幕間:百合は時代を越えて
「この度お姉様に拾われた、シキ=リツカ言います。よろしゅうね、こーんこん」
「こーんこん!マリアだよ!」
「ジャンヌです!よろしくですシキ姉さん!こーんこん!」
妹たちの脅威の懐き具合。
またどこの女を連れ帰ってきたのかと思えば。
なんでリコはこう、大物ばかりを引っ掛けるのか。
「シキちゃんだ〜♡久しぶり〜♡」
「久しぶりやねモナちゃん。随分キレイになったわ」
「やーん嬉しい〜♡シキちゃんもキレイでエッチだよ〜♡」
モナと軽いスキンシップを終えて、シキが私へと近付いてきた。
「お姉様のお嫁さんやね。シキです、今後ともよろしく。ふつつか者やけど、仲良うしてくれると嬉しいな」
「アルティです。仲良くも何も、リコが選んだ時点であなたの人柄の良さはわかっています。一筋縄ではいきませんよ、リコは」
「ようわかってるよ。でも、そういう強引なとこが好きなんよ。ここにいるみんな、お姉様の魅力に惹かれてるんやろうね」
「ええ、そのとおりです」
「いやぁ、ハッハッハ♡モテるってつれぇ〜♡最の高〜♡よーしみんな一列に並べハグしてチュッチュしてモミモミしてやっからよ〜♡」
「下劣で低俗なのも揺るがない事実ですが」
「姫って婚約破棄ものの主人公なら浮気しまくった挙げ句に真っ当に断罪されそう」
「マジかよ序章で話終わっちゃうじゃん」
「安心してください。断罪されるときは私の手で裁きますから」
「何のどこに安心の要素あったの?!」
なんて笑い合った後、私たちはお互いの近況について報告し合った。
まずはリーテュエル組。
「転移門は恙無く設置完了。これで無事ドラグーン王国、サヴァーラニア獣帝国、聖王国リーテュエルの三国が繋がったわけだ」
「おっおめでとう、ございます…」
「本当に国同士を纏めてしまったんですね」
「輸入輸出は楽になるけど、その分税関とか設置して入国審査は厳しくしないとって感じだな。他にも色々ざっくりと概要だけは挙げといた。細かい擦り合わせはアドにアンドレアさん、ジェフさん、それに各国のギルド代表たちを交えてになるから、本格的に稼働するのは早くても夏頃だろうな」
ちゃんと外交をやってきた辺りがリコの偉いところ。
遊び呆けてるだけじゃないんですよね。
「なによそのやれば出来るんですよリコは、みたいな顔」
「正妻の余裕ムカつくわね」
「お気になさらず」
「あ、そうだ。クロエからアルティに伝言預かってたの。聞く?」
「別にいいです。どうせ碌なことを言わないんですから」
その他、リーテュエルで起きた事件についても聞いた。
規模が大きすぎて、どこぞの物語から引用してきたと言う方が信用出来る。
「ほぇ〜シッキーすげー。呪術ってパねぇのね」
「嫌やわぁ恥ずかしい」
「それでお姉たちみんな強くなってる感じしたんだ」
「つよつよです」
テルナを始め、シャーリー、エヴァ、ユウカがアンリミテッドスキルへの覚醒を果たした。
それだけの激闘だったということなのだけど、私は一人頬を膨らました。
「むぅ」
「ア、アルティちゃん…?」
「どうしたの〜?」
「べつに。アンリミテッドスキルはリコと私だけのお揃いだったのに、とか思ってませんから」
「なんそれ姫めっかわかよしんど。尊みー手術受けなきゃ」
「ドロシー、薬をもらえるかの。口から砂糖が出ないようにする薬じゃ」
「私の分もお願い出来ますか?」
「アタシも欲しいから爆速で作るわ」
みんなしてバカにしてくるの腹が立ちますね…
「アルティ」
「リコ…」
「ニッッッコォォォ」
「その生暖かい笑顔本当にウザいんですけど!!!」
多くを語らないのがまたウザいです!!!
