126.刮目せよ、これが私の妹たちだ
「ど〜〜〜〜して血気盛んなのリコリスさんって……」
ってレオナが頭を抱えるけど、正直こうなることくらい想像は容易だったろ?
「大丈夫大丈夫。サクッとおっさんたちぶっ飛ばして終わるから」
「簡単に倒されたらそれはそれで軍の体面が…うあぁ、もう〜」
「大変ですなぁトップに立つってのは」
それはそれとして、ムカつくからちゃんとボコボコにするけどね!
相手男だから容赦しなくていいし!
「そんなわけで、頼んだよマリア、ジャンヌ」
「ほぇ?」
「私たち、ですか?」
「相手頑丈そうだし、たまには思いっきりやっていいよ」
「ほんと?!いいの?!」
「いいんですか?!」
「おーやっちゃえやっちゃえ。ただし殺しちゃダメだよ」
横でレオナはジト目してるけど、まあいいよね。
「あーあ、モナもやりたかったなぁ」
モナはずっと不満そうだけど、これも考えがあってのことだからね。
わかってくれたまえ。
「その分、ベッドの上で発散させてやるよ」
「やーんそっちの方が嬉しいっ♡やったぁ〜♡」
「ウッヘッヘ」
「脳内ピンクって例外なく単純で草」
「どっちのこと言ってる?」
「両方」
さてさて、それじゃぼちぼち移動しようかね。
と、やって来たのは軍の演習地。
すでに配置は済んでいる状況。
勝利条件は相手側の全滅及び降伏だけど、降伏する気は無いだろうから全滅一択だ。
「花婿さん花婿さん、私たちもやれるよ?」
「一撃」
「そりゃそうだろうけども」
君たち幻獣だし。
ただの軍隊なんか一瞬で壊滅させちゃうでしょうよ。
「今回に関しては、勝ち負けよりマリアとジャンヌのストレス発散っていうかさ」
「ストレス発散?」
「溜め込んでばっかも身体に悪いってこと。たまには思いっきり身体動かさないとね」
「ストレス発散に軍隊をあてがう辺りがあんたらしいわ」
「それほどでも〜」
「姫マジ呑気〜。ん?おおおお!姫、姫っ!!見て見てあれ!!」
ん?
向こうから土埃立てて何か…って、あれ。
「戦車じゃん。すごー。…………戦車?!!」
すっげーサヴァーラニアはあんな物も開発してんのか。
そういえば千夜一夜盗賊団の連中も飛空艇を持ってたっけ。
少しずつ世界の文明レベルが押し上がってる証拠ってことかな。
「型から見て第三世代主力戦車かな!ヤッバー!めっちゃアガる!診たい調べたい解体したーい!」
「対空魔導砲に魔導装甲を備えたサヴァーラニアの秘密兵器だ。あれまで出してくるとは、どうにも本気らしい」
「獣帝国パねぇ!レオちんレオちん、あれ欲しい!ちょうだい!くれ!」
「秘密兵器って言ったんだけど」
「第三世代ってね滑腔砲を装備したり、複合装甲を内包した溶接砲塔を採用してたりして、近代的なデザインが特徴の戦車でね!」
科学者が出てるなぁ、かわちかわち。
「わかったわかった。それよりルウリ、ちょっと頼みたいことあんだけど」
「んぁ?」
「ルウリにしか出来ない簡単なお仕事ってやつ♡」
――――――――
――――
――
「ジャンヌ」
「なぁに、マリア」
「お姉、言ってたよね。思いっきりやっていいって」
「うんっ。言ってた」
「いいんだよね。本気出しても」
「うん。本気でやろうっ。私たちの全力で」
二人の細胞が総毛立つ中、レオナが決闘の合図を出した。
「それではこれより、百獣帝軍と百合の楽園の決闘を開始する!どちらかが全滅、降伏した場合のみ敗北とし、敗者は勝者の提案を受け入れるものとする!尋常に、己が力を知らしめよ!始め――――――――!!」
掲げた銃が火を吹くのと同時、向こう陣営に構える戦車隊の砲身に光が収束した。
瞬間、およそ5キロメートルはある距離をレーザーさながらの砲撃が翔けた。
「大気中の魔力を吸収して撃ち出してるのね。属性も付与してるのかしら。すごい威力だわ」
第五階位の魔法に相当するくらい?
