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128.とっくに好きよ

 冬の晴れ間が空に差した翌日。

 

「くぁ、ぁ…」

「やけに眠そうねリコリス」

「まぁね」

「どーせ一人でシてたんでしょ」

「バッカおめー、いい女がいっぱいいるのにそんなコトするかよ」

「でも姫たまにシてるくない?」


 なんでそれをお前が知ってんだ!

 乙女の秘密ぞ!


「性欲モンスター」

「呼んでくれたらいつでも相手するのに〜♡」

「いや違うんだって。みんなのことは当然好きだけど、ソロの趣きっていうかさ。なんていうか…ほら、あれだよ。お腹すいてるとき、米を食べてもパンを食べてもお腹はいっぱいになるけど、米を食べたい気分とパンを食べたい気分は違うじゃん?そういうこと」

「性欲モンスター」

「逃れられない悪評」


 そんなに言うんだったら私が満足するまで相手してもらうからな貴様ら。


「ドロシー様たちは城に向かわれるのでしたね」

「ええ。あんたたちはもう行くの?」

「少しでも早くロストアイ皇国を再建するためです。またいつか」

「元気で」


 アウラたちは一礼して別れを告げた。

 彼女たちの旅路に幸多からんことを。


「んじゃ、私たちも」


 サヴァーラニアとの明るい未来を目指して、だ。




 昨日と同じく謁見の間に通された。

 だけど昨日の張り詰めた空気とは打って変わり、私たちを待っていたのは総出で胸に手を当て頭を下げる貴族たちだった。


「なんだこれ」

「昨日の戦闘を見て、貴殿らへの態度を改めたというわけだ。獣人は強き者にのみ従う。オリヴァンダー総統、相違無いな?」

「はっ!!親愛なる陛下、そして小さき勇者殿たちに!!捧げ、剣!!」


 おー軍隊っぽい。

 軍人さんたちは統率された動きで剣を掲げた。

 マリアとジャンヌはびっくりしてるけど、これで正式に私たちの立場が認められたことになる。

 いやぁ、よかったよかった。

 これで一安心。


「これで迷宮(ダンジョン)の件も滞り無く、かな。早速転移門(ゲート)の設置を」

「待てリコリス。その前にやるべきことがある」

「やるべきこと?…………私とレオナの婚約発表?」

「違う!!!それはまたいずれ…折を見て…。コホン!!百合の楽園(リリーレガリア)、マリア、ジャンヌ、前へ」


 なんで?

 二人も何が何だかという具合で玉座の前で膝をついた。

 すると隣のフェイが書状を読み上げた。


百合の楽園(リリーレガリア)所属、マリア氏、ジャンヌ氏。先日の軍事演習の功績を称え、諸君らに獣帝金勲章を授与するものとするピョン」

「獣帝…?」

「金勲章…?」

「サヴァーラニアにおいて並外れた実力者であると評された者にのみ贈られる、栄誉ある称号ですニャー。そして叙勲に伴いマリア氏とジャンヌ氏に、それぞれ一代限りの伯爵位が叙爵されますニャー」

「「伯爵?!!」」


 二人は可愛くも間の抜けた声を上げた。

 いや、私もびっくりしてるよ?

 まさか昨日の件がこんなことになるとは。

 叙爵の方に関しては、勲章のオマケのような扱いみたいだけどね。

 二人も貴族の仲間入りかぁ。

 

