144.先生初陣
新章銀氷学舎編、スタートです!
またゆっくりとお付き合いいただければ幸いです!
「ねぇねぇ、メイ!聞いた?今日新しい先生が来るんだって!」
「新しい先生?」
「フン、どうせ間に合わせだろ?その辺の木っ端教師なんか呼んだところで、僕たちエリートを教えられるもんか」
「またラクス君ってばそんな憎まれ口。でもどんな人かなぁ。優しい先生だったらいいな。ね、ファティマ」
「…………」
教室の扉が開き、白い髭を貯えた老人が入ってきた。
その後ろには長い銀髪を一つに束ねた女性。
生徒たちは揃って、彼女の美貌に息を呑んだ。
「静粛に。えー皆も知ってのとおり、魔法学を担当しておったガナルダル先生が先日退職されたわけじゃが、その後任として臨時ながら素晴らしい先生をお迎えした。紹介しよう」
「皆さんはじめまして。アルティ=ラプラスハート=クローバーと申します。教職の経験は無く、また短い間ではありますが、皆さんと学びを共に出来ることを嬉しく思います。どうぞよろしくお願いいたします」
――――――――
ナインブレイド第一学園。
格式と伝統という言葉を使うには、学園としての歴史は浅いもの、多くの有名人を排出したことで知られるこの場所で、私は教鞭を振るうことになる。
担当するのは、高等部進学を一月後に控えた中等部三年生。
受け持ちは魔法学。
魔法の何たるかを始め、魔法系のスキルの所有者の才を伸ばすことを目的とした学問で、私も学生の時分に専攻していた。
と言っても卒業して一年も経っていないのだけど
そう、まだ一年も経っていない。
つまり、今学園にいる生徒は私の直近の後輩となるわけで。
「それでは教科書を開いて」
「はいはーい!アルちゃん先生!」
「ア、アルちゃん先生?」
「アルちゃん先生って、本物の銀の大賢者ですか?!」
「ゴホン…スーニャ=ヴェールズさん。授業と無関係な質問は控えるように。さて、今日は戦闘における無詠唱と完全詠唱の利便性と不便性について」
「在学中に不良全員をボコボコにしたシルバープリンセスですよね!」
「次そのあだ名で呼んだら脳髄氷漬けにしますよ!!」
私の黒歴史を余すこと無く知っている世代となる…
あれやこれや…うっ、思い出すだけで吐き気が…
「うう、う…」
結局最初の授業は質問責めでろくに教師らしいことが出来ませんでした…
若者のなんてエネルギッシュなこと…
よく考えたら、人にものを教えるというのは、マリアとジャンヌ相手にしか経験が無いんですよね私。
「やぁ、おつかれ」
突っ伏す机に紅茶が置かれる。
「案外大変だろう?教師というのも」
「安請け合いしなければよかったと後悔しているところです…」
「アッハッハ、そう言うなよ。君ほど適任は居ないんだからさ。それに君は恩師の頼みを無下にするほど冷徹な人間じゃないだろう?おっと、銀の大賢者には皮肉が効きすぎてるかな?」
「誰が誰の恩師なのかはともかくですけど。あなたも相変わらずですね、テル先輩」
「ハハハ、相変わらずおもしろくて美しく馴染みがあるかい?そんなに褒めないでくれよ」
テル=フィアー。
端正な顔立ちのこの女性は、何を隠そう私の二つ上の先輩。
受け持ちは高等部。
専門は武術だがこれでも魔法使いで、何の縁か初等部からずっと私を気にかけてくれていた変わり者。
一言で印象を表すなら、私が知る限り最もリコに近い人間という具合。
「王子先生〜レポート持ってきたよ」
「やぁナーチャ。今日も可愛いね。香水を変えたのかい?いい香りだね」
「わかる?ママが買ってくれたの。アナザーワールドの新作なんだよ」
「花…金木犀かな。可憐な君にピッタリだ。思わずうっとりしてしまうよ。どうだい?今夜食事でも」
