124.帝都ルーニア
翌日。
「復ッ活ッ!ラジアータ号ッ!復活ッッ!」
「してェ…運転してェ〜〜〜〜…」
「すればいいじゃない」
そういうことじゃないんだよなぁ。
「わかってねぇわかってねぇなぁドロシー」
「ほんそれ〜。ノリ悪〜」
「ちょいちょい出る元の世界ネタあんたたちしか通じないのほんとムカつくのよね」
「布教をお望みならするが?」
「まずはこちらから。ひぐらし○なく頃に」
「鬼かよ姫。じゃああたしメイドイ○アビス布教しよ」
「そっちのが鬼」
閑話休題。ようやくラジアータ号の修理が完成して、私たちはいよいよ帝都を目指すことに。
「帝都まではラジアータ号で丸二日ってとこかな。トバしてくぜー」
「強化はしてるけど無茶させないでよね姫。頼むから」
「むざむざ壊さないって。私の愛する女が作った、愛する子なんだからさ」
「言い回しきっしょ」
「なんだと!へぷっ!」
顔に雪玉飛んできた…
「エッへへ〜お姉に命中っ!」
「こんのイタズラっ子がへぷっ!!」
「やりましたー!」
「マリアもジャンヌも何してへぷっ!!!」
「モナも〜♡」
「何してんだ揃いも揃って戦争か受けて立つ!!オラオラオラオラぁ!!」
「「「きゃーーーー!!♡」」」
一夜が明け多少気持ちに整理がついたのか、マリアとジャンヌの様子が軟化した。
とても喜ばしいことだけど、昨日の一件については何も言えていない。
というより、伝えるべきかどうか迷ってる。
盗賊たちの頭の中を読んだモナ曰く、ヨッグ村を襲ったのはあの連中で間違いないらしい。
弱者は搾取され淘汰される。
この獣人の国において、それは日常茶飯事だ。
男性は嬲られ、女性は欲望の捌け口にされる。
それ以外の使い道は売るしかない。所謂奴隷堕ちだ。
ヨッグ村の村人も例外ではなくその犠牲にあった。
詰まるところが暫定的ではあるけれど、二人の両親は生きている可能性があるかもしれないということになる。
どちらとも言えない可能性に希望を持たせるのはあまりに酷だよね。
「っハァ、ハァ!!そ、そろそろゲホゲホ!行くぞ…おー…コヒュッ!」
「絶え絶えじゃねーか息」
「なんであんたってそんなバカなの?」
子ども相手にも本気で雪合戦しちゃうのが私!
「ま、姫はバカでしょーもなくてクズいから可愛いんだけど」
「ルッ、ルウリぃ〜♡じゃねえよ内野安打に見せかけたピッチャーライナーやめろ」
「それはさておき、てゃとたそにプレゼント〜」
「プレゼント?ルウリ姉、なになに?」
「なんですか?」
「フフン、じゃっじゃじゃーん♡サイドカー♡」
おーすげぇ。
こういうのパッと作れるのマジ錬金術師。
てかふつーにチートだな。
「二人はトレーラーの上に乗るの好きっしょ?これなら姫と一緒に運転してる気分になれるよ」
「カッコいい〜っ!ルウリ姉ありがとう!大好き!」
「ありがとうございますルウリお姉ちゃん!」
「ドヤぁ〜」
「なーに妹たちの点数稼いじゃいました顔してんだ腹立つ!いいし私は運転しながら妹たちと楽しくおしゃべりしちゃうもんねフンッ!」
「二十歳手前の小娘たちのマウントの取り合い醜っ」
「リコリスちゃんもルウリちゃんも可愛いよぉ〜♡」
達観しやがって長命種がよぉ。
「そんじゃま、気を取り直して出発するか。待ってろモフモフ美少女〜♡リコリスさんが下半身でよしよししてあげるからね〜♡ウシシシシ♡」
「姫ってばホント…キレイな伊○誠だな」
刺されないだけマシって言いてーの?
まっさらな雪原を行き、険しい山を越え。
道中、深い雪の中にしか咲かない幻の花を見つけたり、水晶の洞窟に封印された伝説の剣に導かれたりしたけど、それはまあ置いといて。
長い道のりを経て、私たちはついにサヴァーラニアの首都、帝都ルーニアに到着した。
「っはぁ〜でっけー街。さすがに都会だなぁ」
ていうか要塞か?