「お姉…」

「姉さん…」

「なに不安そうな顔してんだ。胸張りな。正当な評価をされてるってことだよ」

「うむ。見事な戦いぶりであった。いい姉を持ったな」

「…はいっ!!」

「ありがとうございます!!」


 二人は深々と頭を下げた。

 私もついでに褒められたみたいでちょっと気分がいい。

 なんてニヤニヤしてると、横からドロシーとルウリが腕をつねってきた。


「アタシたちの」

「妹でもあるんだが?」

「わかってるって、もう」


 私たちみんなの自慢の妹だ。


「叙爵するにあたり家名が必要になる。希望はあるか?」

「家名?」

「それなら…」


 マリアとジャンヌは顔を見合わせてから一度頷いて言った。


「お姉と同じ!」

「ラプラスハートがいいです!」

「却下だ」

「「えええ?!!」」


 えええ?!!じゃないよ。

 そりゃそうだろって。

 家名は自分たちの名乗りなさいよ。


「私と一緒な名前になりたいなら、結婚するまで待たないとね」

「うぅ…。じゃあ結婚してね?」

「してくださいね?」

「ニシシ、おうっ」


 ……ん?

 なんか今サラッとプロポーズされたな?


「大人になるまで待ちなさいよ」

「姫超事案」

「モナそういうの好きだけどなぁ♡」

「わかってるって!!」


 こっちは常に欲望と戦ってんだぞ!




 熟考の末。

 二人はそれぞれ、マリア=リリーフレイム、ジャンヌ=アクアリリーと家名を決定した。

 二人の魔法と百合の楽園(リリーレガリア)から取ったらしい。

 可愛らしさがあるいい名前だ。

 二人の歳で叙爵したのはサヴァーラニア史上初めての出来事らしくて、それだけ二人の存在と力量が特異だってことの現れでもある。

 いやいや誇らしくて仕方ないね。


「まったくレオナってば、とんだサプライズをかましてくれたな」

「そう言わないでよ。これでも落とし所を探したんだから」

「落とし所?」

「総統も将軍も、みんな揃ってマリアちゃんとジャンヌちゃんの強さに心酔しちゃったのよ。彼女たちこそ神が遣わした御子に違いない!とか言って」

「なんだそれおもしろ。まあたしかに、二人の可愛さは神が遣わしたレベルだけど♡」

「叙勲と叙爵だけに留めるだけで頑張ったのよ?マリアちゃんは軍に将校として迎えるべきだとか、ジャンヌちゃんはサヴァーラニアの大賢者にすべきだとか。他国で冒険者をやらせているのは国の損失だとか何とか」

「評価してくれるのは姉として嬉しいけどね。二人はやらねぇよ。私の女だからね」


 城の前の広場に転移門(ゲート)を設置。

 その他細かい契約内容を書面に纏め、これにて公務は完了と。

 あとは今夜開かれるらしい祝賀パーティーを乗り切るだけだ。


「そういえば昨日の件はどうなったの?」

「迷惑は掛けない程度に、ってことで」

「そっか。……そしたら、ご褒美ちょうだい?私も頑張ったから」

「いいよ。甘めがいい?それとも激しめがいい?」

「選ばせるのいじわる……今はとにかく、食べられたい気分、かも」

「じゃあおねだり出来るよね。自分から」

「私、これでも獣帝なんだけど…。昨日おあずけした分、めちゃくちゃにして…?」

「喜んで」 


 ――――――――

 ――――

 ――


「お姉遅い〜。パーティー始まっちゃうよ〜」

「ゴメンゴメン」

「何してたんですか?」

「国際交流、的なアレ?」

「…………」

「なんだその目は貴様ら」


 やましいことはしてないもんねー。

 



 お酒とご馳走、音楽とダンスに彩られた綺羅びやかなパーティーは、ほんの二時間ほどで終了した。

 お世辞にも楽しいばっかりじゃなかったけど。

 男たちの挨拶の多いこと多いこと。

 恥をかかせてしまいますから、と何回ダンスを断ったか。

 