それをポンポンと誰でも撃てるようにするってのはとんでもない発明だ。
「あの子たちにはちょっとした火遊びくらいのものみたいだけど」
ニッシッシ、そりゃそうだろ。
さあ獣人の国よ刮目しろ。
これが私の妹たちだ。
――――――――
百獣帝軍。
従来的に肉体の強度の高い獣人族の中でも、特に戦闘に秀でた者たちを集め、過酷な鍛錬を重ねた武装集団。
獣帝がサヴァーラニアの象徴、二人の大賢者を智慧とするならば、彼らは武力そのものだ。
自らの力に絶対の自信を持つが故に、そしてレオナ=ゴールドフレアに絶対の忠誠を誓うが故に、彼女の懐に容易く潜り込むリコリスに対して猜疑と嫌悪の心を抱かずにはいられなかった。
「全弾命中!」
「フン、小娘がしゃしゃりおって。このまま進軍!あの愚か者共を踏み潰してしまえ!」
剣を翳して指揮を執るオリヴァンダー総統の頭に、敗北の意識など欠片も無い。
だからこそ、巻き上がった雪煙が晴れた光景に目を疑った。
「?!」
水の鉢。
コポッ…と泡を立てる青の盾が砲撃を防ぎ、二人を護っていた。
「あの攻撃を防いだのか…?!」
「あの子どもは、いったい…?!」
――――――――
あの日、クオンに負けてから。
私たちの中で何かが変わった。
力が有り余って仕方ないみたいな変な感覚。
何でも出来そう。
何処まででも行けそう。
身体中が叫んでる。
行け。走れ。駆け抜けろ。
「よーい、ドン!」
私たちの足はもう止まらない。
「来るぞ!構え――――」
「にゃあらっ!」
銃を構える軍人さんたちの間を走っただけで吹き飛んじゃった。
誰も追いついてこられない。
時間が止まっちゃったみたい。
「と、止めろ!!」
「速すぎる!!無理だ!!」
「ど、どこだ!!どこへ、ぐあっ!!」
すごいすごい。
リコリス姉みたいにパワフルに、シャーリー姉みたいにしなやかに身体が動く。
楽しい。楽しい楽しい楽しいっ。
本気の本気で。
熱く。燃やせ。
燃えろ。私っ。
「【獄炎魔法】!!」
赤と黒、それに金色が混じった炎が渦を巻いたら、雪が無くなって夏が来た。
「爆発・覇紅獣燦!!」
最高に調子いい。
今ならお姉たちにだって勝てそうって顔がニヤける。
最ッ高に楽しいっ。
魔法も剣も全部絶好調だ。
「救世赫刀流!!陽魔劉閃!!」
炎と熱、全部を焔にチャージすると、刀身が真っ赤に光る。
斬った戦車がバターみたいに融けて、地面がパカッて割れちゃった。
「私…今、最強だ!!」
まだまだ相手はいっぱいいる。
もっともっと、熱く、速く。
心が求めるままに。
――――――――
飛んでくる銃弾が、軍人さんたちの動きが、マリアの熱で蒸発する雪が。
全部見える。
次に何が起こるのか、何をすべきなのかが全部わかる。
頭の中がいろんなものでいっぱいなのに、びっくりするくらい視界が透明だ。
「なんで当たらない!!」
「未来でも見えてるってのか!!」
すごい。わかる。
私…今、アルティお姉ちゃんとエヴァお姉ちゃんと同じところにいる。
「【溟海魔法】!!海淵呑む豹牙!!」
お城なんて一飲みにしちゃうくらい大きな水の豹が辺りに襲いかかる。
戦車なんて一捻り。
豹の遠吠えが空を割った。
「にゃああああああ!!」
私は私の成長に興奮を抑えられなかった。
これが全力。
大賢者の領域。
お姉ちゃんたちが……姉さんたちが見てる景色。
「天破の浄罪!!」
第二階位の超魔法。
剣に、爪に、獣に。自在に形を変える激流が、兵隊さんたちを薙ぎ倒していく。
吠え、昂り、荒ぶって、溢れる魔力が作り出す海の中心で、私は総統さんと将軍さんを見つけた。
偉い人…倒しちゃってもいい人。
「ジャンヌ!」
「マリア!」
炎を身に纏ったマリアがイタズラっぽく笑う。
「やろう!!」
「うんッ!!」
つられて私も楽しくなった。
「ぐっ、来い小娘共!!」
「我ら百獣帝軍の爪牙!!貴様ら如きに劣りはせぬわ!!」
おじさんたちが強いのはわかります。
でも……
「救世赫刀流!!神威の絶刀、天輝!!」」
「深淵王の絶海剣!!」
私たちの方がもっと強いです。
――――――――
「ウッヘッヘ、さすが私の妹たち♡強かったよ〜カッコよかったよ〜♡お姉ちゃん惚れちゃったよ〜♡んちゅんちゅ〜♡あ、おまけにもひとつチュッチュ〜♡」
「エヘヘ〜。あのねあのね、すーっごい楽しかった!」
「私も!でも、もっと遊びたかったです」
「え?軍も地面も全壊させておいて?」
いやぁ、壮観壮観。
気持ちいい暴れっぷりだったね。
それでいて死者は出さないんだから、ちゃんと自分たちの力を制御出来てたってことだ。
妹たちの成長を感じますなぁ。
「こんなに短期間で魔法を進化させるほどの進歩を、ただの成長で括っていいのかしら」
ドロシーはそういうけど、やっぱり成長以外の何物でもないと私は思う。
【百合の王姫】によって魂が繋がり能力がそこあげされているとしても、強さの基盤は二人の才能、そして心によるものだから。
「あれだけ活躍すれば届くかな」
「何の話?決闘の間、ルウリに何かやらせてたみたいだけど」
「ニッシッシ、あとのお楽しみ♡よーし、んじゃ今日のところは一旦解散して、アウラたちと合流――――――――」
「リコリスさん…いや、リコリス」
「ほぇ?」
「決闘は決闘だ。是非は問わぬ。だが、それなりの責任は取ってもらえるということで構わぬな」
「…………ぽぇ〜?」
「ごまかすなぁ!!見ろこの被害を!!兵士たちの治療費及び装備の補填、補修費、全部纏めて請求して――――――――」
「瞬間移動」
シュンッ
「にっ、逃げるなぁ〜〜〜〜!!!」
いや、まあ…うん。
妹たちの可愛さに免じて?♡