閑話休題。
その事件がきっかけにせよ、人類至上主義に一石を投じることになったのはさすがに驚いた。
国柄に変化を齎してしまうリコのカリスマとも言うべき影響力に、今さらながら感服させられる。
「あんたならこのまま世界統一でもしちゃいそう」
「ウッヘッヘ、世界の王ってね。全女の子に愛されるのはたまんねぇなぁ」
「これだけ美女美少女揃いでも満足せんの?」
「こういう奴じゃよ。リコリスは」
「私の愛は拡がり続ける宇宙のように無限大だぜ♡んで、それはそれとして他の国とも転移門で繋げたいなぁとは思ってんの」
「他の国…アイナモアナやディガーディアー、ロストアイ、テレサクロームにオースグラードもですか?」
「あと、まだ私たちが行ったことない国もな」
もしそうなれば世界統一とまでは行かずとも、大陸統一は果たすことになる。
緋色の花園内の経営権は別にしても、管理権をリコが独占している以上、それによって発生する経済的利益は計り知れない。
尤もリコにとってはそちらの利益よりも、各国から訪れるであろう人的利益……つまり女性たちとの出逢いの方を重要視しているのだろうけど。
「つくづく大した人ですよ。あなたは」
「ニシシ、だろ?」
計り知れず度し難い。
それでこそあなたです。
まあ、計り知れずなのはリコだけではないようですが。
「んで、居残り組は何かあった?」
「はいはーい!お姉お姉、聞いて聞いて!」
「重大発表です!」
マリアとジャンヌはニヤニヤといたずらっぽく微笑み合って、ポケットからギルドカードを取り出して見せた。
「じゃーん!」
「私たち二人、鳳凰級冒険者になりましたー!」
「うええええっ?!!」
「え、本当にスゴいじゃない。最近帰りが遅いのは依頼に行ってたからなのね」
「フフン!」
「どやぁです!」
二人のランクがたしか、妖精級?
そこから鳳凰級だから…四階級?!
それをこの一月の間に上げたんですか?!
「朝から出掛けて遠くまで走ったりしたもんねー!」
「ねー!」
「遠くって、どのくらい?」
「ドラゴンポートとか、ユースとか」
「王国の端っこじゃねぇか」
「馬車でも二、三週間かかる道のりを一日で往復してたんですかこの子たち」
「楽しかったよ。ドラゴンとか倒したし」
「お勉強も頑張ったもんね」
「てゃもたそも偉いがすぎる〜」
「それな」
後にギルドマスタージェフ=ランドルフ氏から聞いた話。
この月の王都内外のギルドは目を見張る忙しさだったと彼は言う。
掲示板からは烈火や波濤の如く大小様々な依頼が、国内からは目に見える勢いで魔物が消え、他の冒険者たちを困窮させたと。
楽しそうに死地に赴き、笑顔で帰ってくる二人の獣は、それぞれ"赫灼の爪"と"蒼海の牙"の名を界隈に轟かせたらしいことも。
才能と努力を両立させた妹…この子たちの行く末はいったい?