高い壁に砲門拵えて、万難を排してるって印象がまあ強い。
「キレイな街だね〜♡」
「国柄が築き上げたと思うと途端に微妙な気持ちになるけどね」
ドロシーの言い分はよくわかる。
レオナの国を悪く言いたくはないけど、このキレイさは礎になった確かな土壌の上に成り立っている。
路地裏には乞食や浮浪者の姿、道行く人が奴隷を鎖に繋いで連れ回しているのも珍しくない。
これが、これこそがサヴァーラニアだ。
「あんまり気分良くないね」
「実際そうだとしても口に出すな。ここは私たちの国じゃない」
「へーい」
「リコリスって…不意に事の本質を口にするというか、真剣になるわよね。普段が普段なくせに」
「え?もしかして下に見てる?」
まあ、そんな大それたことじゃなくてさ。
私たちは如何に来賓でも他所者なんだから、国柄に口を出すのは道理が通らないってだけなんだけどね。
「さあ行こう。レオナたちが待ってる」
「ねーねーリコリスちゃん♡その前に休憩しよ〜♡モナ疲れちゃった〜♡あ、あそこにいい感じの宿があるよ♡モナの奥の奥まで探検する?♡」
「探検すりゅンゴ〜〜〜〜♡ハッ!!」
キョロキョロ!
「ふぅ、いつもならここでアルティの拳が炸裂するから焦ったぜ…」
「悲しき習性」
「哀れ」
「なんでそんな人を卑下する言葉ばっかりすぐ出てくるの?我、貴様らの愛する女ぞ?」
「ちなみに帰ったらあんたの挙動を報告するように言われてるからそのつもりで」
「べーっだ!ナメてもらっちゃあ困るってなもんよ!私が早々痴態ばっかり晒すと思うなよバーカっひょおおおお?!そこ行くスレンダーな豹のお嬢さんそのお御足で私のこと踏んでみませんかー?♡んむぉぉぉ?!!♡スーパー爆乳牛獣人のお姉さん発見〜〜〜〜!!♡ぜひ特濃ミルクを直飲みでーーーー!!♡」
「はい逮捕」
「アルティさんこいつです」
しゃーねーだろDNAに刻まれてんだって女好きが。
――――――――
サヴァーラニアは、風土的には自然に恵まれ非常に豊かで、ドラグーン王国よりも文化水準は高い。
貴族や公衆浴場じゃなくても、各家庭にお風呂が備え付けられてるのは当たり前。
建物の作りも鉄筋が使われてたりするし。
「先進国って感じする〜」
「それを文明の先駆者たる天才錬金術師が言うと凄さが薄れるわね」
「いやいや、あたしは未開の道を切り拓いてるだけだから。結局偉いのは切り拓かれた道を整える人たちなんだよね」
「至言ね。あのバカにも傾聴させてやりたいわ」
で、肝心のバカはというと。
「どぅおらあああ!!」
道端で開かれてた腕相撲の大会に飛び入り参加してる。
「うおおおおお!」
「くっ!腕相撲チャンピオン、この巨山のアネモス様とタメを張るパワーだと!こいつ、本当に人間か!」
「てやああああ!」
「頑張れお姉!」
「いけいけー!」
「その調子〜♡」
沸いてるのはあの周辺だけで、アタシとルウリはひどく冷めた目でリコリスを見やっていた。
「マジ茶番」
「ほんッと…アルティの手綱が無いとやりたい放題ねあいつ」
象の獣人さんには本当に申し訳ないけど、ただのパワー勝負であいつが負けるはずない。
なのに勝負が拮抗してるように見えるのは、少しでも長くお姉さんと接触していたい、汗ばんだ匂いを嗅いでいたいっていう下種い衝動に基づいた欲望だ。
「何かしら、こう…イライラするわね…」
「嫁がいつも殴ってるからそれでストレス緩和されてたのわかるわぁ」
あのまま腕へし折られないかしら、なんて願いが叶うはずもなく。
「っしゃおらぁ!」
「くっ!この巨山のアネモスを下すとは…お前こそがチャンピオンだ!」
「チャンピオン!」
「チャンピオン!」
「浴びる照明!受けて立つ挑戦!しようぜ冒険!沈黙するお前は死体同然!イェア!」
「テンション上がりきってゴミみたいなラップする姫、と」
「あとで録画見て笑ってやりましょうね」
「オラオラどうしたー!かかってこいよー!」
「よし次はおれだ!」
「おれにやらせろ!」
「男は寄ってくんな腕ごともぎ取られてぇのか!!!」
ただの暴君にため息をつくと、人込みの向こうで手が上がった。
「はいはーい!私わたし!私が相手しまーす!」
「おー威勢がいいねー!かかってこい…って、おおう?!」
「ありゃ?リコリスさん?リコリスさんだ!」
「クルーエル?!」
「マリアも?おーい隊長〜!隊長ってば〜!早く来てくださいよ〜!」
どんな物好きが名乗り出たのかと思ったら…合縁奇縁。
「なんだ騒々しい…なっ、ド、ドロシー様?!」
「久しぶりね、アウラ」
偶然ってあるのね、って。
エルフの皇族直属の騎士、森羅騎士団との再会に肩を落とした。
っぱシリアスしながらもギャグしちゃうのがリコリスさんですよね。
久々に欲望全開なリコリスさん書くのたのしー!
というわけで久々の森羅騎士団登場です!
次回もお楽しみに!
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