子ども心に刺さる。


「おうまさん、たのしーね!」

「気に入った?」

「うん!もういっかいのるー!」


 アリスはえらくお気に入りの様子。

 ドロシーもまた馬車に乗ってご満悦だ。


「これはいいわね。揺り籠に揺られてるみたいで」

「似合ってますよドロシーさん」

「あんたもねシャーリー」


 普段見上げているシャーリーと視線が同じ高さなのがおもしろいらしい。

 ドロシーはクスクスと上機嫌に笑った。

 コーヒーカップでグルグルと、空中ブランコでまたグルグルと。

 遊園地ってどこまでも子どものための場所なんだなってのがよくわかる。




「クフフフフ、なんやのこれ」

「っはwシッキーもテルニャもめっちゃブスーw」

「クハハ、そなたも相当じゃぞルウリ」


 シキとルウリ、師匠(せんせい)はミラーハウスがツボにはまったらしい。

 縦に伸びたり横に広がったりする鏡写しの自分を見て可笑しそうにしてた。

 こういうトリックでも笑ってしまうあたり、私たちも精神が子どもになってるのかな。


「んーこっちでござるかな?」

「こっちでございますよ」

「違う。こっち」

「迷路難しいー」


 単純な迷路でさえも楽しい。

 ことお化け屋敷に関しては、本物のゴーストを起用してることもあって、ハッキリ言って漏らしそうになった。


「わ゛ーーーー!!」

「いやーリコちゃーーーー!!」

「ぐぁぁぁ骨が軋むぅ!!そういやこいつ昔からフィジカル強かったわ!!」


 膀胱と同時に私の背骨も悲鳴を上げた。




 ひとしきり遊んだ後は園内のお店でお菓子とジュース。

 それから観覧車でゆったりと。

 体力まで子どもで、ゆっくり変わる景色に眠気を誘われる。


「めーっちゃ遊んだなぁ」

「遊び疲れてクタクタです」

「モナも〜」


 マリアとジャンヌ、アリスなんか観覧車に乗るーなんてはしゃいでたのに、乗ってすぐ寝息を立てるんだもんな。


「こんなに遊んだのは初めてかもしれません」

「そやねぇ。はー楽しかった」

「楽しかったね」

「アルティもすっかり喋り方に馴れたわね」

「でも不思議」


 と、ルウリが膝の上に頬杖をついた。

 たぶんその疑問は私が抱いてるのと同じことだ。


「遊園地は楽しかったけど、あまりにもあたしたちがいた世界のやつと同じなんだよね」

「それな。ところどころ魔法を使ってたりはしてるけど、遊園地の概要はまんまだ」

「それって、どういうこと?」

「さぁ」

「さぁ、って」

「邪推は無駄っていうか、それより眠すぎて…くぁぁ、ダメだ頭回んねぇ」

「不思議といえばこの空もじゃな。随分遊んだと思うがまるで赤らんでおらぬ。そもそもこっちに来るときは夜だったはずじゃし」

「ふぁ、この眠気は遊び疲れで、外の時間とは関係ないんやろね。三日間の滞在期間はこの国での時間かな。時間軸を操作出来る程の異界の作り手。肉体の幼児化って概念を強制することも含めて、妖精の女王様はとんでもない人みたいやね」

「あー、うん…そだね。そんな感じで…」

「お姉様、眠たい?」

「体力使い果たして眠くなるとか、久しぶりで…なんか堪えられ…くかー」

「あら、寝てもた」

「仕方あるまい…(わらわ)たちとてこの眠気には抗えぬ…」

「そやね、ウチも…すぅすぅ」


 子どもの体温に囲まれたのと観覧車の微かな揺れが決め手になって、私たちは全員もれなく観覧車の中で意識を失った。

 その刹那。

 

「いい夢を。わたしの可愛い坊やたち」


 史上最大にバブみを感じた。気がした。

 いつもご愛読いただきありがとうございますm(__)m

 御伽旅装編はお楽しみいただけてますでしょうか。


 今回も前章同様短編の構成ではいますが、お時間が許す限りどうかお付き合いください!


 高評価、ブックマーク、感想、レビューにて支持していただけると大変嬉しいです!m(__)m



 おまけイラストにロリ化したルウリちゃんをどうぞ


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 最新話まで追いつきました! 個人的にはリエラとサリーナがどうなるかがとても気になっております。 これからも応援しています!
[良い点] ああ ここが天国か....いい夢が見れそうだ ほんと邪な気持ちとか全然無く 子どもは無邪気で可愛いと思う 忘れ去られた子どもの時の記憶が蘇る 脳にダイレクトアタック 妖精の女王様 でかさそ…
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