125.ニャンニャン
かつてロストアイ皇国にて、些細なすれ違いを発端に意思を激突させた森羅騎士団。
現在は散り散りになったエルフの同胞を探すため、大陸を転々としているらしいことは知ってたけど。
「いやーまさかこんなところで再会するとはねぇ」
「壮健そうで何よりだリコリス」
「元気にしてましたか〜?マリア」
「うんっ!それにあれからもーっと強くなったんだから!もうクルーエルにも負けないよ!」
「クスクス、百年早いですよ」
隊長のアウラと、副隊長のクルーエル。
それにヘルガ、ティルフィ、ネイアも一緒だ。
「よぉお嬢ちゃん」
「ヘルガ!もう、子ども扱いやめてよ!」
「残念、おれたちからすればまだまだ子どもだ」
「むー!」
「ふあぁ…むにゃむにゃ…。あれぇ?他の皆さんは一緒じゃないんですかぁ?」
「あのウジウジ陰キャ、今度逢ったら虐めてあげようと思ったのに」
「今回は旅じゃなくて、ちょっと公務で来ててさ。それにその…ちょっとうちのが、ね。ヘヘ」
「?」
説明!
「アルティが妊娠?!!」
「すごいすごいおめでとうございます!」
「いやぁ、ウヘヘ」
「おいおい先を越されてるじゃねーか姫さん。そんなんで皇国を再建出来んのか?」
「最初を正妻に譲っただけよ。安心しなさい。妊娠なんて薬使えば一発よ」
「うん、その言い方だと愛もへったくれもねーからやめて?」
妊娠させろって言われればさせるから。
責任超取るから。
「ちょいちょい。姫の子ほしーのドロちぃだけじゃないから、そこんとこよろ」
「モナもリコリスちゃんの子産む〜♡」
「ひぃん両サイドからおっぱい下半身に効く!♡孕んじゃうぅ!♡」
「いやあんたが?」
「あなたたちもリコリスの?」
「よろですエルフさんたちっ。あたしルウリ、錬金術師でっす」
「モナだよ〜♡」
「錬金術師のルウリ…ディガーディアーが誇る稀代の才媛か!それにモナとは、まさか…魔王?!」
「魔王で〜す♡」
んー新鮮な反応。
やっぱ大物だわみんな。
「伴侶さんの人脈どうなってんだ?」
「私の魅力による賜物ってやつよ。ところでアウラたちはどうしてサヴァーラニアに?」
「あ、待って。先に獣帝との会談を済ませましょう。お互い積もる話もあるでしょうし」
「ん、そだね」
「かしこまりました。では、夜にこの先の酒場で落ち合いましょう」
約束を取り付けて別れ、私たちは城へと向かった。
それにしてもやっぱり、エルフのお姉さん方って美人〜♡
ドロシーと一緒に並べて順番に……くーーーーっ!♡
夢があるなぁ〜♡
「ぁだぁっ?!!なんで蹴ったの?!!」
「邪な気配を感じたのよ」
「小さい胸でも感じられる気配ってあるんだんひぃぃゴメンなしゃい!!!」
お尻つねらんといて!!
ルーニアの中心にドンと聳える城に到着した私たちは、門で手続きを済ませるなり、迅速にレオナの元へと通された。
「ドラグーン王国より、リコリス=ラプラスハート=クローバー侯爵!並びに百合の楽園御一行、ご登城!!」
偉い人の前に出るときは仰々しくてダメだ。
きちんと正装するのも息が詰まる。
そんな私の煩わしさを察したのか、レオナは一瞬表情を崩してウインクしてきた。
「よくぞ参られた。ラプラスハート卿」
「歓待に感謝の意を。陛下におかれましてもご機嫌麗しく」
「夫人は息災か?」
「はい。今は邸宅にて大事を取っております」
「無事に子が産まれることを祈っている。歓談はこのくらいに、まずは皆に貴殿を紹介しよう。我の隣へ」
集められた貴族たちがザワつく。
「このラプラスハート卿は、類稀なる才と一騎当千の強さ、そして絶世の美貌を兼ね備えた時代の寵児。この我が友と定めた人間であることをここに宣告する」
獣帝に謁見が叶うというのは、この国に置いては叙勲に匹敵する価値があるとされている。
更にその中でも隣に立つことを許されるということは、獣帝に肉薄する、または同等の力を持つということを指す、何物にも代え難い栄誉。
そして、私及び私たちのこの国での立ち位置が保証されるという証明でもある。
「もう態度を崩しても構わぬ。リコリスよ、楽にせよ」
「助かる〜。もう肩凝っちゃったよレオナ〜」
「にしても崩しすぎでは?」
私がレオナちゃんにぐで〜っと寄りかかるもんだから、謁見の間が騒然とした。
史上最年少にして史上最強の獣帝は、サヴァーラニアにおいて畏怖と敬意の象徴だ。
そんな相手に、如何に本人が認めたとはいえ一介の小娘が抱きつくんだから、そりゃあ驚くというか混乱するだろう。
「ラプラスハート卿…お戯れはそのくらいで、ピョン」
「じゃないと噛み殺すのですニャー」
側近も側近。
レオナに心酔してやまないこの二人。
約束の大賢者フェイと、飢餓の大賢者コルルシェールは、額に青筋を立て目からハイライトを消し、今にもキレ散らかしそうになっていた。
「おとと、失礼失礼。で、どうするレオナ?転移門の設置。場所が決まってるならすぐにでも取り掛かれるけど」
「いや、それなんだが。じつは少々問題があってな」
「問題?」
「うむ…。オリヴァンダー総統、シス将軍、前へ」
「はっ!!」
「はっ!!」
んぁ?軍服のチーターとヤマネコの獣人?