「モナはね〜ルウリちゃんに手伝ってもらいながらブランド立ち上げたよ♡その名もオルタナティブ♡」
「化粧品、香水、美容グッズとかをメインにしたやつね」
「おーおめでとー」
人を魅了することに特化した悪魔が監修した美容品とは、世の女性方が放っておかないだろう。
「けどなんでオルタナティブ?モナから一番遠い言葉じゃない?」
「裏表無いしね」
「エヘヘ〜♡」
モナが意味深に笑うと、玄関の呼び鈴が鳴った。
誰が来たのかと出迎えてみると、それはそれは際どい格好の悪魔が数人。
「こんにちは〜♡モナ様いらっしゃいますか〜?♡」
「私たちモナ様の噂を聞いて働きに来たんですけど〜♡」
「働きに?」
「はいっ♡」
かくかくしかじか。
「モナぁーーーーーーーー!!!」
「おわっ?!どしたアルティ?!」
「どうしたもこうしたも!!っと、その前に…マリア、ジャンヌ、ちょっと向こうに行ってなさい」
「えー?お姉とお喋りしたいよ〜」
「お喋りしたいです〜」
「あとでいっぱい撫で撫でしてあげますから」
「ちぇっ、まーた仲間はずれだ。べーっだ、アルティ姉のバーカ」
「べーっ」
日に日に生意気に…
これも成長と喜ぶべきかどうか…
いや、それよりまずは。
「モナ!!あなた何をしたんですか!!」
「えー?♡モナちゃんと働いてるんだよぉ?♡」
「眷属とまぐわってるのを撮影した映像を記憶させた魔石を販売するのが労働ですか!!!」
「何それ詳しく!!!てくてぃー♡なビデオ的なこと?!!百個買うちょうだーい!!!」
「黙ってなさい色ボケ!!!」
「ひゃい色ボケでしゅ!!!」
「あなたは本当、もっと節度を持ちなさい節度を!!!」
「アル、アルティちゃん…あんまり大声、出すと…赤ちゃんに、ね?障る、から…」
「嫁、一応あたしが監修してるから大丈夫だって。とーぜん十八禁だしモザイク修正も入ってる。ヴィルちゃんにも認可もらってるから、非合法ってわけじゃねーのよ」
「それにしても…」
憤る私を、リコはコホンと咳払いをして宥めた。
「マジメな話、仕事に貴賤無しだよアルティ。前の世界でもそういう仕事は一般的には嫌厭されがちだったかもだけど、突き詰めれば自分の"美"を売るってことだからさ。仕事に誇りを持ってる人は当然いたよ」
「アングラなジャンルもあったけどね。その辺はモナモナも倫理は守ってるから安心して。相手にも強要はしてないし、出演料も払ってるから。向こうもエロいことしたいのとお金欲しいのでWIN-WINって感じ」
「うう…」
いまいち腑に落ちないところはありますが…ここでごねても、仕方ないんですよね…
あのモナが働こうとしているだけマシという考えもありますし、趣味と実益と思えば…
二面性とはよく言ったものです。
「子どもたちに悪い影響を及ぼさないなら…」
「うんっ♡ありがとうアルティちゃん♡」
「よしっ話はまとまったな。モナ私もそれ観たい!!眷属って言っても素人だよね?!素人モノってことだよね?!どんな感じ?!やっぱり初めてはいつとか訊くの?!服はゆっくり脱がしていく感じ?!てか私監督したいんだけど!!ナイスですね〜ってしたい!!何なら女優もするよ!!ねぇ!!ねぇってば!!」
「【実録】嫁の妊娠中に他の女に手出してみたじゃん」
「人間のクズめ」
「しょうがねーだろエリートなスケベなんだからよぉ!!」
「なんやおもしろそうやね。ウチもやってみよかな」
「はいはい!!私わたし!!シキ、私とセッ――――――――」
「あなた本当いい加減にしないと親権あげませんからね?!!!」
「はひぃ親権ほちぃです!!!」
何と言えばいいのか…
この騒がしさあっての百合の楽園、ってことですよね…
その日はシキの歓迎会に、マリアとジャンヌの昇級祝いに、オルタナティブの上々の業績に、私の臨時アルバイトのお疲れさま会にと久しぶりに百合の楽園全員で騒いだ。
おでん、なる鍋物をつつきながら。