「公務って疲れるなぁ」

「今からそんなんでどうすんのよ。リーテュエルにも行かなきゃいけないってのに」

「だよなぁ。いっそのこと代理でも立てちゃおうかな。……でもうちでそういうこと頼めるのって、ドロシーかシャーリーくらいなんだよね」


 アルティは妊娠中だし。


「頼まれてもやらないわよ」

「えーちゃんとお返しするからぁ。身体で♡」

「クズ」

「ワハハ残念!私は自覚あるクズだ!」


 とは言うものの、自分で行く他無いことはわかってんだよね。

 って息をついたとき。


「で?その自覚あるクズさんは、昨日どこへ行ってたのか聞かせてくれるのかしら?」


 ふと、ドロシーは欄干に肘を預けた。


「…気付いてた?」

「あんたは気配が大きすぎるから。いなくなればすぐにわかるわ」


 精霊の力か。

 まいったねどうも。


「ま、言いたくないなら聞かないけど。大方マリアとジャンヌの親でも探しに行ったんでしょ」

「勘のいいことで。……二人には何も言わないでね」


 私は冷えた風が吹くバルコニーで、昨夜のことを語った。


「見つからなかったんだ。二人の家族」

「見つからなかったって…まさか」

「ううん。殺されたってわけじゃないみたい。そもそもそんな記録が無かったし、捕まってた人たちにも話を訊いたけど誰も知らなかったから」

「囚われてた奴隷は?」

「逃がした」

「そう」


 あっけらかんとするドロシーに、私は思わず目を丸くした。


「何か言われるかと思った」

「最後まで面倒を見ないなんて無責任ね、とか?言わないわよ。あんたが聖人じゃないことは、アタシたちが一番わかってるんだから。アタシがあんたでもきっと同じ選択をしたわ」

「……そっか」

「どうなったのかしらね、二人の家族」

「他の国に売られたのかも。何も手掛かりが無いんじゃな。さすがのリコリスさんもお手上げだ」

「そんなわかりきった嘘、アタシの前でつかないで」


 強まった語気に肩が震える。


「人探しくらい、あんたが本気を出せばなんてことないはずよ。そうしないのは、他でもないあんた自身が真実を知ることを恐れてるからなんじゃないの?あの子たちの親がただの貧困で二人を売ったんじゃなくて、要らない子だから捨てたんじゃないかって」


 何も言わない私の頭に、ドロシーはそっと手を置いた。


「バカね。あの子たちが強いことは、あんただって知ってるくせに」

「…それでも私は悲しませたくない」

「好きだから守る。でも、好きだから信じるってことも大切なんじゃない?」


 そんな当たり前に今になって気付くとか。

 ヤバい、ちょっと泣きそう。


「ありがとうドロシー」

「何よ今さら。アタシはずっと、バカなあんたを諌めてきたじゃない」

「ニシシ、そうだな。っし、やるぞ!」


 喝入れられたことだし。

 サヴァーラニア最後の夜、ちょっと本気出しちゃおうかな。


「頼んだよ【創造竜の魔法(ラプラス)】!」


 翳した手のひらから光が打ち上がり、空に光の波紋が広がった。

 

「無茶というか、やっぱりバカねあんたって。世界中に探査(サーチ)をかけて個人を見つけ出すなんて。何をどうしたらそんな発想にたどり着くのかしら」

「どうせバカなら、みんなのためのバカで在りたいんだよ。そんでもって、そんなバカを好きでいてくれると嬉しい」

「とっくに好きよ。これまでも、これからも」


 【創造竜の魔法(ラプラス)】は一瞬で世界を駆けた。

 そして――――――――

 改めて明記しますが、マリアとジャンヌは姉妹ではありません!

 同じ村で育ち売られた友だち同士です!

 そんな二人がリコリスたちと出逢い、成長して、今や貴族…

 感慨深くて泣きそうです…


 次回、いよいよ……




 二人の成長に心を打たれた方は、高評価、ブックマーク、感想、レビューにて思いの丈を綴っていただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エッチーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…
2024/01/02 23:50 退会済み
管理
[一言] リコリスちゃん、頑張ってね
[良い点]  さすが欠点が一部貧困しかない女。頼りになる。
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