「エヘヘ、また今度ねー。今日デートなんだー♡」
「ふぅ、フラレてしまったよ」
「生徒全員口説いてれば当然ですよ」
尤も、近いというだけだ。
容姿だけならどこぞの王子を思わせるほど美形で、また腕も立つ学園屈指の実力者。
加えて生粋の女好きと類似点が多いけれど、リコに比べると少々軽さが目立つ。
友だち付き合いする分には良いけれど、本命には至らないような。
生徒教員合わせて通算千人以上にフラレて、ついたあだ名が残念王子。
女癖が悪くてもクビになっていないのは、生徒からの信頼と人気が厚いこと、学園きっての名教師であることに他ならない。
なんせ学園卒業後、そのまま教員にスカウトされたくらいだから。
「君にフラレたのは…初等部の頃だったかな。いや懐かしいね。懐かしさを肴にどうかな、今夜」
「なんでそれで行けると思ったんですか。第一私は結婚しているので、他の人について行ったりしませんよ」
「フフッ、残念。しかしあの銀の大賢者が今では人の女か。教え子の成長は感慨深いよ。歳は取りたくないね」
「先輩に教えられたことなんて、オススメの食堂と静かに勉強出来る空き教室くらいなんですが。ほんと、先輩は昔から変わりませんね」
「いつもいつまでも美しいかい?」
この人が先輩だったから、リコのウザさにも耐性がついたんでしょうね。今思えば。
「まあ、教師を上手くやるコツは適度に肩の力を抜いて自由にやることさ。臨時とはいえ教師にはある程度の権限も与えられていることだしね」
「頼まれた以上はちゃんとやります。でないと」
『え?wえー?wアルティ仕事も出来ないのー?wマジお嬢様〜wだーから家で大人しくしてろって言ったじゃ〜んwリコリスさんが慰めたろか?wん〜?w』
「バカにされるのが目に見えてるので」
いつまでもうじうじしているのは性に合いません。
私に出来ないことなんて無いと証明してやりますよ。
と、意気込んだはいいものの。
「アルちゃん先生って彼氏いるんですか?」
「肌めっちゃキレー。どこの化粧品使ってるの?」
うぅ、変わらずパワフルな生徒たち。
私がたじろいでいると、一人の男子生徒がテーブルに手を落とした。
「いい加減にしろよみんな!先生が困ってる!これじゃ授業にならないじゃないか!」
彼はたしか、ラクス=ヴェールズ。
スーニャさんの双子の弟でしたね。
「そんなこと言ってラクスだってアルちゃん先生のこと気になってるくせに。ラクスは銀の大賢者の大ファンだもんね」
「なっ?!そ、そんなわけないだろ!僕は将来大賢者になるんだ!そのために貴重な時間を無駄にしたくないだけだよ!」
「大賢者に…」
「先生!どうすれば大賢者になれるんですか?」
「どうすれば、ですか?難しい質問ですね」
私の場合はリエラという王族の繋がりがあったことが一番なのですが、それを抜きにしたら才能という他無い。
けれどそれを直接言ってしまうのはあまりに酷。
そうなると、わかりやすく伝えるにはこれが一番手っ取り早い。
「では、グラウンドに出ましょうか。大賢者とは如何なるものか、皆さんの目で確かめてください」
ご愛読ありがとうございました。
銀氷学舎編、出だしは如何でしたか?
アルティが主人公の今までに無い試みですが、長くお付き合いいただければ幸いです!
短編の予定ではいますが、このまま日常回していくつもりです!
そして今回新たに登場したテル=フィアーは、応援企画にて読者様より応募いただいたキャラクターとなっております!
アルティたちとの絡みにもご期待ください!
高評価、ブックマーク、感想、レビューにて応援していただけるとありがたいです!m(__)m