男にゃ興味ねぇなぁ。
「これらは我が百獣帝軍を束ねし者たち。総統ボルビア=オリヴァンダーと、将軍アブサロート=シス。貴殿らの意見を卿を前に改めて述べてみせよ」
「はっ!僭越ながら陛下、我々はそちらの客人を信用しかねます!」
なんだと?
「迷宮を個人で創造、所有出来るなど、一人で国家と軍を所有しているようなもの!聞けばドラグーン王国ではそれを商業と冒険者業に結び付けているとか!」
「資産的価値は莫大。にも関わらず、それを無償で我々に提供するなど、何か裏が有ってのことに決まっております」
「我の友人というだけでは不満か」
「陛下の御心による慈悲とはいえ、国そのものが関われば相応の用心は不可欠かと」
慈悲ってなんだ慈悲って。
そんなんじゃないんだが?
国同士仲良くしようって話なんだけど、あれ?理解してない感じ?
「ヒソヒソ…どうなってんのよレオナこれ」
「要するにリコリスさんの人となりが信用出来ないってことらしいの」
「私ってそんな怪しい?」
「不可思議ではある」
一年足らずで平民から侯爵に、更に鳳凰級に成り上がった冒険者という構図は、なるほどと鵜呑みにするには難しく、どうやら何らかの不正の類を疑われているらしかった。
バカじゃねーの猜疑心の塊かよって一蹴してやってもよかったけど、一応外交なんでね。
「じゃあどうすれば信用出来ると?」
「ここは獣人の国だ。貴様が如何に他所者であろうと、その意味は理解出来るであろう」
くっそやらしい顔してんなおっさん共。
ここで発言と行動の権利を得たいなら力を示せってことね。
めんっどくさ。
ここで【覇気】全開にして全員跪かせてやろーかな。
いや待てよ?それより…うん、いい相手になりそうだ。
「はぁ……じゃあ勝負しましょう。それで納得するんなら一番手っ取り早いし。いいよねレオナ?」
「うむ。他ならぬリコリスからの提案だがどうする?」
「無論、吝かではありません。このような小娘一人、叩き潰してみせましょうぞ」
「言うね総統さん。でも」
レオナちゃんから離れて総統さんの前に。
「個人で決闘なんておもしろくも何とも無いでしょ。どうせやるやら派手にいこうよ」
「なに?」
「自慢の軍隊総出でかかってこいって言ってんだよ」
腰に手を当てた軟派な態度で言うと、再度周囲がザワついた。
総統さんが鬼の気迫で私を圧倒しようとする。
「自分が何を言っているのか、わかっているのか?」
「わざわざ口に出さなきゃわかんないってこと?マジ無能」
「戦争でもしようというのか」
「戦争?ハッ、ならないよ。子猫のじゃれつきに本気になるライオンはいないでしょ」
「貴様ぁ!!!」
総統さんは怒りながら背中の大剣を抜いた。
でも残念。
「リコリスちゃんに手を出すのはダ〜メ♡」
気配無く背後に立ったモナがちょんと指を当てただけで、分厚い剣がクッキーみたいに砕けた。
「な…!!」
「ねえリコリスちゃん♡この人たちもモナが相手してもいーい?♡」
「ダーメ。魔王が本気出したらサヴァーラニアごと消滅しちゃうだろ」
「やーん♡ちゃんと手加減出来るよぉ〜♡」
いや、お前はしないよ?
そういう性質だもん。
楽しいことには全力出すタイプだもん。
「魔王…」
「まさか…」
「魔界の大悪魔か…」
「安心しなよ。モナには手を出させないから」
「え〜〜〜〜〜〜???つまんな〜い」
「言ったでしょ。子猫のじゃれつきに本気になるライオンはいないって」
いや、モナはライオンっていうか怪物か?
ま、それはそれとして。
「逃げるなよ?総統さんたち。そっちが望んだ勝負だ」
喉鳴らしてニャンニャンさせてやんよ。
男だからノミほどの興味も無いけど。
毎日暑いですね。
熱中症にはなっていませんか?
当作品を読んで夏を乗り切ってください!
僭越ながら応援していただければ幸いです!
高評価、ブックマーク、感想、レビューをお待ちしております!m(__)m