「餅巾着おいしー。リルムみたいにたぷたぷ〜」
「ボクははんぺんが好きだな」
「お出汁を吸った玉子こそ至高なのでございます」
「拙者はやはり牛すじでござるな」
「こんにゃく、プルプルしてておいしい」
「大根味染み染みでジュースみたい!」
「オイラおでんの汁をご飯にかけて食べたいぞ!」
食に没頭する者がいれば、
「くぁ〜おでんにはやっぱ熱燗なんだよなぁ」
「ワインもいけるわよ」
「ビールもなかなか」
「いやいやそれもうまいよ?けど熱燗をおでんの出汁で割って……くーっ♡こんな飲み方がワインやビールに出来ますかって♡ったく、たまんねーなぁ〜♡」
お酒に合わせる者もいる。
飲まなくても平気ではあるけれど、目の前でおいしそうに飲まれるとさすがに喉がうずく。
「これは拷問ですね」
「ノンアルのビールとか作っときゃよかった」
「あと数ヶ月は我慢しなきゃね」
「秋には出産ですか。色々と用意しなければいけませんね」
「お、男の子、ですかね。女の子…ですかね…」
「リコリス、男の子でも粗末に扱っちゃダメよ?」
「当たり前すぎ。私は人でなしじゃないからね。てか、自分の血を分けた子どもとその辺歩いてる小汚いおっさんが同じ生き物なわけなくない?」
「人でなしの発言じゃろそれ」
「ウチが占ったげよっか。ウチの占星術は当たるよ」
「いえ、やめておきます。男の子にせよ女の子にせよ愛する自信があるので」
「いいわねぇ。アタシたちが孕むのはいつになるのかしら。ね、リコリス」
ドロシーに急にそんなことを言われ、リコは口に含んでいた熱燗で盛大にむせた。
「ゲッホゴホッ!!っあ変なとこ入った!何言い出してんだよもう!」
「姫との子どもかぁ。どんな子が産まれるんだろ」
「リコリスみたいな女好きに育ったりして」
「案外妾たちの色の方が強く出るやもしれぬぞ」
「フフッ、みんなそれぞれ我が強くなりそうですね」
「それ、な、なんか、簡単に想像…出来ます…」
今から子どもの将来を考えるのは大概親バカだ。
けど、それが楽しいのだから仕方ない。
そんな中リコは、
「何も変わんねーよ」
と頭を掻いて立ち上がった。
「子どもが産まれて、その子がまた子どもを授かって、私たちがおばあちゃんになっても。私の愛と百合の楽園の友情は永遠だ」
そして、ニヤリと私の肩に腕を回した。
「だから今を楽しもうぜ!子々孫々に語り継がれて、羨ましがられるくらい全力で!現在も未来もその先も、世界は私たちの楽園だ!!」
「おー!」
「姫しか勝たーん!よいしょー!」
「リコリスちゃん愛してるー♡」
「私の方がもっと愛してる!!大好きだよみんなー!!♡」
大変ですよ、リコの愛を受け止めるのは。
そこに私の愛も加わるとなると、いったいどうなってしまうのでしょうね。
あなたに会えるのを楽しみにしています。
まだ見ぬお腹の中の子へ。
――――――――
「…………」
「ねぇ。ねぇってば」
「…………」
「ねぇってばー!」
「わっ?!な、なに?!どうしたの?!」
「どうしたのじゃないよ。久しぶりに娘が帰ってきたってのに」
「アハハ、ゴメンゴメン。今回の旅はどうだった?」
「うん、まあまあ楽しめたかな。またすぐに発つつもりだけど」
「あなたの落ち着きの無さはお母さん譲りだね」
「そうかな?あの人はもっと破天荒なイメージだけど」
「好き勝手に生きて周りを巻き込むところなんかそっくり。あなたはきっとステキな人生を送ると思う」
「ニシシ、だといいな」
「私が保証してあげる。ジークリット、私の可愛い娘」
「ん♡」
見ようによっては最終回。
ここで終わるのも一つの形。
けど終わりません!!!
だってまだ書きたい百合があるから!!!
変わらず応援していただけると嬉しいです!!!
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これからもよろしくお願いいたします!!!m(__)m